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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第59話 保証を負うべき者



《金銭担保》


《技能担保》


《返済率五パーセント分の権利》


 アルトは三つの選択肢を見つめた。


 金を差し出す。


 技能を差し出す。


 これまで返済した十五金貨分を、なかったことにする。


 どれを選んでも、黒い契約の管理者だけが得をする。


「触らないでください」


 治癒師が言った。


「触りません」


「ですが、選ばなければ封印が解除されるのでは?」


 黄金の板の上では、黒い亀裂が少しずつ広がっている。


《保証選択を待機》


《未選択の場合》


《管理権限の封印を解除》


 時間の表示はない。


 それでも、いつまでも考えられる状況ではなかった。


「なぜ保証が必要なんですか?」


 契約管理の職員が尋ねる。


「管理権限を誰も使えないようにしたことで、損失が発生するという扱いでしょう」


「誰の損失です?」


「外部管理者です」


 新しい債務を作れない。


 担保を徴収できない。


 契約記録を変更できない。


 その状態を維持するための保証を、アルトへ払わせようとしている。


「おかしいですね」


 治癒師が言った。


「何がですか?」


「権限を封印しなければならなくなった原因は、管理者ではありませんか?」


 アルトは黄金の板を見る。


 第二候補へ百金貨の債務を作った。


 王都の人々へ借金を発行しようとした。


 代理署名で強制的に契約を確定させようとした。


 管理権限を危険な方法で使用したのは、外部管理者だった。


「保証を負うべき人間が違います」


 アルトは左手を黄金の板へかざした。


「管理権限が封印された原因を照合しろ」


《第二候補による管理権限の一時放棄》


「その理由は?」


《代理署名の停止》


「代理署名が必要になった理由は?」


《第二候補の債務確定》


「その債務は誰が発行した?」


《外部管理者》


「王都全域への徴収を命じたのは?」


《外部管理者》


 黒い亀裂の動きが、わずかに遅くなった。


「管理権限が危険な状態になった原因は、外部管理者にある」


《異議》


「異議の内容を表示しろ」


《第二候補は第二判定の条件を理解して承諾した》


「第二候補が管理権限を受け取ったことと、管理者が新しい債務を作ったことは別だ」


《管理命令への拒否権は担保指定済み》


「拒否できない相手へ、王都全域を巻き込む命令を出した」


《契約上可能》


「可能なら、何をしても違反ではないのか」


 黄金の板が明るくなる。


《古代契約規則を照合》


 アルトは続けた。


「管理権限は、契約を管理するためのものだ。無関係な人間へ借金を作るためのものではない」


《債務発行権限を含みます》


「発行できることと、理由なく発行していいことは同じではない」


 王都の十五人へ作られた一金貨の債務。


 返済手続きに偽装されていた。


 関所地下の七人。


 説明されていない使用料を背負わされた。


 外套の五人。


 失敗時に生命力まで徴収されることを隠されていた。


「管理者は、何度も契約目的を偽装している」


《確認》


「重要条件を隠している」


《確認》


「本人の同意なしに、第三者へ債務を移そうとした」


《確認》


「その違反を止めるために、管理権限を封印した」


《確認》


「なら、封印維持の保証を負うべきなのは外部管理者だ」


 黄金の光が、板全体へ広がった。


《保証責任を照合》


《管理権限封印の原因》


《外部管理者による重大な権限乱用》


《保証責任者――外部管理者》


 黒い亀裂が止まった。


 三つの選択肢が消える。


《契約継承者候補アルトへの保証要求を撤回》


《外部管理者へ保証を要求》


「止まりました」


 契約管理の職員が息を吐く。


 だが、アルトは板から目を離さなかった。


 管理者が素直に保証するとは思えない。


《外部管理者――保証を拒否》


《管理権限の封印を維持できません》


「拒否すれば解除されるのか?」


《保証なき権限保管は規則違反》


「では、管理者が担保を出すまで、管理権限そのものを停止しろ」


《権限の消失は認められません》


「消失ではない」


 アルトは言った。


「管理者が保証を拒否している間だけ、凍結する」


《凍結期間を指定してください》


「管理者が、自分の権限乱用について審査を受けるまで」


《審査機関が未指定です》


「黄金の板が審査する」


《判定記録用契約具に、外部管理者を裁定する権限はありません》


「では、誰にある」


 文字がしばらく現れなかった。


 黄金の板の奥で、何かを探しているように光が揺れる。


《契約継承者》


「候補ではなく?」


《正式な契約継承者》


 第二判定でも、第三判定でもない。


 すべての判定を終えた者だけが、外部管理者の権限を審査できる。


「正式な継承者は現在いるのか」


《不在》


「だから管理者は、誰にも裁かれない?」


《現状では》


 外部管理者は、正式な継承者がいない間に契約を好き勝手に使っている。


 候補者を作り、管理権限を与え、拒否権を奪う。


