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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第48話 十五金貨の使者



「そこで止まってください!」


 護衛が騎馬の男へ叫ぶ。


 男は輸送隊から十分に離れた場所で馬を止めた。


「王都契約院からの緊急命令です!」


「同行している王都の職員へ渡してください」


 アルトが答える。


「受取人は、輸送責任者アルトと指定されています」


「俺は輸送責任者ではありません」


 王都から来た二人の職員が前へ出る。


「命令書を確認します」


「ですが、受取人本人の署名が必要です」


 男は馬から降りなかった。


 片手には封をされた書類。


 もう片方には、小さな革袋を持っている。


「袋の中身は?」


 アルトが尋ねる。


「緊急輸送手当です」


「金額は?」


「十五金貨」


 護衛たちの間に緊張が走った。


 黒い箱が求め続けている、不足分と同じ金額だった。


「その場へ置いて、離れてください」


「受領の署名をいただくまで渡せません」


「では、受け取りません」


 男が困惑した表情を浮かべる。


「緊急命令です」


「王都契約院の命令なら、同行している職員が確認できます」


「命令書には、アルト本人が受領すると」


「その文章がおかしいと言っています」


 アルトは黄金の板を護衛へ渡した。


「書類を直接触らず、板の上へ置いてください」


「本人以外へ渡すことは禁じられています」


「誰に?」


「命令書を渡した方に」


「その人間は、王都契約院の職員ですか?」


 男の返事が遅れた。


「身分証は確認しましたか?」


「王都の印がある外套を着ていました」


「名前は?」


「聞いていません」


「顔は覚えていますか?」


 男が眉間を押さえた。


「顔は……」


 アルトたちは互いを見る。


 ヴァリスと同じ反応だった。


「無理に思い出さなくていい」


 治癒師が言った。


「頭痛はありますか?」


「少し」


「吐き気は?」


「ありません」


「その書類を渡した人間から、何と言われましたか?」


 アルトが尋ねる。


「輸送計画が変更された。アルトへ緊急手当を届けろと」


「ほかには?」


「必ず、本人の署名をもらえと」


「署名後、十五金貨はどうする」


「アルトへ渡します」


「返済所へ持っていくよう言われましたか?」


 男の表情が固まった。


「なぜ、それを……」


「言われたんですね」


「アルトが希望すれば、そのまま返済へ使えると」


 黒い箱が自分で十五金貨を回収できなくなったため、別の人間を使って持ってきた。


 アルトが受け取り、署名すれば、自分の意思で返済金を得たことになる。


「命令書を地面へ置いてください」


「ですが」


「署名はしません」


「受け取らなければ、私は命令違反になります」


「違反した場合は?」


「十五金貨の弁償を」


 男の右手首へ、黒い文字が浮かんだ。


《配送契約》


《未達成時の違約金――十五金貨》


 男は息を呑む。


「何だ、これは」


「あなたも契約を作られています」


「私は書類を運ぶ仕事を受けただけです!」


「契約書へ署名しましたか?」


「依頼の受領書には」


「内容をすべて読みましたか?」


 男は答えなかった。


「金貨を渡せなければ、あなたが十五金貨を背負う契約になっています」


「そんな説明は受けていない!」


「だから、書類を黄金の板へ置いてください」


 男は迷った。


 アルトへ渡せば、仕事は完了する。


 違約金も消える。


 だが、その代わりアルトの返済率が十パーセントへ到達する。


「あなたへ押しつけるつもりはありません」


 アルトが言った。


「何を?」


「十五金貨です」


「私は、あなたに渡すために」


「俺が受け取れば、あなたは助かる。俺が拒否すれば、あなたが借金を背負う」


 黒い箱の管理者が作った選択だった。


 どちらかが十五金貨を負う。


 誰も損をしない選択肢は、最初から用意されていない。


「その契約を解除する方法を探します」


「本当に?」


「俺も、同じように借金を押しつけられました」


 男は右手首の文字を見る。


 やがて馬を降り、書類と金貨の袋を地面へ置いた。


 護衛が長い棒を使い、黄金の板の上へ書類を移す。


 金貨の袋は離れた場所に残した。


《配送契約を確認》


《依頼者――未登録》


《配送対象――十五金貨》


《受取人――アルト》


《受領条件――署名》


《署名後の処理》


《アルトの債務返済へ仮受領》


「やはり、俺の借金へ入れる契約です」


「拒否登録をしているはずでは?」


 契約管理の職員が尋ねる。


「本人の署名を、返済の承諾として使うつもりです」


