第三十四話
「──歩美が"今以上"にならないと、勝てないよ」
その言葉に、俺はピクリと反応する。
今以上?
俺の全力じゃ、越えられないって事なのか?
いや、仮にそうだとしても関係ない。
全力をぶつけてからでないと始まらない。
だけど、相手は恐らく強者なのだろう。
少し工夫をして戦わないといけない。
俺は周りを見回す。
周りには木が沢山生えているだけだ、そして相手は近接で来るとは明言しているが、一応さっき飛び道具を使っていた。
それなら木を盾に立ち回った方が効果的だろう。
加えて今の俺のスピードなら──。
俺は魔力を足に集中し、強化された脚力で木々に隠れる。
「ん……まぁまだ賢いかも」
エミルーはそう言って構える。
俺は木々を利用して移動し、エミルーの背後を取る。
背中に向かって飛びつき、剣を振るう。
ガキィィン!
剣がエミルーの脇腹に金属音のような音を立てて激突する。
「……えぇ?」
「……ボクは脇腹はこそばゆくないよ?」
「そうじゃなくてですね……」
「だって歩美……それ峰打ちだよ」
「み、峰打ちでもさぁその……うーん?」
流石に体を両断してしまう可能性がある攻撃をしたくはない。
だから峰打ちにしたのだが、それを平然と耐えるのも良く分からない。
想像以上の強者なのかもしれない。
「ぼーっとしてるとやられるよ?」
「あっ──」
俺が気づいた時、腹部に衝撃が走っていた。
エミルーの右足が俺の腹を蹴りつけていたのだ。
歩美さんよりとは言わないが、そこまで筋力も無さそうな足が俺の腹をゴリゴリ悲鳴を上げさせる。
「ぶっ……!?」
喉から血の味がする。
軽い体が宙を舞う。
ギリギリで両足着地をするが、咳が止まらなかった。
「……どこが"普通"なんすか……?」
本日何回目か分からないこの発言。
本当に"普通"について問いただしたくなるくらいには強さが別格すぎる。
普通にプロトスと良い勝負できる力な気がする。
するとエミルーは頭をポリポリ掻いて欠伸をし始めた。
「……そろそろ限界かな。じゃあ最後の仕上げかな。歩美、自分の課題には気づいた?」
「……課題って言うと……足りないところってことだよな……なんだ?」
「ボクはヒントを教えるほど優しくは無いよ」
直後、エミルーの纏う魔力が一気に収束し始める。
大技の予感だ、本当に容赦を感じない。
俺は脳みそをフル回転させる。
俺の今の……課題?
逆に今俺が持ちえているものを考えるんだ。
魂斬りによる防御無視攻撃。
再生や蘇生能力(仮)。
体型を活かしたスピード加速……。
"体型を活かした"スピード加速……?
もしかしたら分かったかもしれない……ただ、どうすればいいんだ?
普通の魔術師なら簡単に出来るでだろうことだが、俺は魔術師なんかじゃない。
どうやればいいんだ。
俺はふと、歩美さんの言葉を思い出した。
『私は皆とは何もかも違う。そのせいで親からも嫌われちゃったけど、何もかも違う自分のことは……嫌いになりたくないんだ。違くても良いって思いたいんだ』
彼女は生まれつき肉体以外のあらゆる要素が一般人を超越していた。
それを虐げた者が大半であったことを、歩美さんは嘆いていたが、そんな自分のことをずっと嫌いにならないでいた。
どんなに嫌われた性格でも、決して最後まで曲げずにいた。
独自性というものを大切にしていたのだろう。
「……俺もそうするよ。歩美さん」
俺はそう言ってエミルーに突撃する。
エミルーは一瞬驚きながらも、魔力を込めた拳をカウンターのように俺の懐にうち放つ。
拳が腹部に直撃する。
強い衝撃が全身を駆け巡る──。
だが、俺の意識は消えていない。
「ッ……!?」
エミルーは先程よりも驚いた顔になる。
俺は剣の峰を全力でエミルーの首に振るった──。
続く




