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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第60話 契約院の内部



《外部管理者――契約院所属》


 馬車の中にいた王都の職員たちが息を呑んだ。


「契約院の人間が……」


 一人が、信じられないという顔で黄金の板を見る。


 契約院は、契約の記録を保管する場所だ。


 不正な借金や、無効な契約を調べる役目も持っている。


 その内部に、黒い契約を操る者がいる。


「所属だけでは足りません」


 アルトは黄金の板へ手をかざした。


「審査対象の役職を表示しろ」


《識別情報の開示範囲を確認》


《外部管理者》


《契約記録の保全権限を保有》


《古代契約資料への閲覧権限を保有》


《複数の返済所へ指示可能》


 王都の職員の表情が、さらに険しくなる。


「限られます」


「何人ですか?」


「正確には確認が必要です。ただ、一般の職員ではありません」


「黒い箱を王都へ運ぶ判断にも関われますか?」


 二人は顔を見合わせた。


「可能です」


「では、今回の輸送依頼そのものを作った可能性があります」


 黒い箱を王都へ運ばせる。


 その途中で、アルトの返済率を十パーセントへ進める。


 第二判定を強制し、黒い箱の所有者にする。


 王都へ着くまでに失敗しても、輸送契約や同行者を利用して十五金貨を回収する。


「最初から、王都へ運ぶことが目的ではなかった」


 契約管理の職員が呟く。


「アルトさんを、箱と一緒に連れてくるためだった?」


「その可能性があります」


 黒い箱だけなら、別の護衛でも運べる。


 それでも契約異常への対応者として、アルトを指名した。


 管理者は、アルトが第三候補だと知っていた。


「輸送依頼を出した記録を確認できますか?」


《王都側の依頼発行記録を検索》


《発行部署――契約院》


《承認者情報――秘匿》


「秘匿を解除しろ」


《外部管理者の権限により保護》


「その権限は停止されています」


 黄金の板が明るくなる。


《仮審査中》


《外部管理者の記録変更権限――停止》


《秘匿処理を解除》


 文字が切り替わる。


《輸送依頼の承認者》


《外部管理者と一致》


「やはり」


 アルトは表示を書き留めるよう頼んだ。


 契約院所属。


 古代契約資料への閲覧権限。


 複数の返済所へ指示できる立場。


 黒い箱の輸送依頼を承認した人物。


「王都へ、この情報を送りますか?」


 王都の職員が尋ねる。


「送りません」


「なぜです?」


「誰へ届くか分からないからです」


 契約院内部に管理者がいる。


 通信を受け取る側にも、協力者がいる可能性がある。


「外門の護衛へは、予定どおり黒い箱を封印設備へ運ばせます」


「管理者が待っているかもしれません」


「だから、封印設備へ入れません」


 職員たちがアルトを見る。


「先ほどは、一時保管すると」


「事情が変わりました」


 封印設備を管理する者が、外部管理者の指示を受けている可能性がある。


 黒い箱を預ければ、そのまま奪われるかもしれない。


「では、どこへ運ぶんですか?」


「外門で止めます」


「王都の外へ置く?」


「人が近づかない場所を、護衛に確保してもらいます」


 黒い箱は王都へ入れない。


 アルトと黄金の板だけが、三つ目の返済所へ向かう。


「返済所にも契約具があります」


 治癒師が言った。


「はい」


「二つの契約具を離しておくためですね」


「それだけではありません」


 黒い箱を王都へ入れれば、街の契約記録と接続する可能性がある。


 関所地下の台座と近づけるだけでも、管理権限の統合が始まると表示されていた。


 王都にある契約具と接続すれば、どれほど影響が広がるか分からない。


「外門の護衛へ、指示を変えます」


 通信文には、理由をすべて書かない。


 黒い箱を王都内へ入れない。


 契約院の封印設備へ運ばない。


 外門から十分に離れた空き地を封鎖し、誰も近づけない。


 契約院からの新たな命令には従わず、黄金の板を持つアルト本人の確認を待つ。


《通信を送信》


「契約院からの命令に従うなと伝えて、護衛が信じるでしょうか」


「輸送契約に記録します」


 アルトは黄金の板へ手をかざした。


「黒い箱に異常が発生しているため、輸送中止の権限を行使する」


《契約異常を確認》


《輸送中止条件を満たしています》


《現場判断者――アルト》


《王都内への搬入を中止》


 正式な契約記録となった。


 これなら、外門の護衛も契約院から責任を問われにくい。


「王都へ入ったあと、信用できる人はいますか?」


 アルトが二人の職員へ尋ねる。


 すぐには答えが返らなかった。


「役職ではなく、人としてです」


「一人います」


 職員の一人が答えた。


「古い契約の研究には関わっていません。返済記録の照合を担当しています」


「もう一人は?」


 別の職員も慎重に口を開いた。


「契約院の外部監査を担当する者なら、管理者の直接の部下ではありません」


