第二十六話
俺の肉体の回復が済み、駆けつけた時。
正直状況が飲み込めなかった。
目の前に見えるのは、蒸発して消えた建物の最上階に、体が半壊したプロトス。
弱ったカズチを抱えるナズマ。
情報が多すぎる中、俺はナズマ達の前に着地する。
体が軽い分、魔力操作で脚力を補うだけでここまで飛躍力があるとは思わなかった。
反して耐久性は全くと言っていい程無いため、歩美さんの体は一長一短である。
「二人とも無事か?」
俺が尋ねると、カズチが答える。
「はい。二人とも無事ですよ……そういう歩美は、本当に再生力が高いのですね」
「まぁ……神から与えられた力だからな」
俺の発言に、カズチ達は首を傾げる。
そのまま俺はボロボロになったプロトスを見つめる。
流石のこいつでも、息がきれており再生には時間がかかっているようだ。
だが、奴はそれにも関わらずまだ笑っている。
「ハッ……テメェはゾンビか歩美この野郎」
「どの面下げて言ってんだ。覚悟出来てんだろうな?」
「やってみやがれ。テメェごときで殺せんならなぁ」
満身創痍ながらも、余裕な態度を見せて煽るプロトスに、俺は刀をギリッと握りしめる。
安い挑発なのは分かっているが、それでもこいつへの殺意を抑えきれない。
俺は足に魔力を集中し、刀を握り直す。
そして床を力強く踏み込み、プロトスへと刃を振るう。
奴は防御の姿勢も取らず、攻撃を受ける気満々の立ち振る舞いだ。
舐めやがって……!
俺が唇を深く噛み締めながら振るった怒りの刃は、プロトスの左肩へと迫る。
剣の挙動が不思議とゆっくりに見える。
俺の手で振るわれたその凶刃は──。
俺とプロトスの間に割りこんで来た、ティアさんの背中を斜めに切り裂いた。
「…………え?」
周りの人が皆唖然とした。
つい数秒前まで余裕な態度を見せたプロトスも、驚愕の余り目を見開く。
「…………ぁ」
ティアさんは小さく呻き声を上げ、そのままプロトスの体へと倒れ込む。
俺は背中を袈裟斬りにされ、血飛沫をあげるティアさんをただ眺めていた。
プロトスは残った左半身で、ティアさんを受け止める。
「……おい。ティア?」
プロトスが呆然と寄りかかってきた彼女を見つめて言う。
ティアさんは苦しそうに呼吸しながら言葉を紡ぐ。
「…………ごめん……プロトスさん……私いつも……助けられてばかりで……」
「……何言って」
「わ……たし……プロトスさんには、死んで欲しくないけど…………歩美にも死んで欲しくないの……本当は……ダメなんだけどね……」
今まで以上に悲しく、辛そうな声だった。
プロトスと俺は揃って息を飲んでいた。
「二人のどちらかを選ぶなんて……私には出来ない……どっちも……大切な人……だから……」
「……」
俺は彼女の苦しい口調と表情を見て、胸が苦しくなる。
というよりは、己のやってしまったことに罪悪感が生まれてしまっている。
だけど、俺には彼女を助ける手段は無い。
ティアさんが消え入りそうな声を漏らし、俺の方を見る。
「ごめんね……歩美……私は最後まで……自分で決めることが……できなくて……」
「…………」
言葉が見つからない。
普段も歩美さんと過ごしていて、こんな体験をしたはずなのに……俺はどう彼女に声をかけるべきか分からない。
するとティアさんは両手をプランとぶら下げ、脱力感の感じる虚ろな声で呟く。
「…………私は……どこで間違えたんだろう…………な……」
直後、彼女に宿っていた魂の火が──ろうそくの火消しのように儚く消えた。
続く




