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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第45話 返済を急がない



 黒い箱が十五金貨を求めていた理由。


 それは、アルトを助けるためではない。


 返済率を十パーセントへ到達させ、第二判定を始めるためだった。


「今は、十五金貨を返してはいけません」


 アルトが言うと、王都の職員が目を見開いた。


「借金を返すことが目的ではないのですか?」


「目的です」


「ならば、第二判定を受けたほうが――」


「黒い箱が望んでいます」


 アルトは右手首に残る黒い輪を見た。


 所有権移転率、四十五パーセント。


 まだ黒い箱の所有者ではない。


 だが、第二判定が終われば、所有権が確定する可能性がある。


「相手が進ませたがっている判定を、内容も分からないまま受けるつもりはありません」


「しかし、いずれは十パーセントへ到達します」


「そのときまでに、準備します」


「黒い箱を王都へ運び、調査してからということですか?」


「はい」


 王都の封印設備で黒い箱の動きを抑える。


 黄金の板と照合し、第二判定の内容を調べる。


 少なくとも、それまでは返済率を上げるべきではない。


「第三者が、アルトさんの代わりに十五金貨を返済する可能性は?」


 治癒師が尋ねた。


 アルトは黄金の板へ右手をかざす。


「本人以外が返済した場合、返済率は上昇するのか」


 黄金の文字が浮かび上がった。


《第三者による返済》


《債務者が承諾した場合――有効》


《債務者が拒否を登録していない場合――仮受領》


「拒否していなければ、勝手に支払われる可能性があります」


 契約管理の職員が言った。


「仮受領とは何ですか?」


《債務者による異議申し立てがなければ確定》


《確定後、返済の取り消しは不可》


 黒い箱が誰かから十五金貨を回収し、アルトの借金へ入れる。


 その後、アルトが気づかずにいれば返済として確定する。


 黒い箱がヴァリスたちへ債務を提案していたのも、そのためかもしれない。


「第三者からの返済を拒否します」


 アルトは契約管理の職員を見た。


「俺が直接、返済所へ持ち込んだ金以外は受け取らないよう登録してください」


「今ここで書類を作成できます」


 職員は新しい用紙を取り出した。


「ただし、返済所へ届けるまでは正式な記録に反映されません」


「どれくらいかかりますか?」


「馬を使えば、すぐに届けられます」


 ヴァリスが前へ出た。


「俺が持っていく」


「右手が使えません」


「左手で運べる」


「街へ戻ったばかりでしょう」


「だから道は分かっている」


 ヴァリスはアルトから書類を受け取った。


「これは、お前の借金を勝手に返させないための書類だな」


「はい」


「俺が持っても問題ないのか?」


「返済金ではありません」


「分かった」


 ヴァリスは馬へ乗った。


「登録が終わるまで、出発するな」


 そう言い残し、街へ戻っていく。


 アルトは黄金の板へ視線を戻した。


「拒否の登録が終われば、黒い箱は十五金貨を勝手に返せなくなります」


「その間に、別の方法を探すでしょうね」


 治癒師が黒い荷台を見る。


「探すと思います」


「少しは休んでください」


「待っている間に確認したいことがあります」


「休みながらにしてください」


 アルトは地面へ座った。


 右足を伸ばし、荷台から距離を取った状態で黄金の板を膝の前へ置く。


「第二判定が始まった場合、所有権はどう決まる」


《判定内容――閲覧権限なし》


「候補者にも見せられないのか」


《返済率十パーセント到達後に開示》


「黒い箱は内容を知っているのか」


 黄金の板の文字が、一度消えた。


《一部情報への接続を確認》


「やはり、黒い箱は第二判定の一部を知っています」


 契約管理の職員が表情を曇らせる。


「判定の結果まで操作できるのでしょうか」


「分かりません」


 アルトは右手首の黒い輪へ触れないよう注意しながら観察した。


「所有権が四十五パーセント移っていることで、俺に何か権限はありますか?」


《一時的な閲覧権限を確認》


《管理権限――なし》


《債務発行権限――なし》


《徴収権限――なし》


《内部契約記録の一部閲覧――可能》


 アルトは顔を上げた。


「黒い箱の中にある契約を見られるかもしれません」


「危険ではありませんか?」


「閲覧だけです」


「黒い箱が、閲覧を契約への同意として扱う可能性があります」


 治癒師の指摘に、アルトは手を止めた。


