第三章予想外の来客 2(終)
「あいつは………!!」
空中に浮かぶ大きい鳥、コカトリスだ。なぜAランクの魔物がこんなところに!?まずい。彼らも巻き添えに……!
「あれは……?」
「やめろ!目を見るな!!」
その瞬間、コカトリスの目が光り、3人パーティーの奴らも彼女も石化してしまった。コカトリスは目からの光線によって目があった対象を石化させてしまう。
「くそ、かなりまずい……。」
石化は5分から10分で自然に解除されるが、それまで石化したものは動けず、破壊されてしまったら、石化したものは石像のまま粉々に破壊されて死ぬ。5分稼げるか……?
以前の冷たい俺なら、いつもの人を平気で騙し、殺してきた俺なら、彼女らを置いて逃げていただろう。だが、不思議と俺の脳内に彼らを置いて逃げるという選択肢はなかった。
「『ダークネスクローン』!」
俺は分身を作り出し、本体の俺は石化した彼らを物陰へ隠す。
「クァァァアアアア……!!」
あれはっ……『ブレイズブレス』か!範囲攻撃だから避けられない……ならば!
「『トラジェクトリーオブウォーター』!」
「ガウアアアアア!!」
本体の俺は腰の魔剣を抜き、水の斬撃を繰り出す。コカトリスも炎の息を辺り一帯に撒き散らす。俺の斬撃が描いた軌跡に水が残り、炎とぶつかって爆発を起こした。そして、炎と水は相殺された。白煙が上る中、俺の分身はダメージを気にせず空に向かって突っ込んでいた。
「『シャドウブレイド』!!」
しかし、コカトリスは一気に飛び上がり、攻撃はあと一歩というところで届かなかった。
コカトリスはそのまま次の技を準備している。俺は分身を自分で高く飛ばし、もう一度攻撃を試みる。しかし、コカトリスはさらに上空へ向かい、攻撃を回避した。そのままコカトリスは翼を勢いよく羽ばたかせ、強風を巻き起こす。
「くそっ……。今度は『ウインドバースト』かっ…!」
これにはさすがに対処しきれず、石化した彼らは守れたが俺自身と分身は吹き飛ばされ怯んでしまった。コカトリスはそれを嘲笑うかの如く、石化した彼らの方へ寄っていく。……使うしかないのか。
「おい、待てよ…。いいのか?俺に時間を与えて……。」
俺はゆっくりと深呼吸をする。その瞬間、俺から溢れ出る魔力が増大していくのが自分でもわかった。それに気付き、止めようとするコカトリスであったが、もう遅かった。
俺は静かに詠唱を始める。
「『汝、余を求む。我の力を以て、真の姿取り戻せ。その真の名を、フローズンサーベル』」
持っていた水の魔剣はさらに水を纏い、その全てが凍りついた。
「驚いたか?こいつは元々、氷の魔剣だ!」
これを使うと、かなりの力を引き出せる。ただ、魔力の消費が激しく、分身と併用できず、使用できる時間も今の俺じゃ、保って1、2分ってとこだ。上等。コカトリスはまたもやブレイズブレスを放とうとしている。
「『トラジェクトリーオブウォーター・アイスバージョン』!!」
真の魔剣で描かれた軌跡の水はたちまち凍り、先程よりも大きい爆発を起こした。それにいち早く勘付き、さらに上空へ行くコカトリスを見上げた時、コカトリスの目が光り、俺は咄嗟に目を逸らす。危なかった。このままでは逃げ回られて、俺の魔力が切れ、いつか負ける。短期決戦にしなければ。
「『アイスシェルフ』!!」
コカトリスのいる空に向かって振りかぶり、魔剣を振るうと、その先は凍りつき、空への氷の道が出来上がった。俺はその道を駆け上ってコカトリスの頭上まで上がってきた。
「終わりだっ!『パーマフロストブレイド』!!!」
永久凍土のような硬く溶けない氷の刃の3連撃はコカトリスの心臓を貫いた。俺はそのまま地面にまで落ち、「シェーレンさん!シェーレンさん!!」という声を聞きながら気を失った。
気がつくと、最初に目に入ったのは宿屋の天井だった。
「気がついたのですか?」
彼女が心配そうにこちらの顔を覗く。
「ああ、このくらい、どうってことないよ。」
「無理はしないでくださいね。」
「いや、本当に大丈夫だ、慣れてるから。」
……本当に心配しているようだな。それにしてもまさかコカトリスと遭遇するとは。確認を怠って彼女を危険に晒せてしまった。不覚。いつもの自分だったら、こんなことはなかったはずだ。
…………また、他人を信じてもいいと自分を信じてしまったんだ。やはり、彼女と旅をするなど、始めから断っておけばよかった。
「改めて言うが、俺についてくるのはやめろ。………大人しく領主にでもなるんだな。」
少し考えた後、彼女は言う。
「どうしてそこまで、私についてきてほしくないのですか?」
「どうして?そりゃあ危険だからに決まってるだろ。ただでさえ、裏の世界の仕事をしてきた身だ。今まで領主様のとこでぬくぬく育ってきたお前に、この世界は本当に危ないんだ。それに、そもそも俺がお前を裏切らないなんて保証はないだろ?」
「裏切る……?少なくとも、私はシェーレンさんが裏切るような人には見えません…!」
だめだ。その考えは甘い。どれだけ信じていた人でも、どれだけ長い時間共にいても、結局人は自分のために、他人の命を踏みにじるんだ。そのままでは昔の俺と同じように……。そうか、俺は彼女に昔の俺のようになってほしくなかったのか。
次回。第四章、暗殺者の過去。お楽しみに。




