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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第25話 借金を知る遺跡



《債務残高――二百九十三金貨》


 表示されている数字に間違いはない。


 七金貨を返済した現在の残額だ。


 偶然ではない。


「どうして、古い遺跡が……」


 アルトは壁の印へ触れなかった。


 何が起きるか分からないものに、素手で触れる理由はない。


 手帳を開き、印の形を書き写す。


 その間も、青白い光は消えなかった。


《担保情報を照合》


《技能担保――四件》


 四件。


 剣術。


 索敵。


 火魔法。


 身体強化。


 これまでヴァリスたちから移った技能の数と一致している。


 罠解除は、七回目の返済で手に入れた。


 だが、技能の種類が同じでも、担保として登録された元の契約は四つなのかもしれない。


 あるいは、まだ表示されていないだけか。


「調べたい。でも、今じゃない」


 依頼は入口の調査だ。


 この遺跡の秘密を一人で解き明かすことではない。


 アルトが壁から距離を取った、そのときだった。


 ゴゴゴゴゴ――。


 広間の中央にある台座が動き始めた。


 アルトはすぐに石扉の方向へ下がった。


 円形の台座が左右に割れる。


 その下から、人の形をした石像がせり上がってきた。


 高さはアルトの倍近い。


 両腕は太く、右手の先端が巨大な石刃になっている。


 胸の中央では、青い光が脈打っていた。


《契約情報を確認》


 石像の頭部から、低い声が響いた。


《返済能力の測定を開始します》


「そんな依頼は受けていない」


 石像が床を蹴った。


 大きさからは想像できない速度だった。


 アルトは横へ跳ぶ。


 直後、石刃が振り下ろされた。


 床が割れ、石の破片が頬をかすめる。


 アルトは剣を抜いた。


 だが、石像の腕へ剣を打ち込むことはしない。


 石と正面から斬り合えば、先に剣が折れる。


「火よ!」


 左手から放った火球が、石像の胸へ当たった。


 炎が広がる。


 石像は止まらない。


 火魔法Ⅰでは、厚い石の身体を破壊できなかった。


 それでも無意味ではない。


 炎が消えたあと、胸の青い光から伸びる細い線が見えた。


 魔力の流れだ。


 索敵Ⅰが、石像の内部にある異物を捉える。


 胸の光から、右脚へ強い魔力が流れている。


「右脚が、動力を支えている?」


 確信はない。


 だが、試す価値はある。


 石像が腕を横へ薙ぎ払う。


 アルトは身体強化Ⅰを発動した。


 後方へ跳んだが、完全には避けきれない。


 石刃の先が革鎧をかすめた。


 強い衝撃が脇腹へ伝わり、身体が床を転がる。


「ぐっ……!」


 骨は折れていない。


 呼吸もできる。


 アルトは立ち上がりながら、広間の出口を見た。


 逃げ道は開いている。


 あの通路には、解除した鉄杭の罠がある。


「倒す必要はない」


 調査は終わっている。


 生きて情報を持ち帰れば、依頼は達成だ。


 アルトは石扉を抜け、通路へ走った。


 石像が追ってくる。


 足音が通路全体を揺らした。


 アルトは赤いチョークの印を越える。


 解除した罠の場所だ。


 石板は、木製のくさびで固定してある。


 壁から抜いた鉄杭のうち、二本は床へ置いたままだった。


 残る一本は、作動部分に戻してある。


 罠の構造を記録するため、完全には壊していなかった。


 アルトはくさびに結んでおいた紐を握った。


 石像が罠の石板へ足を乗せる。


「ここだ!」


 紐を強く引く。


 くさびが抜け、石板が沈んだ。


 ガンッ!


