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借金を押しつけられて追放された俺、返済するたび元仲間のスキルが俺のものになる  作者: 月瀬 リュカ


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第24話 古い坑道の、その先へ



 古い坑道の入口調査。


 報酬は二金貨。


 依頼書だけを見れば、かなり条件がいい。


 しかしアルトは、すぐには受付へ持っていかなかった。


「調査範囲はどこまでですか?」


「崩落地点の先にある、最初の広間までです。奥へ続く通路や扉を見つけても、入ってはいけません」


「罠を見つけた場合は?」


「解除できるなら解除。危険だと判断した場合は、場所を記録して帰還してください」


「魔物がいた場合は?」


「戦闘を避けられるなら避けること。これは討伐依頼ではありません」


 アルトは依頼書をもう一度読み直した。


 求められているのは、勇敢さではない。


 正確な地図と、危険箇所の報告だ。


「受けます」


「単独で行くのですか?」


「入口だけなら。その代わり、今日すぐには向かいません」


 アルトは依頼書を受け取ると、道具屋へ向かった。


 購入したのは、白と赤のチョーク。


 細い鉄棒。


 小さな鏡。


 数本の木製のくさび。


 油を追加した予備のランプ。


 罠を解除するための道具だけではない。


 曲がり角の先を確認する鏡。


 扉を固定するくさび。


 帰り道を記録するためのチョーク。


 地味だが、どれも生きて帰るために必要なものだった。


 二金貨の依頼を受けるために、銀貨を六枚使った。


 以前のヴァリスたちなら、無駄遣いだと言っただろう。


 しかし、道具代を惜しんで死ねば、報酬どころか借金も返せない。


「罠解除が使えるからって、罠が見えるようになったわけじゃない」


 罠解除Ⅰが教えてくれるのは、見つけた仕掛けをどう扱うかだ。


 仕掛けそのものを見落とせば、何の意味もない。


 アルトは翌日まで、ギルドの練習箱と向き合った。


 構造を見る。


 音を聞く。


 焦らず、順番に外す。


 三つの練習箱を続けて解除できたところで、ようやく準備を終えた。


 翌朝。


 アルトは古い坑道へ向かった。


 坑道の入口には、立入注意を示す板が置かれている。


 中へ入ると、空気が一気に冷たくなった。


 天井から水が落ちる音が、暗闇の奥から響いている。


 通常の坑道部分には、ギルドが残した印があった。


 アルトはそれを確認しながら進む。


 やがて、崩れた岩壁の前に到着した。


 岩と岩の間に、人が一人通れるほどの隙間が開いている。


 その先は、明らかに坑道とは違っていた。


 壁が滑らかに削られている。


 床には、同じ大きさの石板が隙間なく敷き詰められていた。


「ここからか」


 アルトは白いチョークで、壁に一本の線を引いた。


 帰還経路を示す印だ。


 左手にランプ。


 右手に細い鉄棒。


 一歩進むたび、足を置く場所を鉄棒で確かめる。


 十歩ほど進んだところで、鉄棒の先が沈んだ。


 カチリ。


 小さな音がした。


 アルトは反射的に飛び退いた。


 だが、何も起きない。


「今のは……」


 ランプを床へ近づける。


 一枚だけ、周囲よりわずかに低くなっている石板があった。


 アルトは横の壁も調べた。


 膝ほどの高さに、黒い穴が三つ並んでいる。


 床を踏めば、壁から何かが飛び出す仕掛けだ。


 罠を見つけた瞬間、罠解除Ⅰの知識が頭の中で組み上がった。


 石板の下にある留め具。


 壁の中へ繋がる細い金属線。


 解除する順番を間違えれば、その場で作動する。


「分かる。でも、手が動くかは別だ」


 アルトは荷物を下ろした。


 木製のくさびを石板の隙間へ差し込む。


 体重をかけても沈まないように固定してから、細い金属線を探した。


 見つけた。


 だが、錆びている。


 無理に動かせば、途中で切れるかもしれない。


 アルトは指先の震えが収まるまで待った。


 金属線に紐を結ぶ。


 少しずつ引きながら、内部の力を逃がしていく。


 ギギギ、と壁の奥で何かが動いた。


 アルトは手を止めた。


 音が消える。


 もう一度、ほんの少しだけ引く。


 やがて、床下から金属の留め具が外れた。


 壁の穴から、鋭い鉄杭の先端がゆっくりと姿を見せる。


 アルトは息を吐いた。


 作動する力を失った鉄杭を一本ずつ抜き、床へ並べた。


 一本が腕ほどの長さもある。


 まともに受ければ、防具ごと貫かれていた。


「入口の罠でこれか」


 アルトは床に赤いチョークで印をつけた。


 罠の場所と構造を手帳へ記録する。


 さらに進むと、通路の床に薄く埃が積もっていた。


 その中に、何かの跡がある。


 靴跡だった。


 アルトのものではない。


 まだ輪郭がはっきり残っている。


「俺より先に、誰か入っている」


 靴跡は二人分。


 奥へ向かう跡だけで、戻ってきた形跡はなかった。


 ギルドが正式に調査を始めたのは今日からだ。


 ならば、許可を得ずに入った者がいる。


 アルトは追いかけなかった。


 足跡を見つけた場所と、向きを地図へ書き込む。


 依頼の範囲は、最初の広間まで。


 勝手に目的を変えれば、自分まで行方不明者になる。


 通路の先に、両開きの石扉が見えた。


 片方だけが、わずかに開いている。


 二人分の靴跡は、その隙間へ続いていた。


 アルトは鏡を棒の先につけ、扉の隙間から中を確認した。


 広い。


 天井を支える石柱が四本。


 中央には、円形の台座。


 動くものは見えない。


 アルトは扉をくさびで固定してから、慎重に中へ入った。


 広間の壁には、見慣れない文字と絵が刻まれている。


 その中央にあった印を見て、アルトの足が止まった。


 円の中に、複雑な線が何重にも重なっている。


 形は違う。


 だが、その線の繋がり方を、アルトは知っていた。


「契約印……?」


 借金の契約書に刻まれていたものと、よく似ている。


 アルトが一歩近づいた瞬間、壁の印に青白い光が灯った。


 頭の奥に、返済したときと同じ無機質な感覚が走る。


 淡い文字が、目の前に浮かび上がった。


《担保契約を検知しました》


 続けて、もう一つ。


《債務残高――二百九十三金貨》


 アルトは剣の柄に手をかけた。


 この遺跡は、アルトの借金を知っていた。

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