「名前は、今は言わないでください」


 馬車の中でも、黒い箱や別の契約具に聞かれている可能性は残る。


「王都へ到着したあと、別々に連絡してください」


「二人へ同じ内容を?」


「いいえ」


 一人には、三つ目の返済所の契約記録を確認させる。


 もう一人には、黒い箱の輸送依頼を承認した記録を保全させる。


「片方が管理者側でも、すべての情報は渡りません」


「私たちも疑われているんですね」


「はい」


 アルトは隠さなかった。


「俺も含めて、今は誰も完全には信用できません」


 第二候補自身も、自分を信用するなと言った。


 管理者の命令を拒めない者は、本人の意思に関係なく危険になる。


「俺が不自然な指示を出した場合も、黄金の板で確認してください」


「アルトさんまで?」


「黒い箱の所有権が四十五パーセント移っています」


 右手首には、今も黒い輪が残っている。


 管理者がそのつながりを利用して、アルトの言葉や判断へ干渉する可能性もある。


「自分の命令を疑えということですか?」


「契約を根拠にしていない命令には、すぐ従わないでください」


 治癒師が頷く。


「身体強化を使って走ると言い出した場合も、従いません」


「それは契約異常とは関係ありません」


「判断能力の低下として扱います」


「低下していません」


「今は、です」


 王都の職員たちが、わずかに表情を緩めた。


 だが、黄金の板へ新しい表示が現れると、再び緊張が戻る。


《外部管理者から仮審査への異議》


《候補者二名の合意は無効》


「理由は?」


《第二候補は管理命令への拒否権を失っています》


《外部管理者への審査同意も、管理命令への拒否に該当》


「第二候補の同意は無効だと言っています」


 契約管理の職員が言う。


 第二候補は、管理者の命令へ逆らえない。


 そのため、管理者を審査することにも同意できない。


 そう主張している。


「第二候補は、管理権限を一時放棄したあとに同意した」


 アルトは答えた。


《拒否権の担保契約は継続中》


「管理権限を持っていなくても?」


《第二判定契約が解除されるまで継続》


 管理者の主張には筋が通っているように見えた。


 第二候補が拒否権を失っている限り、管理者へ不利な選択は無効。


 それでは、第二候補は永遠に管理者を審査できない。


「仮審査の規則を表示しろ」


《複数候補者の合意》


「拒否権を持つ候補者に限定しているか?」


《記載なし》


「管理命令に従っている状態でも、候補者であることは変わらない?」


《確認》


「同意の内容を理解していたか?」


《確認》


「本人の意思で宣言したか?」


《確認》


「なら、候補者としての同意は成立している」


《異議》


「管理者に不利だから無効にする規則はあるか?」


《なし》


 黄金の板が強く輝いた。


《仮審査への異議を却下》


《外部管理者の権限停止を継続》


 管理者は、規則を利用して第二候補の同意を消そうとした。


 だが、今回は失敗した。


「相手も焦っています」


 アルトが言う。


「正体を隠せなくなったからでしょうか」


「それだけではありません」


 管理者の権限が止まっている間は、新しい債務を作れない。


 記録も消せない。


 王都へ着けば、これまで隠してきた証拠を調べられる。


「到着前に、こちらを止めようとします」


 その言葉と同時に、馬車が大きく揺れた。


 御者が手綱を引く。


「前方に人がいます!」


 街道の先。


 夜明けの薄い光の中に、複数の馬車が並んでいた。


 道を完全に塞いでいる。


 馬車の側面には、契約院の印が描かれていた。


「王都からの迎えです!」


 前方から声が響く。


「危険な契約魔道具と、契約継承者候補アルトを保護します!」


 王都の職員たちが顔を見合わせる。


「迎えを要請していません」


 アルトは黄金の板を見た。


《外部管理者の権限は停止中》


《新規命令の発行――不可》


 前方の者たちは、権限が止められる前に出された命令で動いている。


 あるいは、契約ではなく普通の命令として派遣された。


「止まってください!」


 前方の馬車から、再び声が飛ぶ。


「黒い契約魔道具を引き渡しなさい!」


「命令書を地面へ置いてください!」


 アルトが返す。


「契約院の正式命令です!」


「黄金の板で確認します!」


 相手は命令書を出さなかった。


 代わりに、馬車から十人近い者たちが降りる。


 武器を持つ者。


 契約書の束を持つ者。


 そして中央には、顔を隠していない一人の職員が立っていた。


 同行している王都の職員が、息を呑んだ。


「知っている人ですか?」


 アルトが尋ねる。


「はい」


 職員の声が震える。


「あの人は、古代契約資料の保管責任者です」


 黄金の板が強く反応した。


《仮審査対象を確認》


《外部管理者の識別情報と一致》


 黒い契約を操っていた本人が、王都へ到着する前にアルトを迎えに来ていた。


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