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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第53話 王都にいる第二候補



《第一候補――所在不明》


《第二候補――王都》


《第三候補――アルト》


 黄金の板に浮かんだ表示を見て、アルトは動きを止めた。


「候補者が、ほかにもいる……」


 契約管理の職員が呟く。


「アルトさんだけが選ばれていたわけではないんですね」


「はい」


 アルトは表示を見つめた。


 自分は第三候補。


 第一候補は所在不明。


 第二候補は王都にいる。


「候補になった順番ですか?」


 治癒師が尋ねる。


「確認します」


 アルトは黄金の板へ手をかざした。


「第一、第二、第三の順番は、何を表している」


《契約継承者候補への登録順》


「俺より前に、二人いた」


《確認》


「候補者になる条件は?」


《継続的な債務返済》


《担保技能との接続》


《契約違反への対応》


《管理権限への適性》


 返済を続けるだけでは足りない。


 担保となった技能を受け取り、契約の異常へ対処する。


 さらに、黒い契約を管理する力があると判断された者。


 それが継承者候補になる条件らしい。


「第二候補の返済率を確認できるか」


《閲覧権限が不足しています》


「生存していることだけは分かる?」


《確認》


「王都で、今も借金を返しているんでしょうか」


 治癒師が言う。


「その可能性はあります」


 アルトは壁際の黒い台座を見る。


 百二十七件の契約。


 その中から候補者になれたのは、少なくとも三人だけ。


 ほとんどの人間は、判定へ進む前に返済を諦めた。


 あるいは、技能も財産も奪われたのかもしれない。


「第一候補が所在不明になった理由は?」


《最終接続記録を表示》


《第一候補――返済率二十一パーセント》


《第三判定の開始後、接続消失》


「第三判定まで進んでいた」


「接続消失というのは、死亡したという意味ですか?」


《不明》


 死んだのか。


 逃げたのか。


 別の契約によって隠されたのか。


 黄金の板にも分からないらしい。


「第二候補の現在の判定段階は?」


《第二判定――完了》


 アルトの表情が変わる。


「第二候補は、返済率十パーセントを超えている」


「黒い箱の所有権も移っているのでしょうか」


「確認します」


《第二候補への所有権移転》


《対象となる契約具――別個体》


 黒い箱は一つではない。


 アルトが運んでいる物とは別の契約具が、第二候補にも割り当てられている。


「王都に、別の黒い契約具があるんですか?」


 王都の職員が顔色を変えた。


「契約院には、そのような物は保管されていません」


「把握されていないだけかもしれません」


「王都のどこにあるか確認できますか?」


《位置情報――秘匿》


《第二候補の管理権限によって保護》


「管理権限を持っている」


 アルトは表示を読み返した。


 第二判定を終えると、黒い契約具の一部を管理できるようになる。


 第二候補は、すでにその段階へ進んでいる。


「敵でしょうか」


 護衛の一人が尋ねる。


「分かりません」


「黒い契約具を管理しているなら、今回の妨害にも関わっている可能性があるのでは?」


「可能性はあります」


 だが、候補者も最初は借金を押しつけられた人間だったはずだ。


 管理者へ従っているのか。


 抵抗するために権限を使っているのか。


 会うまでは判断できない。


「第二候補の名前は?」


《候補者情報の閲覧には、第二判定の完了が必要》


 また、第二判定だった。


 アルトが十五金貨を返さなければ、重要な情報へ届かない。


「返済は止めたままにしますか?」


 契約管理の職員が尋ねる。


「はい」


「王都にいる候補者へ先に会うために、十パーセントまで返す方法もあります」


「相手が誰かも分からない状態で、黒い箱の望む判定は受けません」


 アルトは即答した。


 返済を急がせる理由が、また一つ増えた。


 だからこそ、急いではならない。


「この台座を王都へ運べますか?」


 アルトが尋ねると、王都の職員は黒い契約具を調べた。


「大きさは荷車へ載せられます。ただし、黒い箱と一緒には運べません」


「近づけた場合は?」


 黄金の板で確認する。


《契約具同士の接続が発生》


《管理権限の統合を開始》


「統合されます」


「それは危険なんですか?」


「少なくとも、今より強い契約具になる可能性があります」


 二つを同じ荷台へ載せることはできない。


「関所へ残すわけにもいきません」


 契約管理の職員が言う。


「また誰かが利用するかもしれません」


「封印して、別の輸送隊を呼べますか?」


「街から人員を送るとしても、到着まで一日以上かかります」


「ここに護衛を残す必要がありますね」


 現在の護衛は四人。


 二人を残せば、黒い箱を守る人数が足りなくなる。


「救出した七人は、歩けますか?」


 治癒師が状態を確認する。


「三人は支えがあれば歩けます。残り四人は馬車が必要です」


「輸送隊の馬車に乗せます」


「黒い箱の影響を受けませんか?」


「距離を取れば大丈夫とは言い切れません」


 七人には、すでに黒い契約の跡がある。


