第二十四話
俺が憤りながらプロトスに言う。
それに対して、奴は「あぁん?」と俺を睨む。
「俺ぁなぁんにもふざけちゃいねぇぞ? 逆に何がふざけてんだ?」
「お前が……なんでティアさんの婚約者なんて……名乗ってやがる?」
俺の問に対し、プロトスは眉を不機嫌そうに狭める。
「なんでって……婚約者を名乗ることになんの問題があるってんだ?」
「ッッ……! テメェ──」
叫び出してしまいそうになった時、高速で俺の体を何かが掴み、空中に掲げた。
プロトスの変形した右腕の触手だ。
奴はケラケラと笑いながら、俺を握る腕に徐々に力を込める。
俺の体がミシミシと音を立てて軋み始める。
「あぁ……そういうことか今理解したぜ──お前のその価値観をよぉ……」
プロトスは左手で顔を覆い、笑いを堪えるような動作を取りながら言った。
それを見たナズマが俺を救おうと足を動かし……一歩踏み出した瞬間に止まってしまう。
俺にも感じ取れた……プロトスには今、強烈な"殺意"が滲み出ていたのだ。
その気配に、俺の背筋は凍りついていた。
「テメェ……どうせ人の事を"直感的な好き嫌い"でしか判断して来なかったんだろ? まぁ分かるぜ。人間は気に入らねぇ奴はとことん下に見て、それ以外のやつは馬鹿みてぇに棚に上げる習性があるからなぁ? 不愉快な話だぜ」
「……」
「それに俺ぁお世辞にも人から好かれたり褒められるような生き方はしてこなかったしなぁ。嫌われるのは当然だし、殺したくなるのも当然だ……だけど……なぁっ!?」
プロトスが右腕に力を込め、俺の体を更に握りしめる。
それに応じて、俺の体は内部からバキバキと音を立て始め、激痛が始まった。
無数の骨が砕かれていく感覚に、俺は思わず悲鳴を上げる。
ナズマがそれに反応し、固まった足を回転させる。
だが、プロトスは彼の方を一瞥もせず。
「──邪魔だ静電気」
とだけ言って彼を埃を払うかのように軽く、左腕で薙ぎ払う。
ナズマは鉄砲玉の勢いで、反対側の建物に飛んで行ってしまう。
全身が潰されていく感覚が、脳から電気信号となって伝っていく。
内臓が捻り潰されていき、口から血を吐き出す。
プロトスは俺のことを殺意に満ちた目で睨む。
「殺人鬼であっても、極悪人であってもなぁ……! 人を愛し、愛されてはいけないなんて誰が決めやがった!? あぁん!?」
「…………」
その彼の言葉は……認めたくは無かったが、本物だった。
それに俺はすぐに理解が追いつかずにいると、意識が遠のき始める。
全身にかかる痛みが、限界に達しているのだ。
完全に意識が消える寸前──。
「もうやめて!」
誰かの叫び声が聞こえ、意識が反射的に回復する。
声の主はティアさんだった。
雨のように大粒の涙を流して、彼女はプロトスに訴えていた。
「もう……やめて。プロトスさん……貴方は歩美を許せないんだろうし、歩美もプロトスさんを許せないのは……分かってる……だけど……やめて。歩美は私の…………友達なの」
「……」
俺は思わず胸を痛めてしまう。
あくまでも、彼女は俺を"友人"として見てくれている。
だけど彼女と俺は敵同士……彼女なりに葛藤しているんだ。
……俺はどうしていつも……女性を泣かせてしまうんだろう。
物理的にも精神的にも胸が潰されかけた時、下でプロトスとティアさんが会話しているのが聞こえた。
「……テメェは本当にこの仕事には向かねぇな。だがな、こいつはこの先俺らの障害になりかねねぇ。それにこいつは次会ったら殺すつもりだったからな。だからここで殺す」
プロトスが左腕を刃物のように鋭く変形させる。
何だか、短期間で死にかけ過ぎて、何だか感覚が薄れている。
全てを諦めたその時。
背後で迅雷の音が鳴り響いた。
「あん?」
プロトスがそこを睨む。
俺も震えながら振り向く。
思わず目を見開いた。
「まぁ……退院後の軽い運動のつもりでしたが──何やら間が悪いようでしたね」
深刻そうな雰囲気で、カズチが宙を浮きながら話していた。
続く