 アルトは命令書の文章を確認した。


 緊急輸送手当を受領する。


 その下に、小さな文字が隠されている。


 肉眼では、ほとんど読めない。


《受領した金銭の使用目的を、債務返済へ指定する》


 署名すれば、十五金貨の使い道まで勝手に決められる。


「配送者の違約金を解除できるか」


 アルトが黄金の板へ問いかける。


《依頼者情報――未登録》


《契約条件の説明不足》


《受取人への不利益を秘匿》


《配送者への不利益を秘匿》


《契約違反》


 黄金の光が、男の右手首へ伸びる。


《配送契約を無効化》


 黒い文字が崩れ、消えた。


 男は何度も手首を確認する。


「借金は?」


「発生していません」


「では、この金貨は?」


 黄金の板に表示が続く。


《所有者――未登録》


《不正契約に使用された証拠物》


《使用禁止》


「誰の物でもありません」


「持ち帰れば?」


「新しい契約へ使われる可能性があります」


 アルトは契約管理の職員を見る。


「金貨は証拠として封印してください」


「分かりました」


 金貨の袋には触れず、箱と同じように札で囲う。


 命令書も回収しようとしたとき、黄金の板が反応した。


《別の契約具を確認》


「書類の中です」


 アルトが言う。


 命令書の封印部分。


 王都契約院の印に見えていたものが、わずかに黒く変色している。


《秘匿処理の実行契約具と一致》


「この印が、記録を消していたんですか?」


「はい」


 黒い箱とは別の契約具。


 それは、大きな魔道具ではなかった。


 書類へ押された、小さな印だった。


「王都の印は偽物ですか?」


 同行している職員が調べる。


「形は正確です。ですが、登録番号がありません」


「本物の印を写した?」


「その可能性があります」


 契約具が埋め込まれたままでは危険だった。


「壊せますか?」


 護衛が尋ねる。


「証拠が消える可能性があります」


 アルトは黄金の板へ確認する。


「契約具の機能を止め、記録を残せるか」


《一時封印が可能》


《封印中の契約行為――不可》


《内部記録――保持》


「封印します」


 王都の職員が札を重ね、命令書全体を包んだ。


 黒い印の光が消える。


 同時に、アルトの右手首に残っていた熱も弱くなった。


「これで、帳面へは干渉できませんか?」


 治癒師が尋ねる。


「少なくとも、この契約具からは」


 ほかにも同じ物がある可能性は残っている。


「この書類を渡した人間は、どこへ行きましたか?」


 アルトが男へ尋ねる。


「報告を待つと言っていました」


「場所は?」


「王都へ向かう街道の先です」


「具体的には?」


「使われなくなった古い関所跡です」


 同行者たちの表情が変わる。


 人里を避けるために選んだ経路。


 その途中に、古い関所跡があった。


「こちらの経路を知っていたんですか?」


「書類を渡した人間から、そこで追いつけると言われました」


 輸送隊がどの道を使うのか。


 出発を一日前倒ししたこと。


 黒い箱の近くでは話していない。


 それでも、相手は知っていた。


「今夜は関所跡の近くで野営する予定でした」


 御者が言う。


「予定を変更しますか?」


 アルトは地図を見る。


 別の道へ移れば、村の近くを通る。


 黒い箱の影響を考えれば、簡単には選べない。


「関所跡へは近づきます」


「待ち伏せされているかもしれません」


「だから、予定どおりには入りません」


 遠くから観察する。


 人がいれば、人数と動きを確認する。


 危険なら引き返す。


「捕まえるつもりですか?」


 護衛が尋ねる。


「無理はしません」


 アルトは杖へ手を置いた。


「俺たちの目的は、黒い箱を王都へ運ぶことです」


 相手を追って輸送を失敗させれば、それこそ管理者の望みどおりになる。


「ただし、こちらを待っている理由は確認したい」


 封印された命令書。


 十五金貨。


 消された仲介者の記録。


 すべてを用意した者が、街道の先にいる。


 馬車が再び動き始める。


 騎馬の男は街へ戻ることになった。


 証拠となる命令書と金貨は、王都の職員が管理する。


 日が傾き始める。


 街道の先には、低い森が広がっていた。


 その向こうに、使われなくなった古い関所跡がある。


 アルトは馬車の中から、黄金の板を見た。


《封印中の契約具から、最後の記録を検出》


《報告先への伝達内容》


 文字が浮かび上がる。


《債務者アルトは、十五金貨を拒否》


《第二判定の強制開始に失敗》


《次の処理を実行》


 そこで表示が途切れた。


 続きは、命令書を作った者だけが知っている。


 アルトたちは、その人物が待つ関所跡へ近づいていた。

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