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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第41話 剣を取り戻す代価



《共同債務の発行失敗》


《代替対象を検索》


《債務者アルトとの関係者を確認中》


「全員、停止してください」


 アルトは鐘を三回鳴らした。


 動き始めたばかりの馬車が、再び止まる。


 街の門は、まだ後方に見えていた。


「街へ戻るんですか?」


 治癒師が尋ねる。


「黒い箱は、俺と関係のある人間を探しています」


「離れれば、影響を防げる可能性は?」


「分かりません」


 保管施設から離れても、黒い箱はアルトの返済状況を認識していた。


 距離だけで接続が切れるとは限らない。


 アルトは黄金の板を受け取った。


《関係者の検索中》


《既存契約記録を照合》


《担保技能の旧所有者を確認》


 予想どおりだった。


「街に伝令を送ってください」


「誰を呼びますか?」


「ヴァリスです」


「カスパーさんとセナさんは?」


「一度に全員を近づけるのは危険です。最初に表示された者だけを確認します」


 アルトは黄金の板を見つめる。


 淡い文字が新しく浮かび上がった。


《第一代替対象――ヴァリス》


《旧担保――剣術》


《接続を開始》


「急いでください」


 護衛の一人が馬へ乗り、街へ引き返した。


 アルトたちは、黒い箱の荷台から距離を取ったまま待つ。


「ヴァリスさんへ借金が移るのですか?」


 治癒師が尋ねる。


「その可能性があります」


「本人がここへ来なければ?」


「離れた場所へ強制的に発行するかもしれません」


「だから、呼ぶんですね」


「何が起きているか分からないまま契約を作られるよりはいい」


 アルトは腰を下ろした。


 右足の痛みが強くなっている。


「足を見せてください」


「今ですか?」


「今だからです」


 治癒師はアルトの返事を待たず、固定具と包帯を確認した。


「腫れています」


「歩いたからです」


「走ろうともしましたね」


「鐘を鳴らす必要がありました」


「次からは近くにいる人へ頼んでください」


「間に合わない可能性があります」


「あなたが動けなくなれば、もっと間に合わなくなります」


 正しい。


 それでも、判断と指示を他人へ任せることには慣れていない。


「次から気をつけます」


「今度は本当ですね?」


「努力します」


「約束してください」


「約束します」


 治癒師はようやくアルトの足から手を離した。


 しばらくして、門から馬が出てきた。


 先ほどの護衛。


 その後ろに、ヴァリスが乗っている。


 ヴァリスは馬から降りると、黒い箱の荷台を睨んだ。


「何が起きた」


「黒い箱が、俺から回収できなかった十五金貨を、あなたから取ろうとしています」


「俺から?」


「正確には、あなたが以前担保にしていた剣術を利用しようとしている」


 ヴァリスの顔から表情が消えた。


「剣術を返せと言っているのか」


「まだ分かりません」


 アルトは黄金の板を見せた。


 ヴァリスが近づいた瞬間、板の文字が切り替わる。


《第一代替対象を確認》


《旧担保所有者――ヴァリス》


《移転済み技能――剣術》


 同時に、ヴァリスの右手首へ黒い線が浮かび上がった。


「熱い……」


「触らないでください」


 アルトが止める。


 文字はゆっくりと形を作った。


《未返済債務――十五金貨》


《担保――剣術》


 ヴァリスが手首を見つめる。


「俺の剣術を、担保にするつもりか」


「違うかもしれません」


 その下へ、新しい表示が現れた。


《債務を受諾した場合》


《移転済み剣術を旧所有者へ返還》


 ヴァリスの呼吸が止まった。


 右手には、まだ剣を握る力が戻っていない。


 木剣を落とさずに持つ。


 今は、それだけの訓練を続けている。


 だが、黒い箱の提案を受け入れれば、失った剣術が戻る。


「十五金貨を背負えば、剣術を返すそうです」


 アルトは静かに告げた。


「俺が返済した分も、戻るのか?」


