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勇者、柴犬―飼い犬が異世界に転生して飼い主を探すようです―  作者: konzy
犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ

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闘技大会、一回戦

 白炎のゾルバは、気絶したカトルを抱きとめると、横抱きにして自ら医務室の方へ運んでゆく。

 誰も期待していなかったカトルの健闘に、会場から大きな歓声が上がる。


「ゾルバ相手に二撃以上耐えた人間を初めて見たぞ!!」


「英雄相手によく戦った!! 大したもんだ!!」


 気絶したカトルには、賞賛の声は届かない。

 一撃も入れられなかったにもかかわらず、歓声は鳴りやまなかった。

 それだけ、毎年ゾルバが圧倒的強さを見せつけて優勝している――ということなのだろう。


「では、次の試合始めます!! 港町ウィペットの漁師シシドと対するはシュナウザー男爵家長男トリスタン・シュナウザー!!」


 試合は、淡々と進んでゆく。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 控室では、ハチが木を削って、器用に短刀を作っていた。

 殺してしまっては負けというルール上、本物の短刀で戦うのは難しすぎる。

 なにせ、短刀の戦い方は基本急所狙い。

 一撃で致命傷を与える訓練しかしていない。


 刃を潰した木の短刀でも、急所に当たれば痛いだろうが、死にはしないだろう。


『人間の戦士たちの中でどれだけ戦えるか、試してやる』


 コカトリスに村を追われ、カトル達村人たちにも負け、再度のコカトリスの襲撃で死にかけた。

 とにかく自分の無力さを痛感されられる毎日であった。


『カシム様について来て良かった。ゾルバ様の戦い方も参考になる』


 ゾルバの、見た瞬間の威圧感。


 ハチはゾルバに自然と「様」を付けて呼んでいた。

 人型の魔物と獣人の違いは、ほぼ、言葉が通じるかどうかだけである。


 獣人たちは滅び、今ではゾルバただ一人――そう聞いていた。


『ゾルバ様かカシム様に当たるまでは負けない――!』


 公平を期すために、トーナメント表は選手たちには発表されない。

 皆、いつ呼ばれ、誰と戦うか分からないまま一人で控室で待ち続けることになっていた。


「ハチさん! 次出番です!!」


 控室の戸が叩かれ、ハチが呼ばれる。

 キュウと二人で()()()人間の言葉を勉強しておいて良かった。

 声帯が発音に向かないため、言葉を発することはできなかったが、それでも今役に立っている。


『母さん、行ってくる』


 誰にも聞こえないように、小さく「わん」と吠えたハチは控室を出るのだった。


「さあ、やってまいりました。一回戦第四試合!!!」


 ハチがコロシアムの舞台に足を踏み入れると、向かいには全身黒服の男が立っていた。


「素顔も声もすべて謎、正体不明の小兵ハチ!!」


 声に合わせて、歓声があがる。

 どうやら会場は盛り上がっているようだ。


「対するは、暗殺者一族の戦士トキシィ!! どちらも武器は短刀だ!!」


 ハチは先ほど削った木の短刀を、相手は金属の短刀を構える。


「さて、どんな戦いが見られるのか! 試合開始だ!!!」


 両者同時に地面を蹴り、一気に距離が詰まる。


 ハチは、右肩を狙ったトキシィの短刀を躱し、カウンターで首を狙う。

 相手もギリギリで躱して距離を取った。


「……なかなか速いな」


 トキシィは、連続で短刀を繰り出す。

 だが、ハチはことごとくを避け、反撃に転じる。

 狙いすましたハチの一撃が、トキシィの脇腹に刺さる。


「く――やるな」


 トキシィは右脇腹を庇いながら、ガムシャラに短刀を突き出す。

 もはや、狙いすました一撃ではない。


「当たれば私の勝ちなのだ」


 ハチの攻撃が何度も当たるが、所詮は木の刃。ダメージは蓄積するが、トキシィの前進を止めるには至らなかった。


