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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第54話 信用してはいけない相手



《第二候補からの緊急接続を確認》


《第三候補アルトへ、救援要請》


《私を信用するな》


 黄金の板に浮かんだ文字を、アルトは何度も読み返した。


 助けを求めながら、自分を信用するなと言っている。


 矛盾しているように見える。


 だが、黒い契約の管理権限を持つ人間なら、自分の意思だけで動けない可能性があった。


「第二候補本人が送った言葉でしょうか」


 契約管理の職員が尋ねる。


「確認します」


 アルトは黄金の板へ左手をかざした。


「救援要請の発信者を照合しろ」


《発信者――第二候補》


「管理者による偽装では?」


《発信者本人の管理権限を使用》


「本人の意思で送った証拠にはなりません」


 第二候補が持つ権限を、黒い契約の管理者が勝手に使っている可能性もある。


「接続中、第二候補の意思は確認できるか」


《一部確認可能》


《思考干渉――あり》


《命令契約――あり》


「すでに操られています」


 治癒師が言った。


「完全にですか?」


《自由意思――残存》


《契約命令への抵抗――継続中》


 第二候補は、まだ抵抗している。


 だからこそ、救援要請と一緒に警告を送れたのかもしれない。


「こちらから質問できますか?」


《短文のみ可能》


《接続時間――限定》


 アルトはすぐに質問しなかった。


 相手が何を書いても、それが本人の意思とは限らない。


「何を聞くんですか?」


 王都の職員が尋ねる。


「こちらが正解を知らない質問は使えません」


「本人しか知らないことを聞くのでは?」


「嘘を見抜けません」


 必要なのは、黄金の板で確認できる内容。


 相手の答えと契約記録を照合し、干渉されているか判断する。


「第二判定を終えたとき、何を得た」


 文字が消える。


 しばらくして、返答が現れた。


《管理権限》


 それだけだった。


「詳しい内容は?」


《債務発行》


《徴収停止》


《記録閲覧》


 黄金の板が自動で照合を始める。


《第二候補の権限記録と一致》


「次です」


 アルトは問いかける。


「第二判定で、何を失った」


 今度は、返答まで時間がかかった。


《拒否権》


 アルトの手が止まる。


「拒否権……」


 第二候補は管理権限を得る代わりに、何かを拒む権利を失った。


「内容を照合しろ」


《第二判定の一部記録》


《管理命令への拒否権を担保指定》


《第二候補――承諾》


「自分で承諾したんですか?」


 治癒師が尋ねる。


「当時の条件までは分かりません」


 管理権限を得なければ、誰かを助けられない状況だったのかもしれない。


 黒い箱は、常に相手が断りにくい条件を作る。


「現在、第二候補は管理者の命令を拒否できない?」


《確認》


「それでも抵抗している」


《命令の実行方法に限定的な選択権あり》


 命令そのものは拒否できない。


 だが、どのように実行するかは、まだ選べる。


 だから、王都全域へ債務を発行しろと命じられても、時間を稼いでいる可能性がある。


「百金貨の債務は、本人が借りたものか」


 返答が現れる。


《違う》


「契約書へ署名したか」


《署名させられた》


「判断能力はあった?」


《あった》


 アルトは眉を寄せた。


 判断能力がある状態で署名したなら、契約は成立してしまう。


「なぜ署名した」


 返答はすぐには来なかった。


《署名しなければ、十人から徴収すると言われた》


 アルトは目を閉じた。


 自分一人が百金貨を背負う。


 そうしなければ、十人へ借金が分けられる。


 第二候補も、同じ選択を迫られた。


「その十人は?」


《以前、私が助けた債務者》


 第二候補は、管理者へ従うだけの人間ではない。


 少なくとも過去に、借金を押しつけられた者たちを救っている。


「信用するなという理由は?」


 文字が一度、乱れた。


《私の権限で、王都全域への徴収が実行される》


「あなたの意思ではなくても?」


《結果は同じ》


 第二候補は、自分が被害者だから信用するなと言っているのではない。


 自分の権限が、王都を襲う道具になる。


 その事実を伝えている。


《私が停止を命じても、解除される》


