不思議な店主が出す条件
2泊目の宿では別段トラブルらしきトラブルは無かったが、私の家族の方にトラブルが発生した。
朝起きたら双子の妹の片割れ、ムーンが熱を出してしまっていたのだ、
セバスが即座に宿場町に居る医者を手配して、ムーンの往診を依頼した結果、
「どうもお嬢様は軽い風邪をひかれた様です。
取り敢えずは安堵にして様子を観られては如何でしょうか?」との事だったので、この宿に連泊してムーンの様子を観る事にした。
そしてもう一つ私達には懸念事項があった。
この妹達の特性として、必ず双子の片割れが風邪をひくと、もう一方も風邪をひいてしまうのがこの可愛い双子の妹達の特徴だったので、一応の用心としてこの宿場町で連泊してムーンをゆっくりと休まさせる事にして、関係各所に連泊する事を知らせる為にジェラがバンバンに騎乗して飛び立って行った。
私は暇になったので、この宿場町で少し散歩をして時間を潰す事にして、外出用の正装から、ラスタの街中を散策する時に着ている服に着替え、取り敢えずは町の中心部にある大きな噴水の場所まで行ってみる事にした。
「アスト様、お出掛けですか?」
「ああセバス、天気も良いし折角ラスタとは違う町に来ているのだし、少し散歩してムーンとマリンに何か美味いものでも探して買って来るよ♪」
「アスト様御一人で大丈夫ですか?」
「ああ問題は無いよ、万が一僕を襲おうとする不埒者が居ても・・・」と、私は指先でパチパチと小さな火花を立てて見せる。
「セバスは、セバスの妹達と一緒にマリンとムーンの警護を頼むね、ジェラが帰って来たらきっと騒ぐとは思うけど、上手く言い訳しておいて♪」
「はい、畏まりました。
出来るだけ早くお帰りください。
私の身の安全の為にも・・・」
「アハハハハ、セバスの為にもなるべく早く帰って来るよ♪」
「はい、行ってらっしゃいませアスト様、」とセバスは笑顔で私を見送ってくれた。
実はこの宿場町、王都へと続く街道沿いの宿場町としては意外にも色々と見所がある町だったりする。
この宿場町は『温泉が出る町』としても有名な場所で、何と町の中心部にある大きな噴水の側には、旅人達が自由に使える『足湯』も在るのだ、私がこの世界に来てからはいまだに『温泉』には入った事は無かったが、昨夜利用した宿の風呂は微かに硫黄の匂いがする赤茶けた正に『温泉の湯』であった。
ジェラ曰く、
「昨夜のムーン様とマリン様は、この宿の大きなお風呂を大層気に入られて、散々騒いでお風呂の中で走り回っていましたから、きっとその後お部屋で寝る際にも体が熱ってしまって、夜中に掛布を剥いで寝てしまわれて、その事が原因で風邪をお召しになったのでは無いでしょうか?」と言っていたが、確かに私も昨夜は体が熱ってなかなか寝付けなかったので、薄いシーツをお腹に掛けただけで眠りについた。
念願の『足湯』を堪能した後は、この町の辻の各所に出ている屋台を覗きながら、今日の探索の目的の一つでもある本屋巡りをしながら、3件目の本屋に入って、本屋の本棚に並んでいる本の背表紙に書かれているタイトルを世読んで行き、気になった本を手に取る。
これまでに入った本屋では、私が本を手に取ろうとするとあからさまに店の店主らしき人物が大きな咳払いをしたり、店の店内にいたガードマン?らしき人物に注意を受けたりしたが、その度に貴族家の子息である証拠である鑑札を見せていたが、その度に店の店主の態度が露骨に変わるので、早々に切り上げて店を出て来ていた。
しかし、この店の主人はその様な素振りも見せず、逆に『少年、何か本を御探しかな?もし本棚の高い場所にある本が見たかったら、そこにある脚立を使って自由に本を見ると良いよ。』と言ってくれたし、更には『少年、そんなに真剣に本を選んでいたら疲れただろう。この老人に付き合ってお茶でもどうかね?』と、なんとお茶にも誘ってくれた。
店の本棚の奥にあるスペースに連れられて行くと、そこには座り心地の良さそうなソファーが数セット設置されており、その横には小さなテーブルまで置かれていて、先客がいた様で、数人の客らしき人達が本を片手に読書を楽しんでいた。
「少年、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。