 そして都合が悪くなれば、新しい借金を背負わせる。


「正式な継承者が決まるまで、仮の審査はできないのか」


《複数候補者の合意があれば可能》


 アルトは顔を上げた。


「必要な人数は?」


《生存中の候補者の過半数》


 現在、生きている候補者は三人。


 第一候補。


 第二候補。


 第三候補であるアルト。


 過半数なら、二人の同意で足りる。


「第二候補と俺が同意すれば、管理者を審査できる」


《確認》


「第一候補が所在不明でも?」


《生存記録があるため、候補者数に含みます》


 二人で足りる。


 問題は、第二候補との接続が切られていることだった。


「王都へ着けば、本人から同意を得られます」


「それまで封印は?」


 治癒師が尋ねる。


 黄金の板には、まだ黒い線が残っている。


《保証未成立》


《管理権限封印の維持期限――二時間》


「王都まで半日です」


 契約管理の職員が言う。


「間に合いません」


 アルトは表示を見つめた。


 候補者二人の合意。


 直接会う必要があるとは書かれていない。


「王都側から、第二候補の言葉を記録できないか」


《候補者本人の契約印による署名が必要》


「契約印は返済所の中にある」


《確認》


 返済所の外にいる者が、第二候補へ呼びかける。


 本人が管理者審査への同意を宣言する。


 その意思を契約印へ記録できれば、黄金の板へ送れる可能性がある。


「王都へ通信してください」


 アルトは王都の職員へ告げた。


「第二候補へ、外部管理者の仮審査へ同意するよう伝えてください」


「本人の契約印へ署名させる必要があります」


「返済所の中へ紙を入れるのは危険です」


「紙は使いません」


 契約印そのものへ、本人の意思を記録する。


 声だけで可能かを黄金の板へ確認する。


《契約印への音声記録》


《本人確認ができれば可能》


「名前が分かりません」


《契約印による本人確認を使用》


 返済所の外から呼びかける。


 第二候補が自分の意思で同意を口にする。


 契約印が本人の声を確認する。


「送ってください」


 通信文がまとめられる。


 外部管理者の権限乱用について、候補者による仮審査を行う。


 第二候補は同意を明言する。


 その声を自身の契約印へ登録する。


《通信を送信》


 黄金の板に表示された期限は減り続ける。


《封印維持期限――一時間五十九分》


「返事が届くまで、休んでください」


 治癒師が言った。


「考えることがあります」


「座ったままにしてください」


「座っています」


「身体の力を抜いてください」


 アルトは背もたれへ身体を預けた。


 右肩と右足の痛みは続いている。


 王都へ着けば、さらに動かなければならない。


 ここで体力を使い切るわけにはいかない。


「管理者を審査できれば、何ができますか?」


 契約管理の職員が尋ねる。


「権限を停止できるか確認します」


《仮審査で可能な処分》


《管理権限の一時停止》


《契約記録変更の禁止》


《新規債務発行の禁止》


《強制徴収の禁止》


「王都へ着くまでの時間を作れます」


「管理者の正体も分かりますか?」


《審査対象の識別情報を開示》


 アルトの指が動いた。


 外部管理者が誰なのか。


 少なくとも、契約上の識別情報は明らかになる。


「第二候補が同意すれば、黒幕へ近づけます」


 馬車は走り続ける。


 空が少しずつ明るくなる。


 黄金の板に表示された時間は、残り一時間半を切った。


 まだ王都から返事はない。


《封印維持期限――一時間二十分》


《一時間十分》


《一時間》


 アルトは何度も通信の表示を確認した。


「焦っても届く時間は変わりません」


 治癒師が言った。


「分かっています」


「分かっている顔ではありません」


 五十分。


 四十分。


 残り時間が減っていく。


 管理権限が外部管理者へ戻れば、王都の人々への債務発行が再開される。


 三十分を切ったところで、黄金の板が光った。


《王都からの通信を受領》


《第二候補へ呼びかけを実施》


《返済所内部から返答あり》


 アルトは身体を起こした。


《第二候補が仮審査への同意を宣言》


《契約印への記録を確認》


 続いて、黄金の板に二つの印が並ぶ。


《第二候補――同意》


《第三候補アルト――未選択》


 アルトは自分の印へ手をかざした。


「外部管理者の権限乱用について、仮審査を行うことへ同意する」


《第三候補アルト――同意》


《生存候補者の過半数に到達》


《外部管理者への仮審査を開始》


 黒い亀裂が黄金の板から剥がれ落ちる。


《審査中、外部管理者の権限を停止》


《新規債務発行――禁止》


《強制徴収――禁止》


《契約記録変更――禁止》


 管理権限の封印維持期限が消えた。


 王都全域への徴収も止まる。


 そして、板の中央へ新しい表示が現れた。


《審査対象の識別情報を開示》


《外部管理者――契約院所属》


 馬車の中にいた王都の職員たちが息を呑んだ。


 黒い契約を操っていた者は、外部の犯罪者ではない。


 契約を管理し、人々を守るはずの組織。


 その内部にいた。


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