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勇者、柴犬―飼い犬が異世界に転生して飼い主を探すようです―  作者: konzy
煩悩の犬は追えども去らず

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お金の重み

「なあ、これヤバくないか……?」

『これはマズいことになってるな……』


 カトルとハチは、文字通り()()()()()


 やっと体力が少し回復して動けるようになったので、ハチに匂いを辿ってもらった。


 最初に着いた串焼き屋は、まだ昼だというのに店じまいを始めていた。


「いやー。今日は大量に買ってくれた兄さんがいてね。何本かって? 二十本だよ! 気前よく銀貨一枚ぽーんて。あれはお忍びで来たどこかの大店(おおだな)の若旦那に違いないね」


 違います。たぶんそれ、俺の家で貯めた貴重な冬の備えの銀貨です――とはさすがにカトルも言えなかった。


「もしかして、カシムの匂いと串焼きの行き先、同じ方向か……?」


 察したカトルの言葉に、ハチが頷く。


 まず間違いなく、串焼きを買ったのは小石丸だ。

 つまり、三枚あった銀貨は残り二枚。


「嫌な予感がする! まだ銀貨二枚あるうちに早くカシム(小石丸)を探すぞ」


 村を護れた安堵と、旅に出る高揚感で正常な判断ができていなかったかもしれない。


 一番強いとはいえ、純朴すぎる小石丸にお金を渡し、あまつさえ一人にしてしまった。


 この都市(ケアンテリア)で重要なのは、強さだけではないのだ。


『匂いは、この奥だな』


 人気も無く、古い建物の密集している、明らかにスラムらしきところへ進んでいく。


「…………さすがカシムだな」


 裏路地のような場所に入った瞬間、男たちが三人倒れていた。

 ご丁寧に、串焼きを手に一本ずつ持って。


『匂いは近い。急ごう』


 ハチとカトルは五時間走ってきた足の重さも忘れて、早足に小石丸を追うのであった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「そのお金、私に投資しませんか?」


 男女どちらにも見える銀髪銀眼の子どもが、小石丸に右手を差し出している。


 小石丸は嬉々として銀貨の入った袋に手をかけて――止まった。


「お肉くれる?」


 そう。小石丸はお金の価値を知ったのだ。


「お肉はありません。でもお役に立てるつもりです」


 はっきりと動揺を見せる子どもに、小石丸は言葉を続ける。


「ずっとついてきてたよね?」

「……えっ、なぜ分かったんですか? というか、いつから?」

「うーん、お肉買ってから。ずっと同じ匂いが、付いて来てるなって?」

「……最初からバレてたんじゃないですか」


 身長は陽やハチと同じくらいだろうか。


 妙に大人びた表情の銀髪の子どもが、頬を搔きながら小石丸を見上げた。


「なにか、用? 君もお肉?」

「いえ、実は生活に困ってまして。お肉をそれだけ買えるってことは、お兄さんお金持ってますよね?」

「お金って、これ?」


 小石丸は、残りの銀貨二枚を手のひらに差し出す。


「やっぱり銀貨! そうですそれです」


 肉をたくさん貰えるキラキラ。

 口の中に広がる肉の旨味を思い出して、小石丸は銀貨を思わず胸に抱え込む。


 胸の中で、銀貨がじゃりと重い音を鳴らした。


「……お金大事」

「もちろんですが、今困ってて。助けて欲しいんです」


 この子どもは嘘を言っている匂いがしない。


 平静を装おうとしているが、汗の匂いが内心の焦りを小石丸に教えていた。


 困っている。子どもが。


 小石丸の頭に、陽の姿が浮かんだ。


「――困ってる。じゃああげる」


 銀貨を二枚とも差し出す小石丸に、銀髪の彼はむしろ狼狽した。


「えっ、銀貨ですよ!? 分かってます!?」

「うん、お肉いっぱい、もらえる」

「ですよね!? 簡単に渡しちゃダメなんですよ」

「うん。でもね、陽くんは、いつもお金なくても、おれにご飯くれた」

「…………ヨーくん?」


 農民が着るような外套を見ても、小石丸がお金持ちだとは到底思えない。


 というか、小銭入れらしき袋から出てきたのは、この銀貨二枚が最後である。


 所持金を全て差し出すことなど、この町でどれだけの人間ができるだろうか。


「……そのヨーくんという人、よほどのお金持ちですか」

「陽くん、お金ないよ?」

「お金がないのに他人に施しを――理解できません」


 陽の収入はお小遣いだけ。なけなしのお金から小石丸にご飯を切ってくれていた。


 そんな事情はもちろん分からない銀髪の子どもは、瞳を動揺に揺らす。


「お金、いらない?」

「……いえ、ありがとうございます」


 カトルが見ていたら、叫んだであろう。

 銀貨二枚は、今日から生活する路銀のほぼ全てである。


 それを小石丸は、知らない子どもに差し出した。


「ありがとうございます。直接お金をせびるつもりで追ってたわけではなかったんですが――」

「お肉は?」

「お、お肉はさすがに貰えません」


 短く切りそろえられた銀髪を揺らし、その子どもは頭を下げる。


 そして、妙に達観したような、なにかを諦めた大人のような表情で小石丸を見た。


「ひとつ聞いても良いですか?」

「うん?」

「詐欺かもとか思いません?」


 小石丸には難しいことは分からない。

 ただ、彼にとっていままでの世界の全ては『今井陽』だった。


「サギ? 分からないけど、困ってる、よね?」

「ええ。確かに困ってました」

「陽くんは、困ってたら助けてくれた。陽くんなら助ける」


 簡潔な言葉であり、人間になる前には明確な感情として浮かび上がってなかった想い。


 陽への感謝と、思慕の念。


 陽への想いが、本来は思考が苦手な小石丸に思考力を身につけさせつつあった。


「その“ヨー”さんという方、よほどの人物なのでしょうね」

「うん。カッコいい。優しい。おれの主人」

「…………分かりました」


 子どもの迷いに揺れる銀色の瞳が、覚悟の光を湛えた。


「この銀貨は――お預かりします」


 周囲の、スラム街特有の陰鬱な空気を吹き飛ばすように、小石丸は笑った。

 眩しいものを見るかのように、銀髪の子どもは目を細める。


「では、ボクはこれで」

「うん、バイバイ」


 その子は、場を離れようとして数歩歩いたところで振り返る。


「最初は貴方を利用しようと思ってました。でも気が変わりました」

「うん?」

「ボクの名前はコロネリウス・ルルネイア・パッツィ。コロとお呼びください」

「コロ!」


 綺麗な銀髪を揺らして、整いすぎた笑顔をした子どもが深く礼をする。


「ええ。何か困ったことがあったらパッツィ商会を訪ねてくださいね」

「……しょうかい?」

「はい。きっとお役に立てると思います。()()()


 大人びた表情で会釈したコロは、静かにその場を立ち去った。


 カトルとハチ、そしてライカの三人が小石丸に追いついたのはそれから数分経ってからだった。


 カトルはすでに空になっている銀貨袋を見て、声にならない悲鳴を上げたのだった。


 カトルの指が、袋の底を探って空を掻く。


 逆さにしても銀貨が出てこないのを見て、彼は声にならない悲鳴を上げたのだった。

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