第二十三話
ティアさんは俺の言葉を聞いて、驚きのあまりか何かは分からないが──。
「……ッ……!」
放心したように口を開け、その後瞳から涙を流した。
嗚咽し目を擦りながら、彼女は俺に問いかけた。
「なんで……そんな……ことを……?」
俺はその問いにこれ以上に無いくらい単純な答えを上げる。
「……貴方が善人だからです」
歩美さんとこの人は、似ている。
死にたい、構わないで。
そう言っている人程、死にたくもないし見捨てないで欲しいと、心の奥では思っている。
そして俺は、それに気付け無かった。
今度は──見捨てない。
「あ……ありが……」
ティアさんが涙ながら俺に感謝を述べようとする。
俺がその言葉を聞き入れようとした時。
自身の真下で「ザンッ」と何かが切断される音が響く。
「え──」
俺が困惑したと同時に、床が円状に切り抜かれ体が重力に従って落下して行く。
咄嗟に穴を右手で掴む。
だがその瞬間、今度は足に何かが絡みつき俺は空中に宙ぶらりにされた。
天地が逆転して見える中、俺はこの原因となる存在を見る。
──それを見た時、俺の背筋が凍りついた。
目に見えたのは背中に禍々しい肉の翼を生やした背の高い男性だ。
右腕が触手のように変形しており、それが俺の右足を掴んでいる。
そしてその顔は……異様に脳裏に焼き付いた"あの男"だった。
男は口をニタリと歪ませて大笑いする。
「まっさかぁ! ここで運命の再会たぁ思わなかったなぁ!? 歩美ぃぃぃ!?」
「……っ! プロトスゥ!」
考えるより先に体が動き、俺の足を掴んでいた触手を剣で斬って拘束を解除する。
背中からドテッと落ち、体勢を立て直してプロトスを睨む。
触手を縮ませ元の腕に戻すと、プロトスは空から床に降りる。
ティアさんの隣に立ちケラケラと笑う。
「ハッハッ! 久しぶりに会ったかと思えば女泣かせたぁなぁ!」
まるで友達を茶化すような雰囲気で話しかけてくる。
馴れ馴れしい言葉使いに俺は吐き気を催す。
刀を握る手にメリメリと力が籠る。
「……お前、何しに来た……?」
「あん? 何って……こいつを助けに来ただけだぜ?」
「助け……? 何言って」
俺が困惑していると、彼は「あぁ」と納得したように呟く。
「てっきり。ティアの野郎はお喋りだから知ってると思ってたが……」
何やら意味深に笑うと、ティアの肩をポンポンと叩きながら言う。
「こいつは俺達の仲間であり……俺の婚約者だからな」
平然と放たれたその言葉に、数秒思考が停止する。
脳が回復した瞬間に、俺は辛うじて一言だけ呟く。
「…………は?」
信じられなかった。
この男の……婚約者?
ティアさんが……プロトスの?
「…………ふざけるな」
俺は自身の魔力を足に貯め、脚力を限界まで底上げする。
その光景を見たプロトスは、目を見開いて驚いた。
「魔力操作による強化魔法……! 纏わせ方は雑だが、ちゃんと形にはなってやがるなぁ!?」
まるで友人を褒めるかのような口調で言う。
俺はそんなことは頭に入ってなかった。
今の俺は怒りに満ち溢れていた。
「……んなことどうでもいい……! ふざけるのも大概にしろ……プロトスッ!」
続く




