第三十三話
次の日の朝。
施設の前に立っている。
今日エミルーによる訓練が行われる。
だけど、昨日のあの人の態度を見る限りだと、少し不安になる。
信頼出来ない訳では無いが、どうしても不安になってしまう。
そんな俺の胸中を悟ったのか、カズチが微笑みかける。
「大丈夫ですよ歩美。いざとなれば私が止めますし、あの人と戦えば、何かしらの成長はすると思いますよ」
「そ、そうかなぁ……まぁでもやるだけやってみるか」
そのまま施設の扉を開ける。
施設のおばさんに挨拶をし、エミルーの部屋に向かう。
エミルーは昨日と変わらずスヤスヤ寝ている。
カズチがその姿を微笑みながら見つめ、俺に声をかける。
「エミルーさんを起こしてあげてください」
「え? なんで俺が?」
「エミルーさんとの友好関係を築くための行動ですよ。私とエミルーさんの友好関係は築き尽くされているので、歩美さんも同じくらいの存在になって欲しいんです」
「……はぁ」
何故友好関係をここでわざわざ? と思ったが、彼女の言い分も分かる。
こう言った些細なことから始めるのが大事だ。
「……よ、よし。え、エミルーさーん? 約束の鍛錬をしに来ましたー」
俺はなるべく大き過ぎない声で呼びかける。
するとエミルーは寝返りを打つ。
「……んんっ。あと三時間」
「え、いや。あのー起きてくださいー」
「……むぅ。歩美は、乙女なのに乙女心が分かってないね」
「へ?」
エミルーは目を擦りながら起き上がる。
やれやれといった様子だ。
俺は確かに乙女では無いんだけど。
「でもまぁ……分かった。さてボクも人肌脱ぐとするよ」
ボサボサした髪を搔きながらエミルーは歩き出す。
カズチが苦笑いして俺に言う。
「……縮まりませんでしたね」
「……はい」
ギャルゲーの選択肢を間違えたゲーム実況者の気分を何となく理解できた気がする。
乙女心って何なんだ……。
その後。
街からかなり離れた人気の少ない広場に出る。
「さて。始めようか。"普通"で良いんだよね?」
「お、おう! 」
エミルーがパンパンと両手を払うと、何かを思い出したように「あ」と声を出す。
「歩美。歩美の剣による防御無視能力については聞いてるけど、遠慮せず斬りかかって平気だからね」
「へ? え、いやなんで……つうかでも……」
俺はその発言に少し抵抗感を覚えてしまう。
いくらこの人が実力者なのかは分からない。
だけど、それでもこの力は強大だ。
下手すれば殺してしまう可能性もある。
…………あの時みたいに。
俺はティアさんの出来事を思い出す。
自分の手で、彼女の体を切り裂いてしまったこと。
その罪悪感の手触りを──。
「……まぁ遠慮しないでいいよ。元々ボクも怪我とかには慣れてるし」
やる気の無いその発言に、俺は終始困惑する。
だけど、せっかくの機会なのも事実だ。
俺は真剣を構える。
「よろしくお願いします!」
「うん──"普通"の中の本気で行く」
そう呟いた瞬間、エミルーの気配が変わった。
魔力がほとんど視認できるようになった俺には分かる。
エミルーの魔力が爆発的に増加したのだ。
オーラのようなものが広がり、一気に鳥肌が立った。
剣を握る手が震え始める。
するとエミルーの頭上にオーラが集まり、大きな球体となり始めた。
巨大なエネルギーの塊のようだった。
エミルーが一言呟く。
「……ぽい」
エネルギー弾が俺へと放たれる。
俺は咄嗟に魔力操作の脚力強化を施し躱す。
避けた先の地面が轟音をあげて抉れる。
爆心地を見ると、中々派手に抉られている。
背筋が凍りつきそうになる。
「……どこが"普通"なんでやんすか?」
思わず苦笑いしてしまう。
エミルーはそれをフル無視し、何やらブツブツ呟いている。
「うーん。スピードは申し分無い……というか魔力操作が極端だから過剰だね……なら今度はこれかな」
エミルーが天に人差し指を向ける。
するとエミルーの周囲に細々としたエネルギー弾が複数現れた。
俺はエミルーに思わず尋ねる。
「ま、まさかとは思いますがぁ……それを俺に一斉に放つなんてこと……」
「ピンポーン」
エミルーが無表情のままそう言う。
天に向けた指先を俺にピンと向けると、無数のエネルギー弾が一斉に照射された。
「うっそだろおい!?」
俺は全速力でエネルギー弾を走って避け続ける。
すぐ後ろでエネルギー弾が直撃し、爆発する音が聞こえる。
振り返らずに走り続け、音が止んだ時エミルーに視線を向ける。
「ど、どこが"普通"なん──でっ」
俺がエミルーの方を向き直ると、こちらに手のひらを向けている。
そこからエネルギー弾が膨れ上がり、俺の方に放たれる。
「げっ──!?」
眼前に迫ったエネルギー弾を、俺はギリギリで躱す。
耳に弾が掠り、小さな傷から血が出た。
思わず横転してしまうが、それを見たエミルーは驚く。
「おぉ。反射神経は悪くない……なら今度は……これかな」
エミルーの体に溢れ出していた魔力が、肉体に収束される。
張り付くように魔力を纏ったエミルーに、俺は首を傾げる。
「えっと……それは……?」
「あれだよ……殴り合うやつ。ステレオだっけ?」
「ステゴロでは……?」
「あーそれだ。じゃあステゴロをしよう」
エミルーは拳を握りしめ、ボクサーのようなポーズを取る。
俺は剣を構えて息を深く吸い込む。
「あ、一つ言っとくね──歩美が"今以上"にならないと、勝てないよ」
それを聞いて、俺は体がピクリと反応する。
続く




