魔物討伐
小石丸と討伐隊の男たちは、食事を終えると移動を開始した。
「俺たちはユナヴィルって農村の農民なんだけどな、最近魔物が家畜を襲うようになっちまって」
リーダーの男が歩きながら小石丸に事情を説明する。
討伐隊の男たちは小石丸よりも一回り小柄で、身長百八十センチを超える彼よりも頭一つ分くらい小さかった。
小石丸は食べ終えた肉の骨を口に咥えながら話を聞いている。
「その魔物、あまり強くないから放っといたんだが、ついに子どもが襲われた」
リーダーは一瞬目を閉じる。
笑っていた男たちの顔から笑顔が消えた。
「最近出没する魔物は、魔物にしては知能がある方なんだが、小柄で力も弱い。普段農業で鍛えてる俺たちの敵じゃない。だから人数集めて討伐しようって話になってな」
討伐隊の男たちは、リーダーの言葉に神妙に頷く。
どうやらあまり強くない魔物らしいが、男たちに油断はなかった。
――まあ、小石丸には話の半分も理解できてはいないが。
「うん、肉もらう」
小石丸が骨を掲げて言うと、男たちは笑った。
「面白いやつだな。俺の名前はカトル。ユナヴィル村の自警団長をしている」
人懐っこい笑顔を向けて、カトルと名乗ったリーダーの男が右手を差し出す。
少しウェーブのかかった短髪に、無精ひげ。
ひげのせいで分かりにくいがきっと若いに違いない。
農業で鍛えたと言うだけあって、豆だらけの分厚い手だった。
しかし、元犬である小石丸には“握手”の概念などなかった。
最も慣れた手つきで、右手をその上に重ねた。
「……握手を求めたつもりだったんだが。これは……?」
「……お手?」
静かに、ただ静かに冬の冷たい風が流れた。
ふと、小石丸が何かに気付いたように顔をあげ、鼻から大きく息を吸い込む。
「――なにか、近くにいる」
先ほどまで談笑していた男たちが、一気に真剣な顔になる。
「……分かるのか? 確かにそろそろ魔物が出てもいい頃合いだが」
「うん、生き物の匂い。嗅いだことない匂い」
「匂い? みんな分かるか……?」
一同、首を横に振る。
だが、小石丸の鋭敏な嗅覚が、異質な匂いをくっきりと拾っていた。
半信半疑ながら、カトルたちは彼の先導に従う。
しばらく歩いた先。低い丘の向こうに――魔物はいた。
「これは……多いな…………」
ざっと見て三十体。
二足歩行で身長は百四十センチ程度。頭は、なんと犬の顔をしていた。
「あれが――コボルトだ」
カトルが声を潜めて言った。
全員ボロ布を纏っているため体型は分からないが、見えている部分の腕も足も、みな細い。
こちらは小石丸を合わせて十一人。
数の上では圧倒的不利だが、成人男性なら素手でも勝てそうなほど、コボルトは小柄で弱々しく見える。
まして、人間側は武装していて相手は素手。
勝てる――と、男たちは思った。
「みんな、囲むぞ。俺が前に出る」
カトルの指示に、討伐隊の男たちは無言で頷く。
と、その時だった。
最も近くにいた、子どもと思われるコボルトの少年がこちらに気付いた。
さすが犬の魔物である。
風下を取れていたのに――風向きが変わった瞬間に目が合った。
コボルトの少年は武装した人間を見て、警戒の遠吠えをあげる。
人間たちには「ワオーン!!!」としか聞こえなかった。
だから彼らは逃げられる前に仕留めようと身構える。
逃がせば、また村の子どもがやられるかもしれない――討伐隊の誰もが思った。
だが、小石丸にはコボルトの遠吠えが、意味を持った言葉として聞こえていた。
『兄ちゃん、人間だ! 助けて!!!』
男たちが飛びかかろうとした瞬間。
風と共に、一体のコボルトが現れる。
頬に傷のある、二本のナイフで武装したコボルト。
足運びと身のこなしが他のコボルトとは明らかに違って洗練されていた。
戦士といった風情の彼は、人間たちに向けて咆哮をあげる。
凛々しいコボルト戦士の迫力に、皆の足が少しだけ止まった。
だが、小石丸にはこう聞こえていた。
『いくらなんでも十一人は多いって!!!!』
コボルト戦士の悲痛な叫びは、小石丸にしか届かなかった。