《私が警告しても、記録を消される》


《私が逃げれば、関係者から徴収される》


 短い文字が続けて浮かぶ。


 接続が不安定になっている。


《時間がない》


《私を探すな》


《契約具を先に――》


 そこで文章が途切れた。


《外部管理者による接続遮断》


 黄金の板から、第二候補の文字が消える。


「最後は、契約具を先に探せという意味でしょうか」


 契約管理の職員が言った。


「おそらく」


「本人を助けるよりも?」


「第二候補本人を拘束しても、契約具が残れば別の人間へ権限を移すかもしれません」


 第二候補は管理者ではない。


 権限を持たされ、命令されているだけだ。


 本当に止めるべきものは、王都に隠された黒い契約具。


「王都のどこにあるかは秘匿されています」


 王都の職員が言う。


「契約院へ到着してから、街全体を探す時間はありません」


 期限は三日。


 しかも、現在地から王都までは、急いでも二日以上かかる。


「第二候補との接続記録から、契約具の位置を逆算できませんか?」


 アルトは黄金の板へ問いかける。


《直接位置――秘匿》


《接続経路の照合――可能》


「表示してください」


 黄金の板へ、細い線がいくつも現れた。


 関所地下の台座。


 輸送中の黒い箱。


 王都にある別の契約具。


 三つの間を、契約の線がつないでいる。


《王都内の接続先》


《契約記録が集中する区域》


「契約院ですか?」


 王都の職員が尋ねる。


《一致率――低》


「では、返済所?」


《一致率――中》


 完全には一致しない。


「ほかに、契約記録が集まる場所は?」


「商会の帳簿庫や、税を管理する施設があります」


「借金契約を保管する場所は?」


「王都には、大きな返済所が三か所あります」


 固有名詞は必要ない。


 場所だけ分かればいい。


「三か所との一致率を順番に確認してください」


 王都の職員が、黄金の板へ位置を説明する。


 一つ目。


《一致率――低》


 二つ目。


《一致率――低》


 三つ目。


《一致率――高》


「三つ目の返済所です」


「第二候補も、そこにいるのでしょうか」


「分かりません」


 契約具だけが置かれ、第二候補は別の場所から命令されている可能性もある。


「王都へ警告を送ってください」


 アルトが言った。


「三つ目の返済所を閉鎖。職員と利用者を退避させる。契約書や金を持ち出そうとせず、人命を優先する」


「返済所を閉鎖する権限は、我々にはありません」


「黒い契約具がある可能性を伝えてください」


「証拠は?」


「黄金の板の照合記録を添えます」


 短文しか送れない通信手段。


 それでも、危険を知らせることはできる。


 王都の職員が急いで文章をまとめる。


「第二候補のことも書きますか?」


「名前も所在も分かりません。書けば、管理者に警告が届く可能性があります」


「では、契約具だけを」


「はい」


 通信が送られた。


 返事が届くまで時間がかかる。


「輸送を再開します」


 アルトは関所地下から救出した者たちを見る。


「動けない人を馬車へ。歩ける人も、無理をしないでください」


「関所の台座は?」


「証拠を複製したあと、封印して残します」


 護衛一人と、歩ける三人が増援到着まで見張る。


 残りは王都へ向かう。


 準備が進む中、アルトは右手首の黒い輪を見た。


 第二候補は、拒否権を失った。


 自分も第二判定へ進めば、同じものを要求される可能性がある。


 管理権限を得る代わりに、命令を拒む権利を差し出す。


 それでは、借金から自由になっても意味がない。


 黄金の板に、王都からの返信が届いた。


《警告を受領》


《該当返済所へ確認》


《異常なし》


 続いて、もう一文。


《三つ目の返済所は、本日も通常どおり営業中》


 アルトは表示を見つめた。


「退避していません」


「警告が信じられなかったのでしょうか」


「違います」


 黄金の板へ、新しい記録が割り込んだ。


《王都全域への債務発行準備》


《対象者の契約情報を収集中》


《情報収集元――三つ目の返済所》


 異常がないのではない。


 すでに、街の人々の契約情報を集め始めている。


 さらに、第二候補から最後の短い接続が届いた。


《返済所の職員を信用するな》

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