 壁の奥で、古い仕掛けが作動する。


 一本だけ戻しておいた鉄杭が飛び出し、石像の右膝へ突き刺さった。


 石像の身体が傾く。


 しかし、倒れない。


 右膝には大きな亀裂が入っていた。


 青い光が、その亀裂から漏れている。


「狙いは合っていた」


 アルトは身体強化を右腕へ集中させた。


 罠解除のために持ってきた細い鉄棒を、亀裂へ差し込む。


 石像が腕を振り上げる。


 遅い。


 右脚を損傷したことで、動きが明らかに鈍っていた。


 アルトは石刃をかわし、鉄棒を蹴り込んだ。


 亀裂が広がる。


 右脚が崩れ、石像が片膝をついた。


 胸の青い光が激しく点滅する。


 アルトは剣を逆手に持った。


 剣術Ⅲ。


 身体強化Ⅰ。


 狙うのは、石の表面ではない。


 胸を覆う石板と石板の隙間。


「はあっ!」


 剣先が隙間へ入った。


 腕の力だけでは押し込めない。


 アルトは体重を乗せ、剣をねじる。


 胸の石板がわずかに浮いた。


 その内側に、青い結晶が見える。


 石像の左腕がアルトへ伸びた。


 アルトは剣を手放し、腰から短剣を抜く。


 青い結晶へ突き立てた。


 甲高い音が通路に響いた。


《測定――不能》


 石像の動きが止まる。


《契約継承者の適性――》


 最後まで言い終える前に、青い結晶が砕けた。


 石像の巨体が崩れ落ちる。


 アルトは巻き込まれないよう、すぐに後ろへ下がった。


 静寂が戻った。


「……危なかった」


 革鎧の脇腹が裂けている。


 左腕にも痺れが残っていた。


 火魔法と身体強化も使った。


 予備のランプは残っているが、罠はもう使えない。


 これ以上進む条件ではなかった。


 アルトは石像の破片から、砕けずに残った青い結晶の欠片を拾った。


 証拠として一つだけ袋へ入れる。


 それから、もう一度だけ広間を確認した。


 二人分の足跡は、奥の扉へ続いている。


 石扉は開いていた。


 その向こうから、冷たい風が流れてくる。


 誰かが奥へ入ったのは間違いない。


 それでも、アルトは扉をくぐらなかった。


 地図へ位置を書き込み、赤いチョークで危険の印をつける。


「戻ろう」


 行方不明者の捜索が必要なら、改めて依頼を出してもらえばいい。


 準備もなく追いかけることは、救助ではない。


 遭難者を一人増やすだけだ。


 アルトは来た道を戻った。


 ギルドへ到着したのは、日が傾き始めた頃だった。


 受付へ地図と手帳を提出する。


 罠の構造。


 石像との戦闘。


 二人分の足跡。


 そして、借金に反応した壁の印。


 報告を聞いていた職員の表情が、途中から変わった。


「この印を、もう一度描いてもらえますか?」


 アルトは別の紙へ、広間で見た印を描いた。


 職員はその紙を持って、奥の部屋へ消えた。


 しばらくして、契約管理を担当する職員が現れた。


 職員は印と青い結晶の欠片を交互に見る。


「どこで、これを見つけました?」


「最初の広間です。印に近づいたら、俺の借金と技能担保の数が表示されました」


「間違いありませんか?」


「残額は二百九十三金貨。今の契約残高と同じです」


 職員は黙り込んだ。


「何か知っているんですか?」


「この印は、現在使われている技能担保契約の印と構造が似ています」


「似ているだけですか?」


「いいえ」


 職員が紙の一部を指さした。


「こちらのほうが古く、そして完全です。現在の契約印は、この印から一部の機能を抜き出して作られた可能性があります」


 アルトは広間で聞いた言葉を思い出した。


 契約継承者。


 あの石像は、何を測ろうとしていたのか。


「遺跡の奥に、契約の仕組みを作ったものがある?」


「まだ断定はできません。ただし、入口だけで債務残高を正確に読み取った。偶然ではないでしょう」


 ギルドは、古い坑道を一時封鎖することを決めた。


 依頼は達成。


 約束どおり二金貨が支払われた。


 だが、アルトはその金貨を持って、返済所へは向かわなかった。


 裂けた革鎧。


 失った道具。


 新しく必要になる遺跡用の装備。


 先に整えるものがある。


 そして今回は、もう一つ理由があった。


 返済するたびに技能が移る契約。


 その仕組みと同じものが、古い遺跡の中に眠っている。


 借金を返すために冒険者となったアルトは、いつの間にか借金そのものの秘密へ足を踏み入れていた。

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