「おそらく」


「お前の剣術は?」


「失われる可能性があります」


 ヴァリスは右手を握った。


 指が震えている。


《債務を受諾しますか》


《承諾》


《拒否》


 二つの選択肢が浮かぶ。


「黄金の板で条件を確認します」


 アルトが手を伸ばそうとすると、ヴァリスが止めた。


「必要ない」


「条件を隠している可能性があります」


「そうではない」


 ヴァリスは自分の手首から目を離さなかった。


「俺が受け入れれば、剣術が戻るんだな」


「表示どおりなら」


「十五金貨の借金で」


「はい」


「三百金貨に比べれば、安い」


 アルトは何も言わなかった。


 十五金貨なら、現在のアルトでも一度の依頼で返済できる額だ。


 ヴァリスが受け入れたとしても、返済できない借金ではない。


 剣術を取り戻せるなら、安い代価だと思うかもしれない。


「お前は、俺に拒否してほしいか?」


 ヴァリスが尋ねた。


「俺が決めることではありません」


「剣術を取られたくないだろう」


「取り戻した力を失いたくはありません」


 アルトは正直に答えた。


「ですが、その剣術は元々あなたのものです」


「なら、受け入れても文句はないのか」


「ありません」


 ヴァリスはアルトを見た。


「本当に?」


「あなたが条件を理解し、自分で選ぶなら」


 押しつけられた契約ではない。


 条件を確認し、自分で決める。


 その選択まで奪うつもりはなかった。


 ヴァリスは再び手首を見る。


 剣術。


 かつて、自分が誰よりも優れていると信じていた力。


 それが戻れば、基礎からやり直す必要はない。


 木剣を持つだけの訓練も終わる。


「……俺は、アルトに三百金貨を押しつけた」


 ヴァリスが呟いた。


「今度は十五金貨を背負わされる側か」


「強制ではありません」


「だから迷う」


 強制なら、拒絶できる。


 だが、欲しいものと引き換えに提示された契約は、自分から選びたくなる。


「俺は剣士だ」


 ヴァリスは右手を開いた。


「剣を握れなければ、何も残らないと思っていた」


「今も思っていますか?」


「分からん」


 ヴァリスは自分の指を見た。


「昨日、初めて木剣を三分持てた」


「はい」


「剣術が戻れば、あんな訓練は必要なくなる」


「完全に戻るとは限りません」


「それでも、今よりはましだろう」


 ヴァリスの左手が、《承諾》へ近づく。


 誰も止めなかった。


 アルトも動かなかった。


 選ぶのはヴァリスだ。


 指先が、文字へ触れる直前で止まる。


「これを受け入れたら、俺はまた同じことをする」


 ヴァリスが言った。


「同じこと?」


「苦労せずに取り戻せるなら、次も何かを差し出す」


 剣術のために借金を背負う。


 借金を返すために、別の技能を担保にする。


 足りなくなれば、誰かへ責任を押しつける。


 ヴァリスは以前、その方法を選んだ。


「俺は、剣を取り戻したい」


 声が震えていた。


「だが、借金で買い戻すんじゃない」


 左手が動く。


 ヴァリスは《拒否》へ触れた。


《債務の受諾を拒否》


《剣術返還――不成立》


 右手首の文字が薄れていく。


 ヴァリスの指には、何も戻らなかった。


「本当によかったんですか?」


 アルトが尋ねる。


「よくはない」


 ヴァリスは吐き捨てるように答えた。


「今すぐ剣を振りたい」


「では、なぜ?」


「お前から奪い返せば、俺は一生、剣を取り戻せない気がした」


 剣術が戻らなかった右手で、ヴァリスは拳を作る。


「明日も訓練する」


「王都へ出発します」


「戻ったらだ」


 アルトは小さく頷いた。


「分かりました」


 黄金の板に文字が現れる。


《第一代替対象――回収失敗》


《次の代替対象を検索》


 安堵する時間はなかった。


 表示が切り替わる。


《第二代替対象――カスパー》


《旧担保――索敵・罠解除・隠密》


 さらに、その下へ新しい一文が浮かび上がった。


《対象は、すでに提案を受諾しています》


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