第31話「消えた恒星」
それは、静かに起きていた。
誰にも気づかれないほど。
だが確実に――
宇宙は変わり始めていた。
銀河外縁。
観測基地「アーク・ステーション」。
無数のセンサーが、恒星の動きを常時監視している。
通常、星は変わらない。
数百万年単位でしか。
だが――
「……あれ?」
若い観測員が、モニターを見つめる。
「この星……」
データを拡大する。
光度。
質量。
スペクトル。
すべて正常。
だが。
「……位置が、ズレてる?」
本来の軌道から、わずかに外れている。
誤差レベル。
だが。
次の瞬間。
その星は。
消えた。
「……え?」
観測員が固まる。
データを再確認する。
エラーではない。
ノイズでもない。
「……消えた?」
通信が飛ぶ。
「司令部!こちらアーク!」
「恒星が一つ、消失しました!」
ユグドラシル。
司令室。
空気が一変する。
「……消失?」
司令官が眉をひそめる。
「破壊ではないのか?」
「違います!」
観測データが表示される。
爆発なし。
残骸なし。
エネルギー反応なし。
「まるで……」
誰かが呟く。
「最初からなかったみたいに。」
沈黙。
レイが画面を見つめる。
「……違う。」
静かに言う。
「“なかった”んじゃない。」
少し間。
「変わった。」
その頃。
医療区画。
ソラはベッドの上で目を開けた。
「……ん。」
白い天井。
静かな部屋。
「……戻ってる?」
自分の手を見る。
ちゃんとある。
重さもある。
少し握る。
「……人間だ。」
小さく笑う。
だが。
違和感がある。
“広がり”が残っている。
宇宙の感覚。
重力の流れ。
どこかで、まだ繋がっている。
「……完全には戻ってないな。」
ドアが開く。
ミナトが入ってくる。
「起きたか。」
ソラが笑う。
「おはよ。」
ミナトはじっと見る。
「……どうなった?」
ソラは少し考える。
「えーと。」
「勝った……かな?」
ミナトが苦笑する。
「曖昧だな。」
そのとき。
警報が鳴る。
《緊急観測アラート》
ソラとミナトが同時に振り向く。
司令室。
データが次々と更新される。
「恒星消失、二例目確認!」
「三例目!」
「増えてます!!」
司令官が叫ぶ。
「原因は!?」
観測官が答える。
「不明!」
「ただし――」
画面に映るのは。
奇妙なグラフ。
「重力パターンが……」
レイが目を細める。
「……似ている。」
「何に?」
レイは静かに言う。
「ソラの重力。」
医療区画。
ソラが立ち上がる。
「……あー。」
頭をかく。
「これ、やばいかも。」
ミナトが聞く。
「何が?」
ソラは真面目な顔で言う。
「宇宙、ちょっと壊れた。」
沈黙。
「……ちょっと?」
ソラは笑った。
「たぶん。」
「かなり。」
そのとき。
遠くの宇宙で。
“消えた恒星”が。
別の場所に現れる。
誰にも観測されない場所で。
新しい軌道で。
新しい意味を持って。
宇宙は。
すでに変わり始めていた。
そしてそれは。
人類にも。
制御できない領域へ。
広がっていく。




