↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/62

第51話 助けるための借金



《五名の債務を引き受けますか》


《総額――十五金貨》


 アルトは表示を見つめた。


 五人を助けるために、十五金貨を背負う。


 先ほど拒否した不足分と、同じ金額だった。


「承諾しないでください」


 治癒師が言った。


「分かっています」


「ですが、あの人たちは……」


 黒い鎖に縛られた五人は、地面へ倒れている。


 徴収は一時停止しているが、解除されたわけではない。


《選択時間――残り六十秒》


 黒い文字が追加された。


 考える時間まで制限してくる。


「五人の債務内容を表示しろ」


 アルトは黄金の板へ告げた。


《契約具貸与に伴う債務》


《総額――十五金貨》


「一人三金貨ですか?」


 契約管理の職員が尋ねる。


「内訳を表示しろ」


《契約具使用料――一人三金貨》


「使用料なんて聞いていない!」


 先頭の男が叫ぶ。


「俺たちは、仕事を終えれば報酬をもらえると言われた!」


「契約書へ署名しましたか?」


「ああ……」


「契約具の使用料について、説明は?」


「なかった」


 アルトは黄金の板を見る。


「重要条件の説明不足は、すでに契約違反と判定されている」


《確認》


「違反契約で発生した使用料は、有効なのか」


《契約条件を照合》


《使用料の記載――あり》


《口頭説明――なし》


《文字の視認性――著しく低い》


《契約者の理解確認――なし》


《発行者による意図的秘匿を確認》


「なら、無効にできるはずだ」


《違反部分の取消しが可能》


「取り消せ」


《契約発行者の同意が必要》


「違反した側の同意が必要なのか?」


《契約変更には双方の同意が必要》


《選択時間――残り四十秒》


 黒い箱の管理者は、同意するはずがない。


 五人の債務を無効にするには、契約発行者の承諾が必要。


 助けるなら、アルトが代わりに十五金貨を背負う。


 その二つしか選べないように見せている。


「黄金の板」


 アルトは息を整えた。


「契約発行者が違反を認めず、是正にも応じない場合はどうなる」


《古代契約規則を照合》


 文字の動きが一瞬止まる。


《重大な秘匿によって契約者の生命が失われる場合》


《契約者保護を優先》


《違反条項の一時停止が可能》


「一時停止では足りない」


《選択時間――残り三十秒》


 五人の腕へ巻きついた鎖が、再び震え始める。


「アルト!」


 護衛が叫んだ。


「鎖が動いています!」


 時間を数える表示そのものが、徴収を再開させようとしている。


「生命力で補填する条項を停止しろ!」


《重大な秘匿を確認》


《生命力徴収を停止》


 鎖の一部が崩れた。


 五人の顔に、わずかに血色が戻る。


 だが、技能を徴収する鎖は残っていた。


《選択時間――残り二十秒》


「付与された技能は、本当に発行者の所有物か?」


 アルトが尋ねる。


《貸与技能》


《所有者――契約発行者》


「その技能を、どこから得た」


《情報への閲覧権限なし》


「五人が元から持っていた技能と混ざっていないか」


 黄金の板が揺れた。


《照合中》


《貸与前の技能記録――なし》


《貸与後の技能記録――あり》


「記録がないだけで、元から持っていなかった証明にはならない」


《選択時間――残り十秒》


 黒い鎖が、男たちの腕を締める。


 一人が苦痛の声を上げた。


「全徴収を止めろ!」


《根拠が不足しています》


「貸与した技能だけを分離して徴収しろ。本人の技能へ触れるな!」


《技能の分離を照合》


《可能》


《選択時間――残り五秒》


「実行しろ!」


《貸与技能のみ返還》


 黒い鎖が五人の身体から離れた。


 筒の中へ、黒い光が吸い込まれていく。


 同時に、男たちの手首へ浮かんでいた債務表示が揺らいだ。


《契約具使用料――未処理》


《債務引受けの選択時間――終了》


《債務者アルト――不承諾》


 十五金貨は、アルトへ移らなかった。


 五人にも、生命力を奪う鎖は戻らない。


 だが、三金貨ずつの債務表示は残った。


「まだ消えていません」


 治癒師が言った。


「契約具の使用料が残っています」


「俺たちは払えない」


 先頭の男が苦しそうに身体を起こす。


「報酬を受け取れると思っていた。三金貨なんて持っていない」


「払わないでください」


 アルトは黄金の板へ問いかける。


「貸与した技能が返還され、契約具も回収された。使用によって発行者に残る損失はあるか」


《損失――なし》


「では、三金貨は何への対価だ」


《契約具の使用許可》


「使用許可は、命令を実行するために発行者が必要としたものだ」


