第二章彼女の護衛
俺はあの一件から、レイズから離れ、次の依頼が入ったセレストという街を目指していた。この森を抜けたら街が見えるだろう。
「いやっ…助けて……!」
どこからか、女の子の声が聞こえた。声のする方へ向かってみると、幼女が3匹のゴブリンに襲われていた。見たところ5、6歳ほどで戦える年齢ではないことがわかる。俺は無視して立ち去ろうとしたが、不思議と体は助けに向かっていた。俺は華麗な剣捌きで幼女を助ける。
「……?あなたは、だれ?」
素早い身のこなしで木の上に登り、顔を隠す。暗殺者が顔を見られては後々厄介だからな。
「ルリー?どこにいるの?」
何者かの声が近づいてくる。どうやら、幼女の姉のようだ。
「あっ、おねえちゃん!」
「ルリー!こんなところで何やってるの!森には来ちゃダメってお母様にも言われたでしょう?大丈夫?魔物などに襲われたりしなかった?」
「あのねあのね!あそこのきのうえにいるおにいちゃんが…………あれ?」
そこにシェーレンの姿はもうなかった。
「旅の者か、身分証を。」
「はいよ。」
俺はBランク冒険者カードを見せる。
「おぉ、Bランクか。よし、通っていいぞ。」
「ありがとう。」
俺は門を抜け、セレストに入った。そこはたくさんの人で賑わう良い街であった。前いたレイズ程ではないが街並みも綺麗だ。俺は依頼を受けるべく、指定された路地裏に向かった。そこには壁によしかかる一人の男がいた。
「あなた、道をお間違えでは?」
「いえ、"ここ"ですので。」
「名前は?」
「D。」
「漆黒の暗殺者か、依頼だな?」
「ああ。」
「今回の依頼はお前がいつもやっているような暗殺依頼ではない。」
「……何?」
「この依頼は、ある人物の護衛だ。」
俺は依頼の内容を聞き、依頼補助のために支給されたバッグを手に持ち、その場を立ち去った。
「………精々頑張ってくれよ、シェーレン。」
情報屋の彼は不気味に口角を上げながら、一瞬で姿を変え、路地裏の闇に飲まれていくように消えた。
この依頼は、この街セレストの次期領主候補である、現領主トレイゼス・メルトの娘の護衛をすることだ。護衛の場所は今日行われる、その娘の誕生日パーティーだ。現領主のトレイゼス・メルトは、この王国を治めるケレン・メルト王の甥である。ケレン・メルトは元勇者パーティーの一人であり、その功績から王座を前王から受け継いだのである。
今回は、どうやら領主を狙っているやつが領主候補であるトレイゼス・メルトの娘である彼女、カーレイ・メルトを殺そうとしているらしい。パーティーは市民であっても一定の条件で行けるらしいので、俺も参加者のフリで潜入し、護衛をするのだが、護衛に暗殺者を雇ったと噂されたくないからか、公に護衛することはできないと言われた。全く、注文が多いな。
パーティー会場は大きな豪邸で行われた。やはり王族の家系であり、栄えている街の領主ともあって、金は申し分ないようだ。さて、護衛対象は………。
「お父様、今日は本当にありがとうございます。」
「ああ、それにしてももう18歳か。早いなぁ。」
あいつ!今日助けた少女の姉だ!声でわかった。まさか領主の娘だったとは。それにしても色白で容姿端麗だな。話によると学問もそれなりらしいし、次期領主なのも納得だ。
護衛依頼が開始された。彼女はお偉いさん方と談笑している。そこへ一人のウェートレスが寄ってきた。
「一杯、如何ですか?」
「ありがとうございます。」
彼女はジュースの入ったグラス手に取る。一応、遠目からでもできる簡易的な鑑定魔法を使っておく。飲み物を鑑定したところ、なにやら強力な神経毒のような成分が検出された。まずい、彼女が飲んでしまう。
「間に合ってくれよっ……!」
人混みに紛れながら、咄嗟に俺は近くのフォークに身体強化魔法を乗せ、グラスに向かって投げた。フォークはグラスのギリギリを掠め、まるで自然に落としてしまったかのようにグラスは落ちて割れた。
「きゃっ……。」
「どうした?」
「えっ……?」
領主の娘、カーレイは一度困惑した顔を見せる。
「あ、ごめんなさい。手が滑って……。」
「怪我はなかったか?」
彼女と領主さんが話している間にバックヤードでウェートレスを絞め、気絶させた。バレてはいけないのは慣れているが、人が多くてやり辛いな。
その後もたくさんの横槍が入った。その全てを俺がなんとかバレないように対処し、パーティーは順調に進んだ。
パーティーも佳境に入っていたその時のことだった。
「依頼達成まであと一時間弱か。」
時計をちらりと確認し、すぐに彼女のもとへ目をやる。油断は禁物だ。彼女に集中していた最中、急に背後からなにか、懐かしい気配がしたような気がした。
「………!?」
警戒してすぐに振り返ったが、そこには誰もいなかった。
「ああっ……!」
彼女の悲鳴が聞こえ、彼女の方を見てみると何者かにナイフで刺されているではないか。刺した奴は大柄で体格がいい。恐らく戦闘に慣れているだろう。奴は他の本職の護衛に囲まれるも、見た目より身軽な身のこなしで裏口から外へ出ていく。くそ、"俺"では間に合わないな。
「退いてください。」
俺は危ないから下がってという警告を無視して彼女に駆け寄った。
「『パーフェクトリペア』」
俺は彼女に俺が使える一番の回復魔法をかけた。思えば、なぜ俺はこんなに必死なのだろう。ただでさえ、目立ちたくはないのに、暗殺者が領主さんたちの前で回復魔法なんて、もってのほかだ。人を助けることなんてくだらない、この世界はそんなことでは救われない、とわかっているのに。……これもあの勇者の影響かな。
一方、裏口では、
「はっはぁっ!これで大金が手に入るんなら安いもんだぜ!」
彼女を刺した男はそう言って逃げようとする。しかし、俺はその道を阻んだ。
「やぁ。同業者さん。」
「てめぇ、会場にいたやつ!まさか護衛だとはな。しかもお前、漆黒の暗殺者じゃねぇか!」
「よく知られているようで嬉しいよ。」
俺は背中の双剣を構え、臨戦体制に入る。
「ふん!かかってこい!」
俺は俊足で男の懐に潜り込み、斬撃を喰らわせるもナイフで弾かれる。こいつ、強いな。
「おいおい、そんなもんか!」
巨体とは思えないほど素早い突きを連続で出され、思わずバックステップで下がる。
「いいのか?距離を取っちまって。」
奴の言うことは正しい。恐らく彼は俺と同じく、フリーランスの暗殺者だ。依頼はきっと彼女の殺害。
もうすでに目的は果たされていると彼は思い込んでいるだろう。ここで引いてしまうと、奴に逃げられてしまう。かといって今攻められるほどの力は残っていない。俺は分身だが、分身は魔力をかなり消費する。今本体が回復魔法を全力でかけているせいで、このままでは魔力不足だ。分身が残せるのもあとほんの少しの間だけ。どうする………!!
「『閃光斬』!」
俺でさえ気づかなかった。奴の後ろから光放つ振り下ろしが奴の背中を斬り裂いた。奴はその場に倒れ込み、奴を斬り裂いた者の顔が見える。敵の増援の可能性も考えた自分が馬鹿らしくなってきた。
彼は勇者、アテリアだった。
「……ほんと、お人好しだな。」
ご愛読頂き、誠にありがとうございます。今の所、全十五章を予定しておりますので、これからも楽しんで頂けたら幸いです。




