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勇者、柴犬―飼い犬が異世界に転生して飼い主を探すようです―  作者: konzy
煩悩の犬は追えども去らず

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薬草の値段は

 『竜血草』がいくつも入った袋を抱え、小石丸は満足そうに笑う。


「いっぱい! 取れた!!」

「やっぱり、カシムとハチの嗅覚はすごいな……」


 カトルは青く光る池の横に腰掛けると、ハチと小石丸を見る。

 青い花は岩場で目立つため視覚でも見つけやすいはずなのに、匂いで探せる二人には敵わなかった。

 比較的見つけにくい場所に隠れて生えているものが多く、カトルが見つけられたのは最初の一本だけだった。


 あとは、小石丸が九本、ハチが三本。


 計十三本を採取したところで、ほぼ見つからなくなってしまった。


『竜のように生命力にあふれた草だから、そのうちちゃんと生えてくるのよ』


 ライカは胸を張って小石丸に言う。


「今回は、ライカが大活躍だったな」

「ライカ、すごい! いろいろ知ってる!!」

『ああ、ライカがいなかったらこんな山の上にある草、見つけられなかっただろう』


 カトル、小石丸、ハチに三者三様の褒め方をされて気恥ずかしくなったのか、人見知りのライカは小石丸の足元の地面にひっこんでしまう。


 岩から伸びるライカの葉っぱが、嬉しそうに揺れていた。


「……岩場にも潜れるんだな、アルラウネって」


 いまさらなことをしみじみ感心しながら、カトルが言う。


「じゃあ、少し休憩したら帰るか」


 カトルの言葉に、頷くハチ。


 返事のない小石丸はそわそわと落ち着かなそうにしている。


「……カトル、のどかわいた。水ちょうだい?」


「……あ、しまった俺も無い」


 ハチを見るが、彼も無言で首を振る。


 三人は青く光る池の水を、じっと眺める。


 そして――。


「おいしい! おいしいよ池の水!!」


 最初に飛びついたのは、もちろん小石丸であった。

 次にハチが飲み、最後にカトルが恐る恐る飲んでみる。


「澄んでいるのに、濃厚な生命力を感じるこの味……なんだこの水」


『旨い。水を飲んで旨いと思ったのは初めてだ』


 美味しそうに水を飲む三人。

 その声に誘われたかのように、ライカが地面から顔を出す。


『……みんな、池の水飲んじゃったのよ?』


「ライカ、水、おいしい!」


『この水、多分本当に竜の血が混ざってると思うのよ』


「うん?」


『御前様は体力があるから大丈夫だと思うけど、二人はきっと大変なのよ……』


 口ごもるライカに、ハチは池の水を見つめる。


 ライカの言葉が聞こえないカトルは、持ち帰るために三人の革袋に池の水を詰めていた。


『この水……毒なのか?』

『毒じゃないのよ。むしろ元気が出ると思うけど――たぶん、帰りに分かるのよ』

「じゃあ、なんか元気出てきたし帰るか!」


 何も知らないカトルが一行に笑顔で話しかける。


 この水の効能は、帰り道に分かることになった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「…………なあ、行きは七回の休憩を挟んで十時間かかったよな?」