《確認》


「使用者が望んだ道具ではない」


《確認》


「仕事のために必要な道具を貸したうえで、説明せず使用料を取る。それは報酬から差し引く経費か?」


《報酬支払い記録――なし》


「報酬額は?」


《成功時――一人銀貨五枚》


 護衛たちの間に、怒りの声が漏れた。


 三金貨の使用料を隠し、成功しても銀貨五枚しか払わない。


 最初から返済できない借金を作るための契約だった。


「報酬より高い費用を秘匿し、拒否できない状態で道具を使わせた」


《確認》


「これは貸与契約ではない。債務を作るための偽装だ」


 黄金の板が強く輝いた。


《契約目的を照合》


《業務遂行――副次》


《債務発行――主目的》


《契約形式の偽装を確認》


《古代契約規則への重大違反》


 五人の手首から、三金貨の表示が消えていく。


《使用料債務を無効化》


《貸与契約を解除》


 黒い筒が、次々と地面へ落ちた。


 筒から伸びていた鎖も完全に消える。


 先頭の男は、自分の腕を何度も確かめた。


「助かったのか……?」


「借金は消えました」


「技能は?」


「貸与されたものだけ返されています。元々持っていた技能は、確認が必要です」


 治癒師と護衛が五人の状態を調べる。


 命に関わる傷はなかった。


 しかし、急激に技能を抜かれた影響で、立てない者もいる。


「俺たちを捕まえるのか?」


 先頭の男が尋ねた。


「輸送を妨害しました」


 王都の職員が答える。


「契約具を使い、虚偽の命令も出しています」


「俺たちは命令されただけだ!」


「それを調べるために、事情を聞きます」


 アルトは男の前へしゃがもうとした。


 右足に痛みが走り、杖で身体を支える。


 治癒師が呆れた顔をしたが、今は何も言わなかった。


「契約を渡した人間は、関所跡にいますか?」


「分からない」


「会ったことは?」


「ない」


「では、誰から命令を受けましたか?」


「黒い筒だ」


 男は地面に落ちた契約具を見る。


「筒に文字が出た。指定された場所へ行けば、仕事を受けられると」


「最初に筒を手に入れた場所は?」


「街の外にある共同墓地だ」


「誰かが置いた?」


「黒い布に包まれていた。俺たち五人分だ」


 姿を見せず、契約具だけを置く。


 使い捨ての人間に命令を与え、失敗すれば技能と生命力を奪う。


「関所跡にいる者も、同じように使われている可能性があります」


 治癒師が言った。


「あります」


 アルトは黄金の板を見た。


 北東にあった未登録契約具は、まだ動いていない。


「関所にいる者へ呼びかけます」


「近づくんですか?」


「ここからです」


 護衛に、大きな声が届く位置まで進んでもらう。


 アルト自身は馬車のそばから動かない。


「関所にいる者へ伝えろ」


 アルトは告げた。


「お前が持つ契約具は、失敗すれば技能と生命力を徴収する。こちらへ来るなら、契約具を地面へ置き、両手を見せろ」


 護衛が林の先へ向かい、同じ内容を叫んだ。


 返事はない。


 一度。


 二度。


 もう一度、警告を繰り返す。


 しばらくして、関所跡の方向から声が返ってきた。


「嘘をつくな!」


「黄金の板で契約を確認できる!」


「近づけば捕らえるつもりだろう!」


「武器も契約具も置けば、攻撃しない!」


 再び沈黙。


 アルトは待った。


 無理に関所へ入らない。


 相手が逃げるなら追わない。


 輸送を再開することを優先する。


 そのとき。


 黄金の板に表示が現れた。


《北東の契約具――移動開始》


「こちらへ来ます」


 護衛たちが身構える。


 林の奥から、一人の男が現れた。


 黒い外套を脱ぎ、両手を上げている。


 足元には、黒い筒を引きずっていた。


「契約具から手を離してください!」


 男は筒を地面へ置いた。


「助けてくれ」


 男の首には、すでに黒い鎖が巻きついていた。


「俺は命令を拒否した」


 男が震える声で言う。


「だから、代わりに家族から徴収すると表示された」


 黄金の板が反応する。


《関係者債務を確認》


《対象――契約者の家族三名》


《債務総額――十五金貨》


 管理者は、本人から取れなければ家族を狙う。


 アルトは右手首に残る黒い輪を見た。


 そして、関所跡のさらに奥から伸びている契約の流れに気づいた。


 黒い筒は発行元ではない。


 命令を伝えるための道具にすぎない。


 本当の契約具は、関所跡の地下にある。


《未登録契約具――位置を更新》


《関所地下》


《複数の債務者を確認》


 関所跡には、管理者だけではない。


 すでに借金を作られ、閉じ込められている者たちがいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。