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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第44話 所有者にされる者



《債務返済のため》


《輸送対象の所有権を債務者アルトへ移転します》


「受け取らない」


 アルトは即座に答えた。


 だが、黄金の板に拒否の選択肢は現れない。


《所有権移転を開始》


 黒い箱を載せた荷台が、大きく揺れた。


 封印札の隙間から黒い光が漏れる。


「全員、荷台から離れてください!」


 護衛と御者が後退する。


 王都の職員も、慌てて距離を取った。


「輸送対象の所有者は誰ですか?」


 アルトが尋ねる。


「王都契約院が管理しています」


「管理ではなく、所有です」


 職員が言葉に詰まる。


「遺跡から回収された時点では、所有者不明の危険物として登録されました」


「所有者がいない?」


「正式には、そうなります」


 黒い箱はそこを利用した。


 持ち主のいない物。


 現在、輸送を任されているアルト。


 その二つを結びつけ、勝手に所有権を作ろうとしている。


《管理者不在》


《輸送責任者――アルト》


《所有権移転条件を満たしました》


「輸送責任者ではありません」


 アルトは契約書を取り出した。


「俺の役割は、契約異常への対応です」


「しかし、輸送中止の権限はあなたにあります」


 王都の職員が言う。


「黒い箱は、それを責任者と解釈しているのかもしれません」


 アルトは契約書を読み直した。


 異常時の判断権限。


 接触を拒否する権限。


 輸送を中止する権限。


 安全のために得た権利が、今度は所有者として扱う根拠にされている。


《所有権移転率――十パーセント》


 アルトの右手首に、黒い輪が浮かんだ。


 借金契約の印とは違う。


 鎖を模したような、太い印だった。


「何が起きていますか?」


 治癒師が腕を確認する。


「所有者の印だと思います」


「痛みは?」


「ありません」


「ほかには?」


 アルトは黒い箱を見る。


 胸の奥に、今までとは違う感覚があった。


 箱がどこにあるのか。


 どれほど離れているのか。


 目を閉じても分かる。


「箱の位置が分かります」


「所有者になり始めているということですか?」


「おそらく」


《所有権移転率――十五パーセント》


「移転されたら、何が起きるんです?」


 護衛の一人が尋ねる。


「俺の財産として扱われます」


「十二金貨の価値があるなら、借金が減るのでは?」


「その可能性はあります」


「なら、受け取ってもいいのではないですか?」


「危険な魔道具の責任も、すべて俺へ移ります」


 この箱が存在しない債務を作れば、所有者であるアルトが発行したと扱われるかもしれない。


 誰かの技能を奪えば、その責任もアルトへ向けられる。


 さらに、黒い箱には今も管理者がいる。


 所有者になれば、その管理者との契約まで引き継ぐ可能性があった。


「黄金の板へ確認します」


 アルトは右手をかざす。


「所有権が移転した場合、俺が負うものを表示しろ」


《所有物によって発生した債務》


《所有物によって徴収された財産》


《所有物の管理義務》


《旧管理者との契約》


 予想どおりだった。


「旧管理者との契約内容は?」


《閲覧権限なし》


「内容を見せずに、引き継がせるつもりです」


 治癒師の声が険しくなる。


「止められますか?」


 アルトは黄金の板へ問いかける。


「所有権の移転を拒否する」


《所有者不在の物品》


《管理責任者への移転》


《拒否権なし》


「また拒否権がないと言っています」


 アルトは右手首の印を見る。


《所有権移転率――二十二パーセント》


 進行は止まらない。


「黒い箱を置いていけば?」


 御者の一人が言った。


「輸送契約を破棄すれば、管理責任者ではなくなります」


「それでは王都へ運べません」


「所有者になるよりましでは?」


 アルトはすぐには答えなかった。


 ここで依頼を中止する。


 黒い箱を街へ戻す。


 そうすれば、再び周囲の住民へ存在しない債務が広がる。


 置き去りにすれば、今度は通りかかった誰かが被害を受ける。


「契約を破棄しても、すでに移転が始まっています」


 アルトは言った。


「責任者を辞めれば止まる保証はありません」


「では、どうするんです?」


「所有者を作ります」


 王都の職員が眉を寄せた。


「アルトさん以外の人間へ押しつけるのですか?」


「人間ではありません」


 アルトは黒い箱を見た。


「黒い箱自身を、所有者として登録します」


「物が自分を所有するのですか?」


「黒い箱は債務を発行し、担保を決め、契約を管理しています」


 ただの道具ではない。


 意思があるかは分からない。


 だが、契約上の判断を行っている。


「契約を作れるなら、契約の当事者にもなれるはずです」


 アルトは黄金の板へ右手をかざした。


「黒い契約魔道具を、独立した契約主体として判定しろ」


 黄金の板は、すぐには反応しなかった。


 黒い箱の光だけが強くなる。


《所有権移転率――三十パーセント》


