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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第56話 追うべきもの



《そいつを追うな》


《契約具は、まだ返済所の中にある》


《王都全域への債務発行まで》


《残り二十四時間》


 期限が、一日早まっていた。


「なぜ短くなった」


 アルトは黄金の板へ問いかけた。


《新規債務の発行失敗》


《管理者が処理を前倒し》


 王都の十五人へ押しつけようとした借金を無効にした。


 そのため、管理者は準備を急いだらしい。


「身元不明者は、どうしますか?」


 王都の職員が尋ねる。


「追いません」


「管理者につながる人物かもしれません」


「だからこそです」


 第二候補は、契約具が返済所に残っていると警告した。


 逃げる人間を追わせ、その間に契約具を動かすつもりかもしれない。


「返済所の監視を続けてください」


「中には入りませんか?」


「王都側の人員だけで入れば、契約を作られる危険があります」


「では、アルトさんの到着まで待つ?」


「残り二十四時間です」


 現在地から王都までは、交代の馬を使っても一日近くかかる。


 途中で何か起きれば間に合わない。


「黄金の板だけを先に運べませんか?」


 治癒師が尋ねた。


 アルトは板を見る。


 黄金の板が王都へ先に到着すれば、偽装契約を見抜ける。


 だが、アルトと離れても同じ力を使えるかは分からない。


「俺がいなくても、契約違反を判定できるか」


《通常の契約照合――可能》


《契約継承者候補の権限を必要とする処理――不可》


「債務を無効にするには?」


《契約内容によって異なります》


 返済所の契約具が、単純な偽装契約だけを使うとは限らない。


 アルトの権限が必要になる可能性が高い。


「板だけを送るのは危険です」


「では、急ぐしかありません」


「はい」


 アルトは地図を広げてもらった。


 現在地から王都までの経路。


 人里を避ける遠回り。


 最短の街道。


 救出した怪我人を乗せた馬車。


 黒い箱を運ぶ荷台。


 すべてを考えれば、速度には限界がある。


「救出した人たちを、補給隊へ引き渡します」


「合流はまだ先です」


 王都の職員が答える。


「通信で位置を変更してください。こちらへ近づいてもらう」


「黒い箱の影響を受ける可能性があります」


「荷台から距離を取った場所で引き渡します」


 怪我人を連れたまま急げば、治療も輸送も中途半端になる。


 安全な場所まで一緒に運ぶ予定だった。


 だが、今は王都全体が危険にさらされている。


「救出したばかりなのに、置いていくんですか?」


 治癒師の声は責めるものではなかった。


 確認しているだけだった。


「補給隊に治療できる人がいなければ、引き渡しません」


「確認します」


「食料と薬も、必要な分を渡します」


「王都までの分が減ります」


「足りない物は、補給隊から受け取ります」


 アルトは帳面の所有者となっている職員へ視線を向けた。


「人数と物資を計算してください」


「すぐに」


 職員が書き始める。


 治癒師も薬の残量を確認した。


 自分一人ですべてを決めるのではない。


 必要な判断を、それぞれへ任せる。


「護衛は三人です」


 王都の職員が言った。


「速度を上げれば、魔物への警戒が薄くなります」


「先頭を二人。黒い箱の荷台に一人」


「人員用の馬車は?」


「俺が警戒します」


「索敵は弱くなっています」


「分かっています」


「怪我も治っていません」


 治癒師が続ける。


「戦闘になっても、身体強化は使えません」


「使いません」


「剣も?」


「抜く必要がないように、早めに止めます」


 索敵の範囲が狭くなっても、完全に失ったわけではない。


 異常を感じた時点で馬車を止める。


 護衛へ確認させる。


 自分が戦うのではなく、判断へ使う。


「十五分ごとに、状態を確認します」


 治癒師が言った。


「俺の?」


「あなたと怪我人の両方です」


「分かりました」


 通信具から返事が届いた。


《補給隊、経路を変更》


《合流予定――三時間後》


《交代馬――四頭》


《治療担当者――一名》


 条件は整った。


「三時間後に、怪我人を引き渡します」


 アルトは救出された者たちへ説明した。


「皆さんを置き去りにするつもりはありません。王都から来る補給隊に、街まで送ってもらいます」


「あなたたちは?」


「王都へ向かいます」


「黒い契約具を止めるためか?」


「はい」


 七人のうち、馬車に乗っていた男が身体を起こした。


「俺たちを助けたせいで、遅れたんじゃないのか」


「違います」


「だが――」


「あなたたちを見捨てて進んでも、関所の契約具が残っていました」


 管理者は、そこから別の債務者を作り続けただろう。


「助けたことを、遅れた理由にはしません」


 男は何も言わず、頭を下げた。


 輸送隊は速度を上げた。


