第三章予想外の来客 1
翌朝、俺は宿屋のベッドで目覚める。俺は昨日、護衛をしていた彼女、カーレイ・メルトが襲われた後、回復魔法をかけ終わり、勇者と会って、一晩同じ宿屋で共に過ごした。俺は、欠伸を漏らしながら服を着替え、一階の食堂へ向かった。食堂には、勇者パーティーの三人がおり、俺も相席して、モーニングコーヒーを啜りながら、益体のない会話を交わす。
「まさか着いてきてるとはなぁ…。」
「僕、シェーレンさんのことがどうしても気になって…!」
「そ、そうなのか?……ありがとう。」
そんな会話をしている時、一人の女が宿屋のドアを開ける。こっちに向かって歩いてきた。俺に用があるそうで、俺の目の前に仁王立ちし、
「私を、仲間にしてください!」
と言ってきた。
「はあああああ!?!?」
彼女は俺の依頼の護衛対象、領主の娘のカーレイ・メルトだった。なぜ俺なのか、そもそもどうして俺が護衛をしているとわかったのか、それにどうして領主候補が俺なんかの仲間に、など疑問はたくさんあったが、とりあえず勇者パーティーと別れ、彼女と二人きりの食事の席となった。
「はじめまして!私、領主トレイゼス・メルトの娘、カーレイ・メルトと申します。」
「それは知ってる。それより何より、お前に聞きたいことがある。
「なんでしょう?」
「まず、前提として俺が誰だかわかるか?」
「暗殺者のシェーレンさんですよね!」
彼女があまりにもでかい声で言うもんだから、
「ちょっ、ばか声がでかい。」
と止めると、
「あっ…ごめんなさい……。」
と謝られてしまった。彼女は心底凹んだような顔で、俯いてしまう。なぜか俺が悪気を覚えながらも、俺は彼女に事情を説明してもらった。
彼女によると、俺が彼女にフォークを投げて助けた時から俺の存在に気付いたらしい。身体強化魔法の魔力の流れから、俺を特定したようだ。どうにも彼女は、魔法が得意だそうで、なんとなく魔法が「視える」らしい。俺の魔力に気づくとは、中々の才能の原石だ。
そんなことはさておき、彼女が俺の仲間になりたい、要するに、俺と旅をしてみたいと言った理由だが、本人曰く、俺の戦闘力としての実力、さらには回復魔法を受けている最中の俺の彼女への優しさというものに惹かれたそうだ。俺はただ回復魔法をかけてやっただけなのだが。
「それで、俺の正体はどうやって知った?」
「お父様から、王都の方に問い合わせて突き止めたらしいですけど、私にも詳細はわかりません。」
王都で?王都の奴らでも俺の存在を知っているものは限られる。名前を知っているなら尚更だ。”あの時”以降、「漆黒の暗殺者」以外、名前は全く名乗っていなかったというのに。
「それから、お前が俺の仲間になるメリットは?」
「え?」
「だから、お前にその価値があるのか?俺はお前に暗殺業のことを知られ、名前まで知られた。この情報が他に出回らないと断言できるか?……そうしたら俺は暗殺をできなくなる。つまり、稼ぎの手段がなくなった訳だ。お前が俺に暗殺をやめさせてまで仲間になるメリットはなんだ?」
きつい言い方だが、暗殺者と共に行動することの重大さを、こいつは理解できていない。突き放すべきだ。
「え!?ええと……私、お父様と日々鍛錬をしていたので、例えば、冒険者登録をして、シェーレンさんと私で稼ぐことはできるかと……。」
「お前、それ本気で言ってるのか?冗談言うな。まさか、腕に自信でもあるとでも言うのか?」
「そ、それは……。」
「じゃあ、わかったよ。俺は冒険者の資格も持っているから、俺とパーティーを組んで俺が指定する魔物を倒せたら仲間にしてやる。」
「いいんですか!?」
「ああ、さっさと行くぞ。」
俺は冒険者ギルドへ行き、彼女との一時パーティー登録を済ませた。彼女は依頼を受けたことはないが、便宜上の冒険者カードを持っていたためスムーズに登録が終わった。それからすぐに目的の依頼を受け、街外れの平原に向かった。
「今回、お前が倒すのはベイルウルフだ。ハウンドウルフのリーダーとして動いていることが多いから、そっちも倒すことになるかもな。それから、この依頼では俺は手助けはしない。俺が手助けするほど危ない状況だったらお前は俺と行くことは無理だろうな。」
「わかりました!」
そう言って俺たちはベイルウルフを探して平原を歩いて回った。彼女はやる気満々だが、正直、彼女にベイルウルフは難しい。俺はBランクで、彼女はE。依頼を受けていないから多少の誤差はあるだろうが、精々Dランク止まりだろう。そしてベイルウルフのランクはC。さらに群れで行動するから、単独では討伐は難しく、無理難題なわけだ。元々彼女は仲間に入れるつもりなどない。
少し進んでいった先で、誰かの悲鳴や助けを求める声が聞こえた。
「!!今の聞きましたか!助けに行きましょう!」
彼女に言われるがままについていくと、目的のベイルウルフとハウンドウルフの群れにやられている三人パーティーがいた。回復役がやられていて厳しそうだ。そんなことを考えているうちに彼女は彼らに駆け寄っていた。
「大丈夫ですか!」
「あっ…あぁ、俺は大丈夫だが、こいつが……。」
しょうがない、一旦あいつらを……ん?俺は少し悪寒がする。なんだ?何かおかしい。ベイルウルフは彼らと戦おうとしているようには見えない。まるで他の奴から逃げているように……。
「グギャアアアアァァァ!!」
その時、ベイルウルフの悲鳴のような声が鳴り響き、魔物たちが次々と倒れていく。
「あいつは………!!」
どうやら悪い予感が的中したようだな。