「判定できないんですか?」


 治癒師が尋ねる。


「確認に時間がかかっています」


「その間にも進んでいます」


「分かっています」


 アルトは焦りを押し殺した。


 ここで黒い箱へ近づけば、所有権の移転が早まるかもしれない。


 触れることもできない。


《契約行為を確認》


 ようやく、黄金の板に文字が現れた。


《債務発行――可能》


《担保指定――可能》


《契約提案――可能》


《他者との意思疎通――可能》


《契約主体としての条件を満たしています》


「認められました」


 アルトは続ける。


「黒い契約魔道具の所有権を、黒い契約魔道具自身へ移せ」


《自己所有契約を作成》


 黒い箱が激しく揺れた。


 荷台の車輪が浮き上がる。


《拒否》


 黒い文字が、保管用の覆いへ浮かび上がった。


「拒否できるんですね」


 アルトは目を細めた。


「俺には拒否権がないと言ったのに」


《物品に拒否権はない》


「契約主体だと認められた」


《所有者不在》


「お前自身がいる」


《拒否》


「なぜ拒否する」


 返事はなかった。


 アルトは黄金の板を見る。


「自己所有した場合、黒い箱が負う義務を表示しろ」


《発行債務への責任》


《徴収財産の返還義務》


《管理者契約の自己継続》


 黒い箱がアルトへ押しつけようとしていたもの。


 それを、すべて自分で背負うことになる。


「責任を負いたくないから、俺を所有者にするのか」


《所有権移転率――四十一パーセント》


 黒い箱は答えない。


 だが、移転を急いでいる。


「自己所有契約を強制できますか?」


 王都の職員が尋ねる。


「本人が拒否しています」


「アルトさんには拒否権がないのに?」


「そこを利用します」


 アルトは黄金の板へ告げた。


「所有権移転の条件を公平にしろ」


《条件の詳細を指定してください》


「黒い箱が所有権の移転を拒否できるなら、俺も拒否できる」


《契約条件を照合》


《一方のみに拒否権を認めています》


《公平性違反》


 黄金の光が強くなる。


《所有権移転を一時停止》


 右手首の熱が弱まった。


《所有権移転率――四十五パーセント》


《停止》


 アルトは息を吐いた。


 完全には解除されていない。


 だが、半分に達する前に止められた。


《移転先双方へ選択権を付与》


 アルトの手首へ、二つの文字が現れる。


《所有権を受諾》


《所有権を拒否》


 黒い箱の表面にも、同じ選択肢が浮かんでいるらしい。


「拒否します」


 アルトは迷わず触れた。


《アルト――所有権を拒否》


 黒い箱には変化がない。


「箱は選ばないつもりです」


 治癒師が言う。


「時間切れは?」


 黄金の板へ問いかける。


《選択期限――なし》


 このままでは、所有者不在の状態が続くだけだった。


 王都へ運んでも、同じ問題が残る。


「黒い箱が選ぶまで、動かせませんか?」


「輸送そのものはできます」


 アルトは答えた。


「ですが、途中でまた俺へ移転を始める可能性があります」


 そのとき。


 黒い箱の表面に、新しい文字が現れた。


《条件を提示》


《自己所有を受諾する代わりに》


《債務者アルトへ、十二金貨の返済を要求》


 護衛たちがざわめく。


「結局、金を求めるんですね」


 アルトは黒い箱を見つめた。


 十二金貨を払えば、箱は自分自身の所有者になる。


 だが、その金を払えば、アルトの返済率は十パーセントへ近づく。


 黒い箱の要求どおりに支払うことが、本当に自分の借金返済として扱われるのか。


 黄金の板へ確認する。


《支払先――黒い契約魔道具》


《債権者との一致――なし》


《アルトの債務返済として認められません》


「払っても、俺の借金は減りません」


「十二金貨を奪われるだけですか?」


「はい」


 アルトは黒い箱の提案を拒否した。


《条件を拒否》


《自己所有契約――不成立》


 右手首には、移転途中の黒い輪が残っている。


 四十五パーセント。


 完全な所有者ではない。


 だが、無関係でもなくなってしまった。


 黄金の板へ、新しい表示が現れる。


《所有権争議を記録》


《解決まで、輸送対象の処分を禁止》


 王都の職員の顔色が変わった。


「処分を禁止?」


「王都で封印できない可能性があります」


「では、運ぶ意味がないではありませんか」


 アルトは黒い箱を見た。


 箱は、封印されることを避けるために所有権争いを作った。


 輸送を止められなくても、到着後の処分を止めるつもりだ。


《所有権を確定する方法》


《第二判定の完了》


 黄金の板に表示が続く。


《必要条件――返済率十パーセント》


 アルトの残り借金は、二百八十五金貨。


 十パーセントまで、あと十五金貨。


 黒い箱が執拗に回収しようとしていた金額と同じだった。


 アルトはようやく理解した。


 黒い箱が十五金貨を求めていたのは、返済を助けるためではない。


 アルトを第二判定へ進ませるためだった。


 そして判定が終わった瞬間、所有権を確定させるつもりなのだ。


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