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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第58話 管理する側にはならない



《管理権限の移転先を検索》


《第一候補――接続なし》


《第二候補――放棄》


《第三候補――アルト》


 アルトの右手首に、黒い文字が浮かび上がった。


《管理権限を移転します》


《債務発行》


《担保指定》


《強制徴収》


《契約記録の変更》


 以前、黒い箱から提示された権限と同じだった。


 だが、今度は承諾も拒否も表示されていない。


「移転を拒否します」


《候補者への管理権限移転》


《拒否権なし》


 アルトは右手を黄金の板へかざした。


「俺は第二判定を終えていない」


《確認》


「管理権限を得る条件は、第二判定の完了ではないのか」


《確認》


「なら、条件を満たしていない」


《緊急時の暫定移転》


「緊急時の規則を表示しろ」


 黄金の板の表面に、細かな文字が並んだ。


《管理権限の保持者が不在となった場合》


《次順位の契約継承者候補へ暫定移転》


《候補者は、危機が解消されるまで権限を保持する》


「危機が解消されたかどうかを決めるのは誰だ」


《外部管理者》


 治癒師が眉を寄せた。


「一度受け取れば、管理者が危機は終わっていないと言い続けられます」


「はい」


 暫定と書かれていても、返す時期を相手が決める。


 それでは永久に持たされる可能性がある。


《管理権限の移転率――一パーセント》


 アルトの右手首に、細い黒線が増えた。


 黒い箱の所有権とは別の印。


 今度は手のひらへ向かって伸びている。


「止める方法は?」


 契約管理の職員が黄金の板を確認する。


「次順位の候補ではなくなれば、移転先には選ばれません」


 王都の職員が言った。


「候補を辞退できるのでしょうか」


 アルトは黄金の板へ問いかけた。


「契約継承者候補を辞退する」


《候補者登録の解除》


《債務完済後のみ可能》


「借金を返し終わるまで、候補からは外れられません」


《管理権限の移転率――三パーセント》


 黒い線が手のひらの中央へ近づく。


「第二候補へ戻すことは?」


《第二候補による管理権限の一時放棄中》


「一時的なら、本人が再び受け取れる」


《確認》


 第二候補は管理権限を完全に捨てたわけではない。


 代理署名を止めるため、一時的に放棄しただけだ。


「本人が管理権限を再取得すれば、俺への移転は止まるか」


《確認》


「ですが、再取得させれば、また管理者の命令を拒めなくなります」


 治癒師が言った。


「同じ状態へ戻すつもりはありません」


 アルトは黄金の板を見つめた。


 第二候補へ権限を戻す。


 アルトが受け取る。


 その二つしか選択肢がないように見える。


 だが、管理権限は誰かが持たなければならないという前提そのものが、管理者によって決められた規則だった。


「管理権限を、誰にも移さず停止できるか」


《管理者不在となります》


「すでに外部管理者がいる」


《外部管理者と現場管理者は別権限》


「現場管理者がいなければ、何が起きる」


《新規債務発行の遅延》


《徴収処理の遅延》


《契約記録変更の停止》


 危険ではない。


 むしろ、今起きてほしい状態だった。


「権限を保持する必要はない」


《契約具の運用に支障が発生します》


「運用を止める」


《非効率》


「止めることが目的だ」


 黄金の板が一度、強く光った。


《管理権限の保管先を指定してください》


「保管?」


 人間へ移さず、どこかへ置いておくことができるらしい。


「黄金の板へ保管できますか?」


《判定記録用契約具》


《管理権限の保持――可能》


「黄金の板が黒い契約具と同じ権限を持つことになります」


 契約管理の職員が不安そうに言った。


「板が債務を発行する可能性は?」


「確認します」


《管理権限の保管中》


《権限の行使――不可》


《契約照合のみ可能》


「使えない状態で保管できます」


 アルトはすぐに告げた。


「管理権限を黄金の板へ移せ。行使は禁止する」


《契約継承者候補の指示を確認》


《暫定管理権限を封印保管》


 アルトの手のひらへ伸びていた黒い線が止まった。


 ゆっくりと腕を戻り、黄金の板へ吸い込まれていく。


《管理権限の移転率――零パーセント》


《管理者不在》


《新規債務発行――停止》


《強制徴収――停止》


 馬車の中に、安堵の声が漏れた。


「王都の契約具も止まりましたか?」


 アルトが尋ねる。


《現場管理権限を必要とする処理――停止》


《外部管理者による直接操作――可能》


「完全には止まっていません」


 だが、新しい債務を大量に発行するためには、外部管理者が直接操作しなければならない。


 これまでのように第二候補の権限を利用することはできない。


「第二候補へ伝えられますか?」


《接続遮断中》


「王都側から、声をかけてもらいます」


 管理権限は黄金の板へ封印された。


 再び受け取る必要はない。


 そのことを第二候補へ知らせれば、無理に権限を取り戻そうとはしないはずだ。


 王都へ短い通信を送った。


《管理権限を別の契約具へ封印》


《第二候補は権限を再取得しないこと》


《返済所内部の人命を優先》


 返事を待つ間も、馬車は走り続けた。


 夜が深くなる。


 街道の両側は暗く、護衛が持つ灯りだけが進む道を照らしている。


「王都までの距離は?」


 アルトが尋ねる。