少年の顔は初めて見る様だけれど、この町は初めてかな?」
「はい、この町には初めて来させて頂きました。」
「少年、儂に対してその様に丁寧な言葉遣いは不要じゃ、察するに何処ぞの貴族か何かの子息じゃろう?」
「どうしてそう思われたのでしょうか?」
「なに簡単な理屈じゃ、まず一般平民の子供達は特殊な事情のある子以外は『本』を読もうとはしないばかりか、何やら苦手意識でもあるのか『本屋』自体に近付こうとはせんよ、そして少年が熱心に探していた本のタイトルは全てが『空間魔法』系の蔵書で、しかも空間魔法の低級魔法に関する本は全て飛ばして、中級魔法以上に関するタイトルの本ばかりを見ておったからな。」
「そうだったんですね、私はアスト・フォ・・・ 」
「良い良い、この店では家名なんぞ関係無い、ただ本が好きな者が、好きな本をここで読んで行っても良いし、買って帰ってゆっくりと読むも良し、そんな『本好きの為の店』だからな♪」と目の前の初老の男性が笑う。
「旦那様、お茶をお持ちしました。」と、どう見ても人と大差ないサイズのビスクドールが私たちが座った席までお茶を運んで来た。
「ああ、ありがとうソフィー、さあアストと言ったかの少年、折角の紅茶が冷めては勿体無い、おおそうだ、御茶請けにこのクッキーでもどうだ?」と、空間収納から取り出したクッキーを私に勧めてくれる。
そのクッキーを一口齧ると、口の中に優しい甘さが広がり、思わず『美味しい・・・ 』と呟くと、
「よかったなソフィー、小さなお客様もお前が作ったクッキーを美味いと褒めてくれたよ! 君が淹れてくれる紅茶も、このクッキーも、いつも美味しいよ♪」
「紅茶も、このクッキーも決まった分量を決まった手順で作るだけです。
何も難しい作業ではありませんから。」
正直、ここまでの動作をする自動人形を見るのは初めてで、驚きの表情で見ていたのが可笑しかったのか?この店の主人は終始ニコニコと笑顔である。
「所でアスト少年、君はどんな本を探していたのかな?」
「はい、実は、この町は『大賢治ファースト』様ゆかりの地であり、ファースト様が書かれた書籍も沢山あると聞いてて、ファースト様が書かれた『亜空間魔術書』の中級編以降の本を探していました。」と、私も空間魔法を展開して『ファースト著・亜空間魔法初級編』を取り出して見せた。
「ほう!魔法に興味があるのか? しかも扱える魔法が空間魔法系の上位互換である亜空間魔法と言うことか! ならばいくら店の棚を探しても残念な事にアスト少年が探している本は見つからない筈だ、何故なら、この店の棚にはファーストが書いた亜空間魔法に関する書籍は無いからな、第一、その亜空間魔法初級編でも手に入れるのはかなり困難な筈、アスト少年、君はどうやってその本を手に入れたのかね?」
「僕の兄の魔法の師匠であり、王都学園の学長を務めている方から、とある貴重な品と交換して頂きました。」
「ほう、古龍の牙か?爪・・・ いや神龍の髭とでも交換したのかい?」
「何故分かったのですか?」
「ああ、王都の学園の学長を務めている奴は、私の古い知り合いだからね、なるほど謎は解けた。
ソフィー、私の書斎からアレを持って来てくれないかな?」
「はい旦那様」と返事をした。
「どうした?そんなにソフィーが気になるのかい?」
「はい、あの様に滑らかに受け答えが出来て、淀みの無い動作で動けるオートマターを初めて間近で見たもので、」
「私もソフィーが居るおかげで色々と助かっているよ」
「ご主人様、頼まれた物を持って来ました。」
「ありがとうソフィー、アスト少年が探している本はコレかな?」と言い、本屋の店主がテーブルの上に置いた本は、『ファースト著・亜空間魔法中級編』と『ファースト著・亜空間魔法上級編』の2冊の本だった。
「アスト少年、条件によっては君にコノ本を譲ってあげても良いよ!」
「条件ですか?」
「ああこれは絶対条件かな?」
「その条件とは?」
「アスト少年が今使える魔法を全力で行使しする様子と、その行使される魔法の種類が見たい。」
「僕が得意な魔法で、しかも全力で魔法を使えば良いって事ですか?」
