第22話 初めての指名依頼
契約管理所を出た翌日。
俺は冒険者ギルドで、一枚の依頼書を渡された。
「アルトさんを指名した依頼です」
「俺を?」
「先日守った農村からです」
依頼内容は、村から町まで二台の荷馬車を護衛すること。
荷台には野菜、穀物、薬草が積まれている。
ゴブリンに襲われた畑を立て直すため、早く売って金に換えたいらしい。
「指名依頼には、通常より高い報酬が設定されています」
報酬は金貨一枚と銀貨五枚。
荷物を無事に届ければ、村から追加報酬も出る。
「受けます」
俺は依頼書へ署名した。
翌朝、二台の荷馬車が村の入口に用意されていた。
俺は出発する前に、荷物を一度すべて確認した。
「そこまで見る必要があるのか?」
御者の一人が尋ねる。
「戦闘が起きなければ、荷馬車の故障が一番の危険です」
重い穀物袋が、一台目の後方へ偏っている。
このまま坂を下れば、荷台の重みで車輪に余計な力がかかる。
穀物袋を中央へ移す。
割れやすい薬草の瓶は、藁を増やして固定した。
二台目の車輪を確認すると、留め具が緩んでいた。
「木槌を借ります」
留め具を打ち直し、油を差す。
交換用の縄と予備の木材も積んだ。
「こんな物まで必要なのか?」
「使わずに済めば、それが一番です」
出発して一時間。
道は順調だった。
俺は一台目の少し前を歩く。
《探索Ⅰ》を使い続けることはしない。
集中力が切れる。
森の近く。
曲がり角。
見通しの悪い場所。
危険がありそうな場所だけで使う。
昼前、街道脇の森に入ったところで、鳥の声が消えた。
俺は右手を上げた。
「止まってください」
二台の荷馬車が止まる。
《探索Ⅰ》
右側の茂みに三つの気配。
人間より低い。
ゴブリンではない。
四足の獣。
「灰牙狼が三匹います」
「迂回するか?」
地図を確認する。
別の道を使えば、町への到着が夕方になる。
暗くなれば、さらに危険が増える。
「ここで追い払います。ただし、俺が合図するまで荷馬車を動かさないでください」
馬を走らせれば、灰牙狼は追ってくる。
荷馬車が転倒すれば、護衛どころではない。
俺は保存食の干し肉を取り出した。
小さく切り、街道から離れた場所へ投げる。
一匹が茂みから現れた。
以前の昇格試験で戦ったものより少し小さい。
残り二匹は動かない。
正面へ出た一匹が俺を引きつけ、左右から襲うつもりだ。
同じ手を一度経験している。
「火よ」
左手に炎を灯した。
茂みではなく、街道の土の上へ落とす。
灰牙狼が火を避ける。
左右から挟むためには、炎の外側へ大きく回らなければならない。
俺は正面の一匹へ集中できる。
灰牙狼が飛びかかる。
《身体強化Ⅰ》
足と腰へ魔力を流し、半歩だけ横へ移動した。
以前より相手の動きが見える。
《剣術Ⅲ》
灰牙狼の爪を避け、着地する場所へ先に剣を振る。
刃が前足を捉えた。
灰牙狼が地面へ倒れる。
一度距離を取り、首へ剣を突き刺した。
残り二匹が左右から出てくる。
俺は火を一つ、右側へ動かした。
右の灰牙狼が足を止める。
先に左。
飛びかかってきた相手を、剣で迎え撃つ。
肩へ刃が入る。
浅い。
灰牙狼が身体を捻り、爪を振るう。
腕当てで受けた。
衝撃はある。
だが牙は通らない。
新しい剣を下から振り上げる。
二匹目が倒れた。
最後の一匹は、仲間が倒れたのを見て森へ逃げた。
「追わない」
俺は自分へ言い聞かせるように呟いた。
逃げる魔物を倒すことは、今回の目的ではない。
守るべきものは荷馬車だ。
周囲に気配がないことを確認してから、火を消した。
「もう進めます」
御者たちは、倒れた灰牙狼と俺を交互に見た。
「三匹相手に、一人で……」
「倒したのは二匹です。一匹は逃げました」
「それでも十分だ」
討伐証明だけを回収し、荷馬車を進める。
午後、道の途中で一台目の車輪が軋み始めた。
朝に積み荷を移していなければ、車軸が折れていたかもしれない。
俺は油を差し、縄で補強した。
夕方になる前に、二台とも町へ到着した。
壊れた瓶は一本もない。
穀物袋も無事だった。
「アルトさんに頼んで正解だった」
村から来た御者が、追加報酬として銀貨五枚を渡した。
ギルドの報酬と合わせて、ちょうど金貨二枚。
灰牙狼の素材代も別に受け取れる。
「次も頼めないか?」
「予定が合えば受けます」
俺は答えた。
以前は、荷物を運ぶことしかできないと言われた。
今は、荷物を守れるから指名される。
荷物持ちとして覚えた知識は、捨てるべき過去ではない。
使い方を自分で決められるなら、それも俺の力だった。