 黒い箱が再び債務者として認識する可能性もあった。


「黄金の板へ登録します」


 アルトは七人を順番に確認した。


「違反契約によって発生した債務は無効。本人たちに新しい返済義務はない。その記録を固定してください」


《七名の債務無効を確認》


《再発行禁止を登録》


《同一契約起点からの債務発行――拒否》


 七人の手首に残っていた黒い跡が、わずかに薄くなった。


「これで完全に安全ですか?」


「同じ契約による借金は作られにくくなります」


「別の契約なら?」


「防げません」


 アルトは隠さず答えた。


 救出したからといって、すべてが終わるわけではない。


「この中に、台座の管理を任せられる人はいますか?」


 七人は互いの顔を見る。


 やがて、一人の男性が手を上げた。


「俺は、ここへ連れてこられる前まで倉庫の管理をしていた」


「契約具へは触れません」


「ああ。近づく人間がいないか見張るだけならできる」


「一人では危険です」


 別の二人も残ると申し出た。


「私たちも、歩ける」


「街から護衛が来るまでなら」


 三人。


 さらに護衛を一人残せば、関所跡を守れる。


「危険を感じたら、台座を守ろうとしないでください」


 アルトは念を押した。


「建物から離れ、街へ逃げる。契約具を持ち出そうとする者がいても止めない」


「見張る意味がないのでは?」


「誰が来たかを記録するだけでいい」


 契約具を守るために命を失ってはならない。


 アルトは護衛の一人へ鐘と白墨を渡した。


「街から増援が到着するまでお願いします」


「分かりました」


「黒い文字や選択肢が出ても触れない。何か表示されたら、そのまま書き写してください」


 帳面は契約管理の職員が所有している。


 残る者には、新しい記録用紙を渡した。


 今回はアルトが触れていない紙だ。


 地下から七人を地上へ運び出す。


 動けない四人は、人員用の馬車へ乗せた。


 治癒師も同じ馬車で状態を見ることになった。


「人数が増えました」


 御者が言う。


「食料は足りますか?」


「七日分を十人で使う予定でした」


「今は十六人です」


「次の水場まで進み、野営時に一人分ずつ確認します」


 食料を均等に減らすだけでは足りない。


 王都までの距離。


 怪我人の状態。


 途中で補給できる場所。


 すべて計算し直す必要がある。


「村には近づけませんよ」


「分かっています」


「では、どうするんです?」


「契約院の職員が持つ緊急用の通信手段は?」


「短い文章なら、王都へ送れます」


「補給隊を向かわせてください」


「合流地点は?」


「今から決めます」


 黒い箱の近くで、経路は話せない。


 人員用の馬車だけを先に進ませ、十分に離れてから場所を決めることにした。


 準備を終え、アルトは地下の台座をもう一度見た。


「百二十七件の契約記録は消えませんか?」


《証拠保全を登録》


《管理者による削除を禁止》


「内部の記録を持ち出すことは?」


《複製可能》


「複製してください」


 黄金の板の表面へ、細かな文字が次々と流れる。


 その内容が、契約管理の職員が用意した紙へ写されていく。


 百二十七件すべてではない。


 契約番号。


 発行時期。


 債務額。


 回収された担保の種類。


 名前は削除されていたが、証拠としては十分だった。


 最後の一枚へ文字が写されたとき、職員の手が止まった。


「アルトさん」


「何ですか?」


「最も新しい契約です」


 紙には、発行されたばかりの債務が記録されていた。


《新規債務――百金貨》


《債務者――第二候補》


《担保――管理権限》


「第二候補に、百金貨の借金が作られています」


「いつですか?」


「今です」


 第二候補は管理者ではない。


 管理権限を与えられていたが、それを担保に新たな借金を背負わされた。


 黒い契約具を管理する側へ進んでも、自由にはなれなかった。


 さらに表示が続く。


《返済期限――三日》


《未返済の場合》


《王都全域から不足分を徴収》


 王都にいる一人の借金。


 それを返せなければ、街にいる無関係な人々から金や技能を奪う。


「王都へ急がなければ」


 職員が言った。


 アルトは返済期限を見た。


 三日。


 通常の経路でも、今の輸送隊では間に合うか分からない。


 怪我人が増え、遠回りもしている。


 それでも黒い箱を放置して先へ行くことはできない。


「補給隊へ伝えてください」


 アルトは杖を握った。


「食料だけではなく、交代の馬も必要です」


「速度を上げるんですか?」


「はい」


 右肩も、右足も治っていない。


 護衛も一人減る。


 救出した四人は、治療を受けながら運ばなければならない。


 条件は悪くなる一方だった。


 それでも、三日後には王都全体が債務者にされる。


「黒い箱を王都へ運びながら、第二候補を探します」


「間に合わなければ?」


 アルトは、百金貨の表示を見つめた。


「第二候補の借金を、王都の人々へ押しつけさせません」


 黄金の板に、最後の文字が浮かんだ。


《第二候補からの緊急接続を確認》


《第三候補アルトへ、救援要請》


 その下に、短い言葉が続く。


《私を信用するな》


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