「そうだね、それでどうする? 私の試練を受けてみるかい?」
「はい!お願いします。」
「良い返事だ♪」
何故か、私の得意な魔法を全力で行使する様子を、この本屋の主人に見せる事になったが、魔法を使う場所がちょっと問題だった。
まずこの本屋の中で魔法を行使するのは無理である。
ならば町の中? いや町の中でも無理だ・・・
そこで思い付いたのが私の『マイワールド』しかないかな?と思い。
本来なら極力秘密にしたかったのだけれども、本屋の主人を私の亜空間魔法で作った特殊な空間へと案内する事にした。
座っていたソファーから立ち上がり、何も無い空間に右手の掌を差し出すと、掌の先の空間がグニャリと歪んで別の空間へと繋がる。
「どうぞ入って下さい。」と自分が先にマイワールド内に足を踏み入れて見せてから、マイワールド内へと本屋の主人を招き入れる。
ただその際に、ソファーが並んで居た場所で静かに紅茶を飲みながら本を読んでいた髭面の壮年の男性・・・ 父ハンザと比べても10歳くらいは髭面の壮年男性が年上ではないかと思われる人物も一緒に私のマイワールドの内に足を踏み入れて来た。
「あの〜・・・ 」と、その髭面の壮年男性に声を掛けようとしたら、
「ああ私の事かね? 私の事は気にしなくても良い。」と言い切られてしまい。
再度、髭面の壮年男性をマイワールドから出させようとしたら、
「アスト少年、この人は居て貰った方が君には良い結果になると思うよ!」と本屋の主人が言うので、仕方なく髭面の壮年男性もマイワールドの内に入る事には納得する事にした。
私のマイワールドに入って来た本屋の主人と、髭面の壮年男性は、
「私の知る『マイワールド』とは何かが違う?とは思うが、師匠はどう感じました?」
「私のマイワールドとは根本的に何かが違うとは思うけれど・・・ うぅ〜ん・・・?」と二人は何かを話し合いながら歩いて行く、私はその後を付いて歩いていたが、
ただ、マイワールド内を歩いているだけでは、本屋の主人から出された条件である『魔法を全力で行使しする事』と、その『魔法の内容』を本屋の主人に見せる事が出来ないので、前を歩く二人に声を掛けて私の方を見てもらう事にした。
「すみません、そろそろ僕の魔法を観て貰っても?」
「えっ!?・・・ 」
「!?・・・ 」
何故か私の前を歩いていた二人が、顔を私の方に向けたまま固まっている様子を見て、
『私は何か変な事でも言ったのだろうか?』と少し心配になる。
「アスト少年、ちょっと確認させて貰っても良いだろうか?」
「はい。」
「この『マイワールド』と云う魔法で作った亜空間が『アスト少年の最高の魔法』では無いのかい?」
「いいえ、この空間は今から実演する魔法を使って見せる為に用意した場所です。」
「そっ・・・ そうなのか?」
「・・・・・ 」
何故か本屋の主人は呆れた様子の表情をしているし、髭面の壮年男性はあんぐりと口を開けた格好で固まっている。
「では、今の僕が行使できる最大、最上級の魔法をお見せしますね、ただし、この魔法を全力で使ったら、多分、いいえ僕は間違いなく魔力欠乏症で倒れてしまうと思います。
ですので、僕が倒れて意識を手放したら、このマイワールドの出入り口が自然と閉じてしまうと思うので、ここに非常用の出入り口を展開しておきます。
僕が倒れてしまったら、この非常用の出入り口を使って僕を引っ張って外に出て下さい。
僕がこの非常用の出入り口を出ると、自動的にマイワールドの出入り口も閉じるので、あちら側の空間には何も悪い影響は出ないと思います。
では僕の最上級魔法を全力で使おうと思います。
ただ僕自身、今まで魔力が枯渇するまで魔法を使った事が無いので、お二人は、万が一の時には直ぐに非常用の出入り口から外の世界に逃げて下さいね。」と言い、空間収納の中から拳大の白金色した果実の様な物を取り出し、二人から離れた場所まで歩き、土魔法でマイワールドの地面に約直径3m、深さ1〜2m程の穴を掘ると、その穴の中に飛び降りて果実の実をそっと優しく置くと、また土魔法を使って果実を置いた穴を埋め直す。
「では準備が出来たので、今から行きます。」
世界創生『 "creation of the world"』