 馬車の揺れが強くなる。


 アルトの右肩と右足にも、振動のたびに痛みが走った。


「痛みは?」


 治癒師が尋ねる。


「あります」


「強さは?」


「歩くよりはましです」


「答えになっていません」


「先ほどより少し強い」


 治癒師が固定具を調整する。


「悪化したら、速度を落とします」


「王都へ間に合わなくなります」


「あなたが動けなくなっても間に合いません」


 アルトは頷いた。


 十五分後。


 再び状態を確認する。


 痛みは変わらない。


 さらに十五分。


 右足の腫れが少し増えた。


「次の確認で悪化していたら、速度を落とします」


「分かりました」


 約束どおり答えた。


 そのとき、黄金の板へ王都からの報告が届いた。


《身元不明者を追跡せず》


《三つ目の返済所を監視中》


《職員一名が、契約書の束を持って裏口から退出》


「契約具を持ち出した?」


 王都の職員が言った。


「違うかもしれません」


 第二候補は、契約具が返済所の中にあると伝えていた。


「その職員を止めますか?」


 アルトはすぐには答えなかった。


 人間は追うな。


 契約具を優先しろ。


 その警告に従うなら、契約書を運ぶ職員も追うべきではない。


 だが、束の中に王都の人々の契約情報が入っている可能性がある。


「契約書の所有者を確認できますか?」


《距離により直接照合不可》


「監視者に触れさせるわけにはいきません」


「外見と進行方向だけ記録してください」


 王都へ返信を送る。


 職員を拘束しない。


 契約書へ触れない。


 向かった場所だけを確認する。


 しばらくして報告が届いた。


《職員は返済所から二百歩進行》


《契約書の束を地面へ置いた》


《そのまま返済所へ戻る》


「置いた?」


「誰かへの受け渡しでしょうか」


 続きが表示される。


《契約書の束が、自力で移動を開始》


 アルトの表情が変わる。


 契約書は風で飛んだのではない。


 一冊の束として、地面を這うように動いている。


《移動方向――王都中央》


《複数の契約情報を運搬中》


「止めなければ、王都全域への債務発行に使われます」


「ですが、触れれば契約される可能性があります」


 アルトは黄金の板へ問いかけた。


「契約情報を運ぶ書類を、外部から止められるか」


《物理的な破壊――可能》


《記録消失の危険あり》


「燃やせば?」


《契約情報が別の記録へ移転する可能性あり》


「封じる方法は?」


《契約のない容器へ隔離》


「契約のない容器?」


《所有者》


《使用目的》


《返却義務》


《管理契約》


《いずれも登録されていない物》


 所有者のいない箱や袋。


 だが、王都の中にある物のほとんどには持ち主がいる。


「新しく作ればいい」


 アルトが言った。


「木材だけを使い、誰の所有物にも登録しない容器を作る。作った人間も、完成後は所有権を放棄する」


「時間がかかります」


「簡単な木箱でいい。釘も使わず、板を組み合わせるだけにしてください」


 王都へ指示を送る。


 契約書へ直接触れない。


 長い棒で無所有の木箱へ押し込む。


 蓋を閉じたあと、黄金の板が到着するまで近づかない。


《指示を受領》


 馬車は王都へ向けて走り続ける。


 しばらくして、補給隊との合流地点が見えてきた。


 交代の馬。


 食料。


 治療用の馬車。


 怪我人を引き渡す準備が始まる。


 アルトは馬車から降りようとした。


「座っていてください」


「状態を確認します」


「私が確認します」


 治癒師は救出された者たちの状態を、補給隊の治療担当者へ一人ずつ伝えた。


 薬の種類。


 使用した量。


 黒い契約による跡。


 再発行禁止の記録。


 引き渡しは短時間で終わった。


 交代の馬をつなぎ、物資を積み替える。


「出発できます」


 御者が言った。


 その直後。


 黄金の板へ王都からの報告が届いた。


《移動する契約書を無所有の木箱へ隔離》


《移動停止》


 安堵する間もなく、次の文字が現れる。


《三つ目の返済所に変化》


《入口を封鎖》


《内部の職員と利用者、退出不能》


「閉じ込められた……」


《返済所内部から債務発行を開始》


《第一対象――内部にいる二十三名》


《一人につき――金貨一枚》


 王都全域へ広げる前に、まず返済所の中にいる者たちから徴収するつもりだ。


「救出できますか?」


 王都の職員が尋ねる。


「今の俺たちでは、まだ届きません」


 アルトは黄金の板を見つめた。


 残り二十四時間ではない。


 すでに、徴収は始まっている。


 第二候補から、短い接続が届いた。


《私が二十三人分を引き受ける》


《その間に来てくれ》


 続いて、別の表示が重なる。


《第二候補の債務を追加》


《百金貨から――百二十三金貨へ変更》


 第二候補は、自分の借金を増やして時間を稼いでいた。


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