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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第27話 人は荷物じゃない



 暗闇の中で、青白い光が二つずつ灯った。


 低い唸り声。


 硬い爪が、石床を引っかく音。


 姿を現したのは、狼に似た二体の石像だった。


 大きさは通常の狼より一回り大きい。


 石で作られた身体には無数の継ぎ目があり、その隙間から青い光が漏れている。


「石像が……動いているのか?」


 倒れている男が、震える声を漏らした。


「目を閉じて、頭を守ってください」


「な、何をするつもりだ?」


「罠を使います」


 アルトは、通路を横切る細い糸へ視線を戻した。


 糸を切れば、天井の石板が落ちる。


 解除するだけなら、糸に繋がっている留め具を固定すればいい。


 だが、今回は壊さない。


 罠解除Ⅰの知識を使い、細い糸へ手持ちのロープを結びつける。


 それを壁際に沿わせ、手元まで引いた。


 離れた場所から作動させるためだ。


 石の獣たちは、まだ動かない。


 倒れている男を守っているわけではない。


 侵入者を誘い込むため、わざと生かしている。


 アルトが罠へ近づけば、その瞬間に襲うつもりなのだろう。


「ずいぶん賢いな」


 アルトは荷物から小さな布を取り出した。


 油を染み込ませ、細い鉄棒の先へ巻きつける。


「火よ」


 小さな炎が布へ燃え移った。


 即席の松明を、石の獣たちの前へ放り投げる。


 燃える布が石床を転がった。


 一体が炎へ顔を向ける。


 もう一体は、アルトから視線を外さない。


「片方は引っかからないか」


 アルトは剣を抜き、わざと通路の中央へ立った。


 足元の小石を蹴る。


 乾いた音が響いた。


 二体の石獣が同時に駆け出す。


「来い」


 アルトはロープを握ったまま後退した。


 一体目が罠の下へ入る。


 二体目は、そのすぐ後ろだ。


「今だ!」


 ロープを強く引く。


 細い糸が留め具から外れた。


 轟音とともに、天井の石板が落下する。


 一体目の石獣が、巨大な石板の下敷きになった。


 硬い身体が砕け、青い光が消える。


 だが、二体目は落下する直前に石床を蹴った。


 石板を飛び越え、アルトへ襲いかかる。


「一体だけでも十分だ!」


 振り下ろされた前脚を、剣で受け流す。


 衝撃で手首が痺れた。


 石獣が床へ着地する。


 すぐに身体をひねり、再び飛びかかってきた。


 アルトは壁際へ身体を寄せる。


 狭い通路だ。


 横へ大きく避けることはできない。


 石獣が口を開いた。


 並んでいる牙まで石で作られている。


 噛まれれば、補強した革鎧でも耐えられない。


 アルトは身体強化Ⅰを発動した。


 左腕の籠手を石獣の顔へ押し当て、噛みつきの軌道をずらす。


 石の牙が籠手を削った。


 腕に強い衝撃が走る。


「ぐっ……!」


 完全には受け止めない。


 身体をひねりながら、力を横へ逃がす。


 石獣がアルトの横を通過し、壁へ激突した。


 火のついた布が、石獣の身体を照らす。


 索敵Ⅰが、石の内側を流れる魔力を捉えた。


 青い光は、頭部から胸へ集まっている。


 首の下。


 石板と石板の間に、わずかな隙間があった。


 アルトは剣を両手で握る。


 石獣が振り返る。


 剣術Ⅲ。


 狙う場所は一つだけだ。


 再び飛びかかってきた石獣に対し、アルトも前へ踏み込んだ。


「はあっ!」


 すれ違う瞬間、剣先を首の隙間へ突き入れる。


 硬い感触。


 剣先が途中で止まった。


 アルトは剣を引かなかった。


 身体強化を両腕へ集中させ、さらに押し込む。


 石獣の前脚が、補強した肩へ当たった。


 鉄板が大きくへこむ。


 アルトの身体が壁へ叩きつけられた。


 それでも剣から手を放さない。


「これで……終わりだ!」


 剣先が、石獣の内部にある青い結晶を貫いた。


 石獣の身体から力が抜ける。


 アルトは倒れてくる巨体を避け、その場へ膝をついた。


「はあ……はあ……」


 左腕が痺れている。


 補強した肩は痛むが、骨は折れていない。


 防具へ金を使った判断は間違っていなかった。


「生きているか?」


 倒れていた男が声をかけてきた。


「なんとか」


 落下した石板によって、通路の大半が塞がれていた。


 だが、石板は斜めに落ちている。


 壁との間に、人一人が通れる隙間が残っていた。


 アルトは鏡を使い、石板の向こうを確認する。


 新しい気配はない。


 剣を鞘へ戻し、身体を横にして隙間を抜けた。


 倒れている男のもとへ近づく。


「傷を見せてください」


「足をやられた。立てない」