 どんどん近づくケアンテリアの門を見ながら、カトルは呟く。


「休憩抜きで七時間ぶっ通しで走れたんだが、俺の体は大丈夫か……?」


 休憩もしてないのに、息が切れない自分の体に恐怖を覚えつつカトルが言う。

 ハチも同様に、息も切れずに走り続けてケアンテリアに辿り着けてしまったことに、驚きを隠せないでいた。


「二人とも、すごい!」


 小石丸だけ、いつも通りである。


『池の水の効能で、体力増強とともに疲れを感じなくなるのよ。あたしも一度やらかしたのよ……』


 人間が七時間走り続けたら、どの程度の疲労があるのだろうか。

 昔の兵士が伝令の為に休みなく四十キロ程度を走り切って絶命した――という話を聞いたことがある。

 今回走破したのは、おそらくその二倍以上の距離。


「……まあ、心配しても仕方ないか。帰ろう」


 反動は怖いが、普通に行けば片道三日、往復で六日はかかる距離を、たったの二日で帰ってこれてしまったのだ。


 道中あった大小の戦闘を思い出しつつ、町の中を歩く。


 コロに渡されていた銅貨一枚で羊肉の串焼きを買って、一本を小石丸に、残りの一本をハチとカトルの二人で分ける。


 食べながら歩いていくと、ボロボロのパッツィ商会が見えてきた。


「戻ったぞ」


 カトルが声をかけ、扉を開けると――コロが執務机に倒れていた。


「……お、おかえりなさい。なにか、食べ物…………持ってませんか」


「…………そういえば、出ていくときに食料全部持って行ってしまったんだった」


 運よくハチの串焼きが一欠けら分残っていたので、それを渡すと美味しそうに齧り付く。

 カトルは、串焼きを食べるコロの前に『竜血草』が入った袋を差し出す。


「『竜血草』見つけてきたぞ。あんな厳しいところに生えてるんだな」


「……え。竜血草が厳しいところに生えてる?」


「ああ。途中でオウルベアやら狼の魔物やらゴブリンやら、ひたすら襲われたぞ?」


「オウルベア!? 戦ったんですか!?」


「ああ、なんとか四人で倒したが」


 コロは、驚きのあまり手に持った串を落としてしまった。


()()()()()()()()()()()()()と思ったんですが、皆さんどこまで行かれてたんですか?」


「え。だから『竜血草』を取りにエストレラマウンテンまで」


「………………魔の森を抜けて、死の山と呼ばれるエストレラマウンテンに。え、待ってください。それで二日で帰って来たんですか!?」


「……二日で往復できたことには、俺も驚いてる」


 小石丸はソファでうとうとし始め、ライカは彼の肩を借りながら寝てしまっていた。

 ハチは、コロとカトルの会話を不安そうに聞いていた。


「ちょっといったん、竜血草見ていいですか?」


「ああ、見てくれ」


 袋の中から一輪の『竜血草』を取り出したコロは――驚きで動きを完全に停止してしまった。


「…………あの。皆さん竜血草は市場でちゃんと見てきましたか?」


 なんだか嫌な予感がする。

 カトルとハチは、いったん目を合わせると首を横に振った。


「竜血草って、本当は葉脈が赤く『血の様に』巡っている、ただの草なんですよ」


「……え。だって竜の血は青いって……」


「なんですかそれ!? 最強生物である竜の血の色なんて誰も知りませんよ!?」


 コロの言葉にライカを見ると、頬に冷や汗が浮かんでいる。

 話は聞きながら、狸寝入りを決め込んでいるようだ。


「それに、冬にこれだけ瑞々しい花を付けてるうえに、収穫されてから時間が経っても弱った様子すらないなんて、聞いたことがないですよこんな草!!」


「……ライカが、薬草になると」


「竜血草って数は少ないですけど、東の草原に普通に生えてるんですよ。それで一本で銀貨一枚になるのでちょうどいいかと思ったんですが……」


「…………」


 黙るカトルに、コロは少し落ち着いたのか、深呼吸して笑顔を作り直す。


「まあ、これだけ神秘的な花です。薬効があるなら鑑定してもらうために薬師の方を呼んできます」


「……ああ、よろしく頼む」


 コロが商会を出ると同時に、カトルとハチもソファに座る。


 そのまま無言の時間が幾ばくか過ぎた後、コロが薬師を連れて戻って来た。

 白いひげが特徴的な、人の好さそうな老人である。


 薬師は青い花を見ると――目を見開いて口をぱくぱくと動かしている。

 どうやら驚きすぎて声が出ないようだった。


「……どうですか? 薬草らしいのですが」


 コロの言葉に、薬師は彼の方を見るが、まだ声が出ない。

 目は零れ落ちんばかりに見開かれている。


「……やっぱり駄目ですかね」


「…………………ワシな、薬師を始めて六十年になるんだが」


「はい?」


「人生で一度、一輪だけ市場に出たという噂を聞いたことがある」


「六十年で……一輪?」


「『蒼命花(そうめいか)』という。傷も、どんな病もたちどころに治す伝説の薬草だ」


「……伝説の薬草?」


「ああ、約千年前にこの国を築いた初代王『ジョン・カニス・ルプス・ファミリアス』を救った神の薬草として有名で――」


「……えっと、すごいのは分かりました。金額は――?」


 興奮する老薬師の言葉を遮り、コロが訊く。


「ふむ。市場に出回らんからほぼ言い値だな。ワシなら…………この一本で金貨三十枚」


 この一本で、屋敷が建つ。

 あまりの金額に話を聞いていたコロ、カトル、ハチの三人は言葉が出ない。


「ちなみに、これが複数本ある――なんてことは?」


「…………気を確かに持ってくださいね?」


 袋に詰まった蒼命花を見た老薬師は、驚きのあまりそのまま気絶してしまったのだった。

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