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第四章暗殺者の過去 2(終)

「______とう……さ…ん………?」




そう、俺を刺したのは父さん、ジェイスだったのだ。あまりの衝撃的な出来事に、俺は唖然とした。

そして、ジェイスは口を開く。


「どうせこれも分身なんだろ?」


父さんが言ったのと同時に、俺の足元から、刀が飛び出す。本体である俺は、アジトの屋根におり、万が一のことを考えて、分身に本体のフリをさせていた。敵を欺くなら味方から、なんて言うが、父さんには丸わかりだったようで、俺は俺の立っていた屋根ごと中に落とされる。


「ちっ、外したか。お前の言う通り俺も鈍ってきたな。」


「父さん、嘘だよな……?なにかのドッキリだよな…………?」


まだ俺は信じられない。ジェイスが……父さんが裏切ったなんて。そんなわけ______。今までのは全部演技だったってことかよ…………?


『応答しろ!こちらAチーム!!作戦が破綻した!今すぐ撤退だ!!!』

俺が耳元のイヤホンから、仲間に呼びかけるが、誰一人として返答はない。

『聞こえてるのか!?誰か………。誰か!!!応答しろ!!!!」


「戦闘中の邪念は捨てろと言ったはずだろ、構えろ。」


父さんは持っていた刀を構え直す。


空気が重くなり、肌がひりつく。この雰囲気、この空気感は父さんが本気を出す時にしか感じないものだ。いつもなら自分には効かないはずだが、今回はそうもいかず、恐怖心と、それとは別の大きな感情によって心の整理ができないまま、背負った双剣を言われた通りに構える。


_____キーン。


刹那、父さんと俺の剣がぶつかり合う。早すぎて受け止めることしかできなかった。これにより、先刻までのまるで悪夢のようなショックが一気に吹き飛ぶ。忘れていた。彼はサーヴァント内、元No.1の殺し屋、『残花の剣豪』ジェイスなのだ。その刀に斬られた者は、誰一人としてこの世にはいないと言われる。なぜなら、全員死んでしまうからだ。その圧倒的な存在が、目の前に敵として、立ちはだかっている。


________________殺らなければ、殺られる。


自分はバックステップで後方へ下がり、分身を前に出す。父さんはかなりの強者だ。分身ではただの時間稼ぎにしかならない。俺は腰に巻いていた弓を取り出し、3本の矢を魔法で作り、父さんに向ける。


「『チェイシングアロー・アイスエンチャント』!!!」


水晶のように綺麗な氷の矢は父さんに向けて放たれる。


分身を相手にしていた父さんがこちらに意識を遣い、矢の存在に気づく。そのまま矢は片手間で弾かれてしまう。が、俺が狙っていたのは父さん自身ではなく、足元だ。父さんの足と地面が凍りつく。その隙を見逃さず、分身が渾身の一撃を繰り出す。


「『月光乱舞』!!!!」


様々な方向から斬り刻むこの攻撃は、身体の捻り方の工夫で1秒に15回相手を斬る俺の編み出した早業だ。


この早業には対応できないと判断したのか、父さんは遂に、「あれ」を見せた。


「『無流・千技受け流し』」


分身の放った攻撃は悉く受け流されてしまう。




父さんの編み出した無流。父さんはこれをスキルとしてではなく、身体強化魔法のみでこの技を実現している。その中でも『無流・千技受け流し』はその名の通り、千の技を受け止める、否、受け流す最強のパリィだ。


父さんは間髪入れずに次の技を放つ。


「『無流・疾風の二撃』」


分身に穿たれた斜めの綺麗な太刀筋が残像で見えるこの技はダメージはないものの、その音速を優に超える早さによってソニックブームが起こり、分身は建物を突き破ってかなり距離を引き離されてしまう。


また戻して分身を出しても同じことをされるだけで魔力が無駄になってしまうと考えた俺は父さんに1対1を挑むことを決意する。




手が震えた。父さんの強さは、拾われた頃から、いつも側でこの目で見てきた自分が一番解る。だめだ。戦闘に集中しろ、集中______。


そんなことを考えているうちに父さんはすでに俺の懐近くまで迫っていた。


「『無流・雷鳴の切り上げ』」


慌てて持っていた弓で防ごうとするが、目の前で真っ二つに裂けてしまう。それにしても、なんだこの技は……修行に毎回付き合わされていた俺でさえ知らない技だ。父さんはその時から俺を欺いていたのか?


