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第23話 第七の返済



 指名依頼で得た金貨二枚。


 灰牙狼の素材代。


 俺は宿の机で、その使い道を分けていた。


 宿代。


 食費。


 傷薬。


 武器と防具の修理。


 緊急時のために残す金。


 そのすべてを確保しても、金貨一枚を返済に使える。


 翌朝、俺は返済窓口へ向かった。


「金貨一枚を返済します」


 契約書の上へ金貨を置く。


 文字が淡く光った。


 借金残額。


 金貨二百九十三枚。


 光の粒が俺の胸へ入る。


 頭の中に、新しい知識が広がった。


 地面に残る僅かな違和感。


 不自然に張られた糸。


 石の下に隠された仕掛け。


 鍵へ触れたとき、内部から伝わる感触。


 浮かんだ文字は――


《罠解除Ⅰ》


「カスパーの技能か」


《探索》と相性のいい技能だ。


 敵や道を見つけるだけでなく、仕掛けられた危険を見破り、解除できる。


 ただし技能を得たからといって、どんな罠でも外せるわけではない。


 解除方法の知識があっても、指先が正確に動かなければ失敗する。


 失敗すれば、罠が作動する。


 剣や魔法以上に、練習場所を選ぶ技能だった。


 冒険者ギルドには、罠解除を練習するための木箱が用意されている。


 俺は受付で使用料を払い、訓練用の部屋へ入った。


 机の上に、鍵のついた箱が三つ。


 一つ目は、単純な針の罠。


 二つ目は、蓋を開けると音が鳴る。


 三つ目は、間違った場所へ触れると色のついた煙が出る。


 実際の毒や火は使われていない。


 俺は一つ目の箱を調べた。


《探索Ⅰ》


 蓋の裏に僅かな金属の気配。


《罠解除Ⅰ》


 鍵を開けるだけでは駄目だ。


 内部にある細い針が、鍵と繋がっている。


 細い道具を差し込み、針を固定する。


 それから鍵を回した。


 蓋が開く。


 針は飛び出さない。


「一つ目」


 二つ目。


 音を鳴らす金属板は見つけられた。


 だが固定が甘く、蓋を開けた瞬間に甲高い音が鳴った。


「失敗か」


 三つ目は、煙が出た。


 目の前が青く染まり、思わず咳き込む。


 三つのうち、成功は一つだけ。


 まだ実際の遺跡へ入れる腕ではない。


 俺は箱を閉じ、最初からやり直した。


 十回。


 二十回。


 指先が痛くなったところで、その日の訓練を終えた。


 部屋を出ると、掲示板の前に新しい依頼書が貼られていた。


 旧鉱山の地下で、石造りの通路が発見された。


 ホブゴブリンとの戦いで崩れた壁の奥に、古い遺跡が隠されていたらしい。


 入口付近には、人為的な仕掛けが確認されている。


 現在募集されているのは、遺跡内部の攻略ではない。


 入口から最初の部屋までを調査し、罠の位置と通路の状態を報告する依頼。


 推奨等級はE以上。


 罠を見つけられる者を優先。


 報酬は金貨二枚。


 俺は依頼書を読んだ。


 今得たばかりの《罠解除Ⅰ》。


 試す機会ではある。


 だが訓練用の箱でも、三つのうち二つに失敗した。


 すぐに受けるのは危険だ。


「この依頼は、いつまで募集していますか?」


 受付職員へ尋ねる。


「調査隊が集まるまでです。数日は募集を続ける予定です」


「それなら、明日まで待ってください」


「受けないのですか?」


「受けるかどうか、明日の訓練結果で決めます」


 新しい技能を得た。


 だから、すぐに使える。


 そんな思い込みで危険な場所へ入るつもりはない。


 もう一日練習する。


 安定して解除できるようになったら、依頼を受ける。


 できなければ諦める。


 翌日。


 俺は再び訓練用の部屋へ入った。


 一つ目。


 成功。


 二つ目。


 成功。


 三つ目。


 色のついた煙は出なかった。


 同じことを、もう一度繰り返す。


 三つとも成功。


 速くはない。


 それでも、手順を守れば解除できる。


 俺は訓練用の道具を片づけ、掲示板へ向かった。


 旧鉱山地下遺跡の依頼書を剥がす。


「この調査依頼を受けます」


 受付職員は内容を確認した。


「危険を感じた場合は、最初の部屋へ到着していなくても戻ってください。罠を一つ発見するだけでも、情報には価値があります」


「分かりました」


 借金は残り二百九十三枚。


 返済によって得た第七の技能。


《罠解除Ⅰ》


 その力を持って、俺は初めて古い遺跡へ挑むことになった。

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