「このまま進めば、夜明け過ぎには外壁が見えます」


 御者が答えた。


「馬は?」


「交代したばかりなので、しばらくは走れます。途中で一度、水を飲ませる必要があります」


「その時間は取ってください」


「急いでいるのでは?」


「馬が倒れれば、黒い箱を運べません」


 急ぐことと、無理をすることは違う。


 アルトは右足を伸ばしたまま、黄金の板へ目を戻した。


《第二候補の一時引受け債務》


《百二十三金貨》


《正式署名――なし》


《現場管理権限の封印により、代理署名処理を停止》


「第二候補の借金は、まだ確定していません」


「二十三人の借金は?」


《第二候補への一時移転中》


「その状態は、いつまで続く?」


《管理者による処理再開まで》


 外部管理者が直接操作すれば、二十三人へ戻すこともできる。


 あるいは、第二候補へ強制的に確定する別の方法を探すかもしれない。


「王都へ着いたら、最初に二十三人の債務を無効化します」


「第二候補より先ですか?」


 治癒師が尋ねた。


「はい」


 第二候補自身も、それを望んでいるはずだ。


 自分を助けるより、返済所に閉じ込められた人々を先に助けようとしていた。


「そのあと、第二候補の百金貨を調べます」


「百金貨を無効にできるでしょうか」


「署名した理由が脅迫だったことは分かっています」


「ですが、内容を理解して署名しています」


「署名しなければ十人へ徴収すると言われた」


 選択肢が二つあっても、どちらも拒否できなければ自由な契約とは言えない。


 ただし、黄金の板が同じ判断をするとは限らない。


 第二候補が何を見て、何を説明され、どこまで承諾したのか。


 本人から確認する必要がある。


「到着後の順番を決めます」


 アルトは契約管理の職員へ記録を頼んだ。


 一つ目。


 返済所を外から封鎖し、誰も契約書へ触れさせない。


 二つ目。


 黄金の板で、内部二十三人の債務を無効化する。


 三つ目。


 黒い契約具を封印し、第二候補との接続を切る。


 四つ目。


 第二候補の百金貨の契約を確認する。


「黒い箱はどうしますか?」


 王都の職員が尋ねる。


「返済所へ近づけません」


「契約院の封印設備へ先に運ぶ?」


「はい。ただし、所有権争いが残っています」


 アルトと黒い箱。


 どちらも所有者になることを拒否している。


 処分は禁止されたままだ。


「封印設備へ入れるだけなら可能ですか?」


《一時保管――可能》


《破壊・改造・権限変更――禁止》


「保管だけならできます」


 黒い箱を契約院へ。


 アルトと黄金の板は返済所へ。


 輸送隊を王都到着後に分けることになる。


「護衛も分けますか?」


「黒い箱に二人。俺に一人」


「三人しかいません」


「契約院の護衛を使ってください」


「王都へ到着前に要請しておきます」


 通信が送られた。


 しばらくして返事が届く。


《契約院の護衛を外門へ配置》


《黒い契約魔道具を封印設備へ誘導》


《三つ目の返済所周辺を立入禁止》


 今度の指示は、返済所を通していない。


 契約院から直接、別の人員へ伝えられた。


「返済所の中から反応は?」


《扉と窓の封鎖継続》


《内部二十三名の生命反応――あり》


《第二候補の生命反応――あり》


 全員、生きている。


 だが、いつまで安全かは分からない。


 馬車が水場へ止まった。


 馬へ水を飲ませ、車輪を確認する。


 その間も、アルトは馬車から降りなかった。


「少しは学びましたね」


 治癒師が言う。


「降りてもできることがありません」


「以前なら、車輪の確認まで自分でしていたでしょう」


「専門の人に任せたほうが早いです」


「その考えを忘れないでください」


 治癒師が右足の包帯を確認する。


 腫れはまだある。


 だが、先ほどより悪化してはいなかった。


「王都へ着いても、走らないでください」


「走れません」


「身体強化を使えば走れます」


「使いません」


「誰かを助けるためでも?」


 アルトは一瞬、答えを止めた。


「使わなければ助けられない状況なら、最小限だけ」


「使用前に私へ伝えてください」


「時間があれば」


「伝えてください」


「……分かりました」


 馬車が再び動き出す。


 空の端が、わずかに明るくなり始めた。


 夜明けが近い。


 そして、その向こうに王都がある。


 黄金の板へ、新しい表示が現れた。


《外部管理者による直接操作を確認》


《封印保管中の管理権限へ干渉》


 板の表面に、黒い亀裂のような線が走った。


「権限を取り戻そうとしています!」


 契約管理の職員が板を支える。


《管理権限の封印を解除します》


《解除権限――外部管理者》


 アルトは黄金の板へ手をかざした。


「解除を拒否する!」


《保管指示者の拒否を確認》


《外部管理者との権限競合》


 黄金の光と黒い線が、板の上で押し合う。


 その中央に、別の文字が浮かんだ。


《管理権限を維持するため》


《契約継承者候補による保証が必要》


「保証とは何だ」


《保証担保――十五金貨》


 管理権限を封印したままにしたければ、アルトが十五金貨を担保にしろ。


 管理者はまた、同じ金額を要求してきた。


 だが、今回はアルトの手首ではない。


 黄金の板の上に、三つ目の選択肢が現れた。


《金銭担保》


《技能担保》


《返済率五パーセント分の権利》


 どれを選んでも、アルトが積み上げたものを差し出す契約だった。


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