 男の右脚には、深い傷があった。


 石の爪で裂かれたらしい。


 出血量は多いが、骨までは届いていない。


 アルトは水で傷口を洗い、清潔な布を強く巻いた。


「痛むと思います」


「もう十分痛い。好きにしてくれ」


 止血したあと、二本の木材を脚へ当て、包帯で固定する。


「もう一人はどこですか?」


「奥へ行った」


「あなたを置いて?」


 男は悔しそうに顔を歪めた。


「俺たちは、あの扉を無理やり開けた。まだ誰にも見つかっていない遺跡なら、宝が残っていると思ったんだ」


「どうやって遺跡のことを知ったんです?」


「酒場で、鉱夫が話していた。崩れた壁の奥から、人工的な通路が見つかったって」


 噂を聞きつけ、ギルドが封鎖する前に侵入した。


 罠を解除する技術もなく、武器とランプだけを持って。


「広間の先に、金色の板があった。あいつが触ったら、石の獣が出てきた」


「金色の板?」


「文字が刻まれていた。俺には読めなかったが、あいつは高く売れるって……」


 二人は金色の板を持って逃げようとした。


 その途中で男が石獣に襲われ、脚を負傷した。


「俺が動けなくなると、あいつは板を持って奥へ逃げた」


「入口ではなく、奥へ?」


「石の獣が帰り道を塞いでいたんだ。俺に向かって、お前が囮になっている間に別の出口を探すと言った」


「戻ってきましたか?」


 男は何も答えなかった。


 答えを聞く必要はなかった。


 アルトは男へ水袋を渡す。


「飲んだら戻ります」


「俺を運ぶのか?」


「そのために来ました」


「やめろ。俺を運べば、あんたまで動けなくなる。俺はここへ置いて、奥のあいつを――」


「人を荷物みたいに数えないでください」


 アルトはロープを男の身体へ巻きつけた。


「重いから置いていく。邪魔だから捨てる。俺は、そういう連中を知っています」


「だが……」


「奥の人も探します。ただし、あなたを安全な場所へ戻してからです」


 男の身体を背負う。


 脚へ負担がかからないよう、ロープで固定する。


 以前のアルトは、三人分の荷物を背負わされていた。


 誰もアルトの疲労を気にしなかった。


 今は違う。


 自分で運ぶものを決めている。


 運ぶ理由も、自分で選んでいる。


「少し揺れます。傷が開いたら、すぐに言ってください」


「ああ……すまない」


 落下した石板の隙間は、そのままでは通れない。


 アルトは男を一度下ろし、ロープを使って石板の反対側へゆっくり移動させた。


 自分も隙間を抜け、再び背負う。


 時間はかかったが、最初の広間まで戻ることができた。


 待機していた冒険者たちが駆け寄ってくる。


「生存者か!」


「一人だけです。右脚を負傷しています。止血はしましたが、治療が必要です」


「分かった。俺たちが運ぶ」


 冒険者たちが男を引き受ける。


 男は運ばれる直前、アルトの腕をつかんだ。


「奥のあいつも……助けてやってくれ」


「生きているなら連れ戻します」


「悪いのは俺たちだ。それでも頼む」


「依頼を受けていますから」


 男と冒険者二人が、坑道の入口へ戻っていく。


 一人だけが、広間に残った。


「お前も一度戻ったほうがいいんじゃないか?」


 アルトは残った道具を床へ並べた。


 予備のランプ。


 油。


 水。


 包帯。


 ロープ。


 火魔法は一度しか使っていない。


 身体強化も、まだ余力がある。


 肩は痛むが、剣を振れないほどではない。


「あと一時間だけ調べます。それまでに見つからなければ戻ります」


「分かった。一時間を過ぎたら、扉の前で合図を送る」


「お願いします」


 アルトは再び遺跡の奥へ入った。


 落下した石板を越え、一人分の足跡を追う。


 足跡は乱れていた。


 ところどころに、金色の細かな欠片が落ちている。


 侵入者が持ち去った板から剥がれ落ちたものだろう。


 通路の先から、誰かの声が聞こえた。


「俺のものだ……」


 アルトは足を止める。


「これは俺が見つけた。誰にも渡さない……」


 声のする部屋を、鏡で確認する。


 一人の男が、金色の板を胸へ抱えていた。


 その足元から、黒い鎖が何本も伸びている。


 鎖は男の両脚と腰へ絡みつき、少しずつ身体を石床の中へ引きずり込んでいた。


《無資格者による契約資産の持ち出しを確認》


 遺跡の声が響く。


《不足分を、所持技能によって徴収します》


 男の身体から、淡い光が引き抜かれた。


「やめろ! 俺の技能を返せ!」


 アルトは金色の板へ目を向ける。


 そこには、見覚えのある文字が浮かんでいた。


《技能担保契約原典》


 元仲間たちの技能を奪っている契約。


 その大本となったものが、男の腕の中にあった。


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