第二十九話
同時刻──。
「ねー、レシルー。ティアちゃんはまだ帰ってこないのー?」
とある場所で、ボサボサな青髪の女とサラッとした銀色の髪をした男が話していた。
レシルと呼ばれた銀髪の男が柔らかい笑顔で微笑んだ。
「まだ当分帰らないと思うよ。ここからあの街までは日帰りでは行けない程の距離があるからね」
「えーつまんないぃ。それに危ない目に遭ったらどーすんのさぁ」
「ソロンは心配性なんだね。でも大丈夫さ、彼女にはプロトス君が付いているだろう」
「……あいつら甘々コンビだからなぁ」
女性──ソロンが興味も無さそうに言う。
するとレシルがピクリと何かを感じ取る。
ソロンが首を傾げる。
「どーったの?」
「…………いや。少しね」
レシルはスタスタと歩き始める。
ソロンがその後を何も言わず着いてくる。
入口と思われる扉を開けると、そこには力の無くなった女性の体を抱き抱えるプロトスの姿があった。
レシル達は目を丸くする。
「……予定より遥かに速いと思えば」
「…………あぁ」
プロトスは端的に答え、二人の間をスッと通り抜ける。
ソロンがそれに着いていこうとした時。
プロトスの背中から先端が刃へと変形した触手が現れ、彼女の喉元に突き立てる。
「着いてくんじゃねえサイコレズが。ぶち殺すぞ」
「えー? なんでよぉ 私まだティアちゃんにお別れ言ってないよぉ」
「もうこいつには聞こえねぇよ」
「そういうことじゃないよぉ……もしかして無断でティアちゃんの体に色々としちゃったのまだ気にし──」
ソロンが何かを言いかけた時。
プロトスの触手の刃が、彼女の喉を横に切り裂いた。
彼女の首から血飛沫が舞う。
彼はそんな姿を睨み、そのまま去っていく。
そんな彼の姿を見ながら、レシルは首元を抑えるソロンの隣に立つ。
「君はプロトス君の地雷を踏むのが楽しいのかい?」
「ケホッケホッ……えー?地雷踏むのが楽しいっていうか、普通に気にしてんのかって思っただけー」
ソロンは自分の首を抑え、平然と会話を続ける。
血飛沫はいつの間にか止まり、微かに傷跡が残っている。
それをレシルは気にも留めず、苦笑いしながら彼女に言う。
「それが地雷なんだって……というより、君はティアさんに何を?」
「んぇー? 胎内をちょーっと弄ったりー。媚薬を打ち込んでみたり──」
「それは彼も怒ると思うよ」
彼はそう言って薄く笑う。
ソロンはそれを聞いて笑い、天井を見上げる。
「にしてもーティアちゃんウチらの中では一番弱っちかったけど、一体誰に殺されたんだろー」
「さぁね。僕にも分からないな」
「プロトスのことは正直どーでもいいけど。ティアちゃんの敵討ちしてあげなきゃだし──」
ソロンの笑顔が、狂気的なそれに変わった。
「……私ら"NKS"の本当の恐ろしさを……分からせちゃおっか」
俺たちは、突然現れたサヨ達にティアさんとの出来事を全て打ち明けた。
それを聞いたサヨはしばらく指を顎に添えて考え込む。
「……そ。まさかティアを殺せるだなんてね」
そんなに予想外だったのか、サヨは復唱した。
「で? 遺体は?」
「それが……もう一人の仲間に襲撃されてな……その際にそいつに回収されたのかもしれない」
「そ。まぁいずれにせよ色々と聞く必要はあるんだろうけど……」
サヨがチラリと俺の顔を見る。
その直後にため息をついた。
「……んだよ人の顔見てため息つきやがって」
「いえ。あんたの顔を見て言った訳じゃないわ。それに別にあんたの顔なんて私どうでもいいし」
「…………そうかよ」
色々言いたいことはあったが、今は話せる気分では無かった。
サヨがヴァンブを連れて背を向けて部屋の扉に手をかける。
「明日また来るわ」
それだけ言って、二人は部屋から去って行った。
オリンジがその後不思議そうな顔をして呟く。
「あの二人が"棺"であることに間違いは無さそうです。となると、明日は我々も聞くべきことがありますね」
「……あぁそうだな」
俺は布団を強く握りしめる。
二度も相対した、俺が倒すべき因縁。
「……プロトスっ……!」
そいつの事を聞き出さなければならない。
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