「黄金の板を通します」


 直接、黒い箱へ接続しない。


 黄金の板に照合させ、表示できる情報だけを見る。


「内部契約記録を、契約への同意や承諾を行わずに表示しろ」


《閲覧のみ》


《契約変更――不可》


《同意記録――なし》


《承諾記録――なし》


 条件が表示される。


 アルトは一行ずつ確認したあと、閲覧を選んだ。


《黒い契約魔道具》


《内部記録を照合》


《発行済み債務――複数》


《未確定債務――複数》


《回収済み担保――記録あり》


「すでに、何かを回収しています」


「誰からですか?」


《対象情報――削除済み》


《管理者権限による削除》


 黒い箱の管理者が、誰から何を奪ったのか分からないようにしている。


「削除された記録は戻せますか?」


《第二判定後に復元可能》


 また、第二判定だった。


 黒い箱は、アルトを判定へ進ませようとしている。


 黄金の板は、判定が終わらなければ詳細を見せない。


「ほかに確認できる情報は?」


《契約起点の照合が可能》


「契約起点とは?」


《契約を発行した権限の識別情報》


 契約そのものが消されても、誰の権限を使って発行されたかを調べられるらしい。


「黒い箱が発行した契約の起点を表示しろ」


《照合中》


 黄金の板へ、複雑な紋様が浮かび上がる。


 文字ではない。


 複数の線が絡み合った、印のような形だった。


 アルトはその印を見つめる。


 見覚えがあった。


「これは……」


「知っているんですか?」


 契約管理の職員が尋ねる。


 アルトは帳面を開いた。


 三百金貨の借金を押しつけられたあと、返済所でもらった契約書。


 原本は返済所に保管されている。


 だが、契約印の形は帳面へ写していた。


 アルトはページをめくり、二つの印を比べた。


 完全に同じではない。


 外側の線も、中央の形も違う。


 しかし、印の一番奥。


 契約を成立させる起点だけが一致していた。


「俺の三百金貨の契約と、同じ起点です」


 周囲が静まり返る。


「ヴァリスさんたちが作った契約では?」


「契約書を用意したのは、俺たちだ」


 戻ってきたカスパーが答えた。


「だが、契約を成立させた仕組みまでは知らない」


「どこで契約書を手に入れたんですか?」


 アルトが尋ねる。


 カスパーは少し考えた。


「ヴァリスが用意した」


 セナもヴァリスを見る。


「私は、渡された場所へ署名しただけよ」


 アルトは街の門へ目を向けた。


 ヴァリスは返済所へ向かっている。


 今は、ここにいない。


「戻ったら確認します」


「ヴァリスが黒い箱の管理者だと思っているのか?」


 カスパーが尋ねる。


「違います」


 ヴァリスが、このような古代契約を管理できるとは思えない。


 自分の剣術を担保にしていたことすら、正確には理解していなかった。


「ヴァリスさんも、誰かから契約書を渡された可能性があります」


 アルトの三百金貨。


 担保となった元仲間たちの技能。


 古代遺跡。


 黒い契約魔道具。


 これまでは、偶然つながったものだと思っていた。


 だが、すべての契約の奥に、同じ起点がある。


 黒い箱の管理者は、アルトが借金を背負う前から関わっていた可能性がある。


 遠くから、馬の蹄の音が聞こえた。


 返済所から戻ってきたヴァリスだった。


「登録は終わった」


 馬を降りたヴァリスが、受領書をアルトへ渡す。


「これで、お前以外の返済は受け付けない」


「ありがとうございます」


「何か分かったのか?」


 アルトは帳面に写した二つの契約印を見せた。


「この契約書を、どこで手に入れましたか?」


 ヴァリスの顔が固まった。


「なぜ、今それを聞く」


「黒い箱が発行した契約と、起点が同じです」


 ヴァリスはしばらく黙っていた。


 やがて、低い声で答える。


「契約書は、俺が作ったものではない」


「誰から受け取りましたか?」


「名前は知らない」


「どこで会ったんです?」


「冒険者ギルドだ」


 ヴァリスは黒い箱を見た。


「借金をアルトへ移す方法があると、向こうから声をかけてきた」


 アルトの指が、帳面の上で止まる。


「どんな人間でしたか?」


「顔は覚えていない」


「一度会っただけですか?」


「ああ」


 ヴァリスは右手を握りしめた。


「だが、言われた言葉は覚えている」


「何と言われたんです?」


「荷物持ちなら、借金を背負わせても誰も困らない――と」


 黒い箱を載せた荷台から、硬い音が一度だけ響いた。


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