 防御を無視した連続攻撃が、ハチの腕の皮膚を軽く傷つける。


 ――血も出ないほどのかすり傷。


 だが、トキシィは勝ちを確信したかのように満足げに嗤うと、ハチから大きく距離を取った。


「ふはは、油断したな。もう動かんぞ、その腕」


 傷を負った腕が、少しずつ重くなっている。


「参ったと言えば解毒剤をやろう」


 トキシィは、勝ち誇って笑った。

 じりじりと距離を詰めようとするハチから一定の距離を保つように後ずさる。


 右腕の麻痺が徐々に広がってゆく。


『――なぜだろうな。毒で負ける気がしないのは』


 ハチは、自分でも驚くほど冷静だった。


 毒ならもう、もっと危険なものを大量に浴びている。


『コカトリスの毒はこんなに優しい物じゃなかった!』


 ハチは、地面を蹴って一気にトキシィとの距離を詰める。


 相手も速さを売りにする暗殺者である。遅いわけがない。


 だが、小石丸に付いて毎日走っているうちに、ハチの速度も確実に上がっていた。


『カシム様はもっと速い。そしてオウルベアはもっと強かった!』


 本気の速度で迫るハチに、もう逃げきれないと覚悟したトキシィは短刀を構える。


 右手で再度脇腹に一撃を入れる――と見せかけて、左手の木の短刀を膝の裏に突き立てる。


「ぐがっ!!!」


 機動力を奪ってしまえば、もうハチの敵ではない。

 そのままトキシィの喉元に木の短刀を突きつける。


「……参った」


 さすがに木でできた短刀とはいえ、首に突き立てられれば無事では済まない。

 トキシィは負けを認めると、力なく項垂れた。


「それまで! 勝者ハチ!!!」


 ハチは安心したように息を吐く。


「素早さも技量も、終始ハチ選手の圧倒。毒を受けても怯まない勇気は称賛に値します」


 歓声が、コロシアム全体を揺らす。


 審判の視線が副審に飛ぶ。

 副審は赤い旗を揚げていた。


「……さて、殺しては負けのルール上、毒は反則です! 使用を自白した時点でトキシィ選手の反則負けでした!!」


『そういうことは早く言ってくれ……』


 ハチを称賛する声も響くが、彼には聞こえてなかった。


『毒……どうしよう!』


 右腕の麻痺が広がっている。

 もうすでに、肩が上がらなくなっていた。


 ハチは控室に走った。


『カシム様と――ライカの匂いはどこだ!?』


 程なくして控室は見つかる。


 小石丸がいると思しき扉を開けると、彼は叫んだ。


『ライカ、毒くらった!! 助けて!!!』


 まだまだ締まりきらないハチなのであった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「さあ、一回戦ラストの試合。オウルベアを殴り倒した男、カシム!!」


 なぜオウルベアの話が漏れているのか。

 情報源は分からないが、小石丸の登場に会場がどよめく。

 小石丸は、()()()()()落ち着きなく走り回っていた。


「対するは、傭兵歴十五年にして闘技大会歴も十五年。最高成績は準決勝進出。歴戦の猛者ランベール!!」


 全身に負ったいくつもの古傷が、彼の戦歴を物語っていた。

 ランベールは丁寧に頭を下げると、油断なく大刀を構える。


 小石丸は、落ち着きなく走り回りながらも、先ほどハチに言われた言葉を思い出していた。


 それは――


「それでは、試合開始!!」


 掛け声とともに、小石丸がランベールに向けて駆け出す。

 目にも止まらぬ速さで、彼の右腕がランベールの腹にめり込んだ。


 歴戦をくぐり抜けた分厚い革鎧が裂け、ランベールの体がくの字に折れ曲がる。


 ――試合前、きっと闘技大会のルールなど覚えられないであろう小石丸に、ハチはこれだけを伝えていた。


『試合開始――と言われたら全力で駆け寄って相手の腹に一撃入れてください』と。


 ハチの作戦は当たり、歴戦の猛者ランベールは彼の十五年の闘技大会歴の中で初めて、手も足も出ずに初回敗退という経験をすることになった。

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