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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第55話 返済所からの返事



《返済所の職員を信用するな》


 第二候補から届いた短い警告を見て、アルトは王都からの返信を読み直した。


《該当返済所へ確認》


《異常なし》


《三つ目の返済所は、本日も通常どおり営業中》


 返済所が本当に安全なら、第二候補が警告する理由はない。


 すでに黒い契約具の影響を受けている。


 あるいは、職員の中に管理者へ協力している者がいる。


「王都へ、もう一度通信を送ります」


 アルトが言うと、王都の職員が通信具を準備した。


「返済所へ直接確認してはいけません」


「では、誰に送りますか?」


「契約院の別の部署へ。返済所を通さず、第三者に確認させてください」


「何を確認するのですか?」


「返済所の中へ入らず、外から人の出入りを記録する。職員へ話しかけない。契約書にも触れない」


 内部へ踏み込めば、新しい債務を作られる可能性がある。


「閉鎖命令も出さないのですか?」


「返済所の職員が命令を受け取れば、管理者へ伝わります」


「通常どおり営業させる?」


「今は、相手に気づかれていないと思わせます」


 王都全域から契約情報を集めているなら、黒い契約具は準備の途中だ。


 こちらが場所を特定したと知れば、すぐに債務発行を始めるかもしれない。


「外から見張るだけで、何が分かりますか?」


「返済所へ来た人間が、出たあとに何をするかです」


 借金を返しに来た者。


 新たな契約を結びに来た者。


 その全員へ、本人が知らない印がつけられている可能性がある。


「手首の黒い文字を確認するんですね」


「はい。ただし、近づきすぎないように」


 通信文は短くまとめられた。


 返済所への接触禁止。


 外部からの監視。


 退店者に異常が見られた場合のみ、返済所から離れた場所で保護する。


「第二候補については?」


「まだ書きません」


 名前も姿も分からない。


 王都の誰が信用できるか分からない状態で情報を広げれば、第二候補を危険にさらす。


 通信を送ったあと、アルトは黄金の板へ問いかけた。


「三つ目の返済所から発行された、直近の契約を表示できるか」


《外部契約記録を検索》


《閲覧可能範囲――限定》


《直近一時間の契約――三十二件》


「一時間で三十二件?」


 契約管理の職員が表情を変える。


「王都の返済所なら、珍しい数ではないのですか?」


「返済の受付だけならありえます。しかし、新規契約が含まれているなら多すぎます」


「種類を分けて表示しろ」


《返済受付――十一件》


《債務変更――六件》


《新規債務――十五件》


 アルトは数字を見つめた。


 黒い箱が求め続けていた十五金貨。


 今度は、新規債務の件数まで十五だった。


「新規債務の金額は?」


《一件につき――金貨一枚》


《総額――十五金貨》


 管理者は、アルトから十五金貨を回収できなかった。


 ヴァリスたちからも、輸送隊からも取れなかった。


 今度は王都の十五人へ、一金貨ずつ押しつけている。


「その十五金貨を、どこへ入れるつもりだ」


《統合先を検索》


《第三候補アルトの不足返済額》


「俺の借金へ入れるつもりです」


 治癒師が息を呑む。


「第三者からの返済は拒否したはずです」


「これは返済ではありません」


 十五人へ新しい借金を作る。


 その債権を黒い契約具が回収し、アルトの不足分へ充てる。


 金貨そのものを受け取らず、債権同士をつなげようとしている。


「拒否登録を抜けるために、別の債務を作った……」


「まだ確定していない可能性があります」


 アルトは黄金の板へ確認する。


「十五件の債務は、本人の同意を得ているか」


《署名――あり》


《債務内容の説明――なし》


《契約目的――返済手続き》


《実際の処理――新規債務発行》


「返済書類へ署名させ、借金契約として使っています」


「すぐ無効にできませんか?」


「本人たちが、まだ返済所の中にいるかもしれません」


 契約者を確認せずに外から無効化すれば、管理者が別の書類へ債務を移す可能性がある。


「王都へ対象者の保護を頼みます」


「名前は表示できますか?」


《債務者情報――秘匿》


「またですか」


「契約番号は?」


《表示可能》


 十五件の契約番号が黄金の板へ並ぶ。


 番号だけなら、返済所の外部記録と照合できる。


 王都の職員が通信文へ書き写した。


「十五件の契約者を、返済所の外へ出たあと保護。本人へ借金の説明をせず、署名した書類だけを確認する」


「なぜ説明しないのですか?」


「借金があると告げられた瞬間、自分の債務だと思い込まされるかもしれません」


 保管施設の職員も、存在しない借金を表示されたとき、すぐに払おうとした。


 まず契約書を隔離し、黄金の板で無効を確認する必要がある。


 通信を送り終えたところで、治癒師がアルトの肩へ手を置いた。


「これ以上は馬車の中で考えてください」


「まだ関所の封印が」


「職員と護衛が進めています」


「出発前に確認を」


「座ったまま確認できます」


 アルトは反論しようとした。


 だが、右足の痛みは強くなっている。


 ここで動けなくなれば、王都へ着く前に輸送隊を止めることになる。


「分かりました」


 人員用の馬車へ戻る。


 救出した者たちは、すでに治療を受けていた。


 動ける三人と護衛一人は、関所の台座を見張るために残る。


 街から増援が来れば、彼らも帰還する予定だった。


「出発します」


 鐘が一度鳴る。


 馬車が動き始めた。


 関所跡が少しずつ遠ざかっていく。


 黒い箱を載せた荷台も、今回は止まらなかった。


 アルトは黄金の板を見つめる。


 王都から返事が届くまで、できることは限られている。


「少し目を閉じてください」


 治癒師が言った。


「返事が届いたら起こしてください」


「分かりました」


 アルトは背もたれへ身体を預けた。


 眠るつもりはない。


 それでも、馬車の揺れに合わせて意識が遠のいていく。


 どれほど時間が経ったのか。


「アルトさん」


 治癒師の声で目を開いた。


「王都から返信です」


 黄金の板へ、短い報告が届いている。


《対象契約者十五名を確認》


《返済所外で保護》


《全員、債務の説明を受けていない》


《署名書類を隔離》


 アルトは息を吐いた。


「契約を無効にします」


 黄金の板へ右手をかざす。


「十五件の新規債務は、返済手続きへ偽装された契約だ。本人の同意は成立していない」


《契約目的の偽装を確認》


《重要条件の説明なし》


《十五件の債務を無効化》


《統合予定額――消失》


 アルトの借金へ、十五金貨は入らなかった。


 返済率は五パーセントのまま。


「止められましたね」


「はい」


 だが、王都からの報告は終わっていなかった。


《返済所内部を外部から監視》


《職員数――通常より一名多い》


《身元不明の職員を確認》


「知らない職員が一人います」


「仲介者でしょうか」


「顔を確認できますか?」


《監視者が外見を記録》


 黄金の板へ、人の輪郭が浮かび上がる。


 細かな顔までは分からない。


 ただ、右手に黒い手袋をしている。


 その人物は返済所の奥から出ると、迷わず監視者のいる方向を見た。


《身元不明者が監視を確認》


《返済所から退出》


「逃げます!」


 続いて、第二候補から接続が届いた。


《そいつを追うな》


《契約具は、まだ返済所の中にある》


 さらに、別の文字が重なる。


《王都全域への債務発行まで》


《残り二十四時間》


 期限が、一日早まっていた。


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