後ろに下がり、双剣を構える。しかし父さんは刀を構えるでもなく、鞘にしまった。そしてこう言い放つ。


「そろそろ、決着にしようか。」


父さんは刀を鞘にしまった状態で構える。この技は一度だけ見たことがある。俺が勝手に外に出て、魔物に襲われた時だ。助けに来た父さんが見せたその技は、俺には見えなかった。


ここで決めなければ負けてしまう。双剣を一つにするように両手を合わせ、姿勢を落とす。




「『無流奥義______』」


「『影狼_________』」




戦場となっている建物は、水面でさえ揺れ動かない程に静まり返っていた。


「『無流奥義・居合』!」


「『影狼・牙突爪』!!!」


敵の急所へと寸分の狂いもなく放たれる居合とまるで狼のような鋭さで敵を穿つ攻撃が僅かコンマ1秒にも満たない程の早さでぶつかり合う。そして、コンマ1秒の時が進む頃に決着がつく。


ジェイスは無くなった右腕近くを抑え、倒れ込む。自分の感覚が失われていくのがわかった。俺が、ジェイスを、父さんを殺したんだ。


「………っょ……く………なっ…t…………。」


ジェイスは動かなくなった。しばらくしてから、自分が涙を流していることに気がついた。


その後のことはよく覚えていない。目を覚ますと、そこにはサーヴァントの生き残りのケイが俺を看病していた。彼は新人だったので、俺たちのアジトで留守番をしていて、異変に気づいたそうだ。彼が言う限りでは、あの後、俺は暴走して、外で仲間を返り討ちにしていたブラッドレインの連中を皆殺しにし、そのまま力尽きてしまったそうだ。


しかし、俺の、俺達の希望は潰えた。奴らの計画は大成功し、王家は崩壊、その3日後、俺達の住んでいた王都ザーレが滅んだ。




「そして俺は罪滅ぼしのために、ブラッドレインの残党共を2年前まで殺し続けていた。サーヴァントの生き残り、漆黒の暗殺者としてな。」


話を聞き終わった彼女はとても神妙な顔をしていた。


「お前には、俺みたいに信じていた人に裏切られてほしくないんだよ。」


かなりの長時間、沈黙が続いた。しかし、その静寂を切り裂くように彼女が口を開く。


「でも………でも私には、やっぱりシェーレンさんが裏切るようには見えません!だって………こんなに辛い過去を持っているのに、罪滅ぼしまでして……お父さんまで失っているのに……。」


「それでも駄目なものは駄目だ。」

「それでは、なんのための罪滅ぼしだったのですか……っ!」


はっ、と気づく。そうだ。俺は、俺を拾ってくれたサーヴァントに、叶わないとわかっていながら、帰る場所にもう一度行かせてほしいと願ったから、信じられる人のところに、仲間のところに帰りたかったから、俺はこの道を選んだんだろ。俺は結局、人を信じずにはいられない。


「……ごめん、今更遅いかもしれないが、一緒に来ないか。お前のためと言って断っていたが、お前のことを信じてみてもいいか………?」


そう言うと、彼女の顔はみるみる明るくなり、


「良いに決まってるじゃないですか!」

「……ありがとう。」


ここ数年、毎日張っていた気のようなものが和らいだ気がした。


「よろしくお願いします!!シェーレンさん!!!」

「こちらこそよろしく。えっと……メルトさん?」

「カーレイで良いですよ!」


「……わかった。カーレイ。」

いつもご愛読頂き、誠にありがとうございます。コメントとか書いて頂けると励みになります。アンチでも良いので。

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