第二十八話
目が覚めた時、俺は見慣れない天井を眺めていた。
左右にはナズマ、カズチ、オリンジの三人が俺を囲うように立っていた。
どうやらベッドの上に寝かされているようだ。
体には痛みを感じなかった。
傷はもう完治している。
三人とも安心した様子で俺を見た。
「歩美……大丈夫そうで良かったです」
「…………そっちこそ」
安心した反面、胸の中に穴が空いた様な虚無感に苛まれる。
無力感がこの上なく押し寄せてくる。
俺は歩美さんと関わって以来、人を救いたいと思って生きてきたのに……救うどころか命を奪ってしまった。
その事実を受け入れる度に、無力感や虚無感で肉体が縛られそうになる。
あれからどれだけの時間が経ったかは分からないけど、未だ手の震えが止まらない。
「…………歩美」
突然カズチが俺の名前を呼び、震える手を握った。
柔らかく、暖かみを感じるその感触に俺は涙を流しそうになる。
「ナズマ達からあらかた話は伺いました……正直、複雑な気持ちなのは分かります」
普段以上に優しく、寄り添うような声。
そしてどこか……悲しい声だ。
「……我々もかつて、大切な人を手にかけました。今の歩美と同じです……ですが、私達は互いに支え合って乗り越えて来ました……ですよね? ナズマ」
彼女はナズマに向かって尋ねる。
彼は静かに頷く。
「あぁ。互いの存在が無ければ、今の我々は無かったと思っている。だから俺達も……歩美さんの支えになろう」
「そうですよ……歩美さんは人のことを思える優しい人なのは分かりますが、もっと自分を労わってください……我々には存分に甘えてくれて構いませんから」
二人の優しい発言に、俺は涙を流す。
正直この二人の境遇はよく分からないし、どんな人生を歩んで来たかも知らない。
なのにここまで優しい言葉をかけてくれることが今までもだったが嬉しい。
すると、オリンジが入口の扉を見てピクリと反応する。
「どうかしました?」
「……誰か来てますね」
「…………本当ですね。気が付きませんでした」
遅れてカズチも気づいたらしいが、俺には何も分からない。
するとその直後、扉がノックされた。
「……どちら様ですか?」
「あぁん!? 俺らは王国直属のむぐぐ!」
乱暴な口調の男の声がドア越しに聞こえる。
まるで借金取りのようだ。
ナズマとカズチが身構える。
オリンジがドアノブをそっと手に取り、扉を開ける。
そこには同い年くらいの男女二人組が立っていた。
男の方はギザギザした牙が見え、女の方は腰に刀を下げている。
オリンジが恐る恐る尋ねる。
「……あなた方は?」
「……私達は。王国直属の暗殺組織"棺"って言えば分かる?」
女の発言に俺は思わず顔を起こす。
ナズマ達も同様の反応を見せた。
女性が少し目を見開くも、会話を続ける。
「……知ってるなら話は早いわね。だけど私達は殺人集団であっても、無差別じゃないわ。いわゆる特殊警察みたいなものよ。で、今は昨夜のあることについて事情聴取しに来たの」
「そういう事ですか。失礼しました」
オリンジはやけにあっさりと承諾した。
彼は人の思考をある程度読み取ることができる。
それなら恐らく彼女らは無害なのだろう。
──尚。
彼女の隣に立つ牙の男が気になる。
顔とかは怖く無いんだが、ギザギザの牙が本当に気になる。
思わずじっと見ていた時、男と視線がを合う。
「んだテメェ? 俺の顔になんかついてっか?」
「あ、いや! 別に」
すると女の子がその男の子の腹を軽く肘打ちする。
「ヴァンブ。彼女らは証人なんだから、敵意を向けたらダメでしょ」
「へ? 俺別に敵意向けてねぇっすよ?」
「あんたは顔面が怖いんだから」
「酷くないっすか!? 」
そんなやり取りを、俺らは黙って聞いていた。
すると女の子がハッと目を見開いて咳払いする。
「そういえば自己紹介してませんでしたね。私の名前はサヨ。"棺"上級兵です。こいつはヴァンブ。同じく上級兵の後輩です」
「うっす。ヴァンブっす」
二人の自己紹介に、全員が軽い自己紹介を返すと、サヨが改めて本題を尋ねた。
「先日この街に現れた国際指名手配殺人組織"NKS"の構成員ティアについて。知ってることを教えて欲しいの」
続く




