第三十話
翌日。
俺はもう体が動くようになったので、歩く習慣をつけるために街を歩いていた。
街中は先日とは打って変わって快晴だった。
雨は別に好きではなかったし、むしろこういう天気の方が好きだ。
なのに何故か、今では晴れの空を見上げても大して気分が上がらない。
雨の日のあの時……俺はティアさんになんて言って上げれば良かったのかな。
「……歩美さん……俺……こんなんで大丈夫なのか?」
俺は自分の胸に手を当て、天にいる歩美さんに問いかける。
すると──。
「あら? あんた確か……」
後ろから声が聞こえ、振り返る。
昨日俺達に尋ねてきた女性──サヨだった。
「よぉ」
「もう寝ていなくても平気なの?」
「あぁまぁ……割と頑丈なもんで」
「……ふーん。そうは見えないけど、まぁいいわ。それにあんただけなら丁度いいわ」
サヨが俺に近づく。
「あんた。昨日の話を聞く限り、ティアとは知人らしいわね」
「……まぁな」
「なら1体1の方が効率が良いでしょ? 横槍を受けずに済むし」
「……そいやあの相棒はどうした?」
「……あいつなら置いてきた。正直面倒なやつだから」
呆れた様子でため息をつく。
よくは分からないが、深くは触れないようにした。
「はいはい。なら事情聴取をしましょうや」
俺達はそう言って場所を変えた。
喫茶店みたいな場所へとやって来て、そこに座らされる。
対面で座る俺とサヨはしばらく互いを見つめていた。
サヨはツンとした表情で俺を見ており、その視線が少し痒い。
「……んで。聞きたいことってなんだよ」
あまりにも気まずかったので、俺から話題を切り出す。
サヨが「ええ」と反応し、話を始める。
「まず聞きたいのは。あんた"NKS"って知ってる?」
「知らん。寧ろ教えてくれ」
「……"NKS"──ナチュラルキラーズという組織名の頭文字を取って名付けられてる組織。文字通り人殺し集団ね」
「……そうなのか。でもティアさんは──」
「ティアは確かに、組織の中では殺人経歴はほとんど無いわね。だけど、能力自体は本当に凶悪なものだった。下手すれば、国一つの軍隊の機能が停止しかねない程だったらしいもの。だから早い内に始末しないとって思った矢先に……って感じかしら」
「…………」
俺はその話を聞いて戦慄する。
ティアさんは善人なのか悪人なのかは、正直判断が出来ない。
だけど、やろうと思えばそんなにも規格外な事ができるとは思わなかった。
となると……"あの時"はいかに手加減されていたか分かる。
「それで、あんたとティアさんの関係を知りたかったんだけど……なんかもう聞かなくてもわかる気がしてきたから良いわ。もう倒された訳だし」
「…………なぁ。お前らって"棺"だよな?」
「え? そうだけど、それが何?」
「……プロトスってやつを知らねぇか?」
「……ええ。勿論よ……まさか教えろとでも?」
「あぁ……あいつは……俺がっ……!」
怒りを抑えるために、俺は自分の服をぐしゃぐしゃになるまで握りしめる。
ここまで人に対して殺意を抱いたのも久しぶりだ。
「……あの人に何をされたか知らないけど、そこまで憎む程のことをされたのね。だけど、あんたのために言っておくわ」
サヨは俺のことを鋭い目で見つめる。
「余程の実力と覚悟が伴っていないと、あの人には勝てないわよ」
「……」
「あんたがどんな力を持ち、どこまで命をかけれるかなんて知らない。ただ、あの人の強さは"人間の進化そのもの"……半端な人間では使い捨ての雑兵にすらならないわよ」
「…………分かってる。だけど俺は……それでもあいつを倒したい……!」
「……そう。意志は尊重するわ。だけど、私はおすすめしないわ。無駄死にするだけよ」
彼女はあくまでも不可能と冷たく言い放つ。
それは間違っていない。
実際、あいつの強さと未だ不確定な要素を合算すると、簡単に倒せないことは分かる。
いくら俺の"魂斬り"があいつに有効でも、そもそもの戦闘経験の差で負けかねない。
それでも俺は、諦められない。
「……あんたは何となく、言っても聞かない気がするわ…………ヴァンブにそっくりね」
呆れた顔で言うと、サヨは立ち上がる。
すると──。
「せぇんぱぁぁい!」
と、遠くから声が聞こえ、サヨがため息をついた。
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