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第七回『ダンジョン管理者』

 私の想像力は世界一なんだってことを証明したかった。


 ダンジョン管理者。

 日々様々な冒険者が挑むダンジョン。

 その管理をし、毎日多くの冒険者と戦闘を繰り広げ、メンテナンスを欠かさない。

 攻略されればダンジョンは崩壊する。

 崩壊とともに新たなダンジョンがどこかに生まれる。

 故に、ダンジョンとは未知である。



 ♤



 四時。

 ダンジョン管理者の朝は早い。


 異世界にはダンジョン領域と呼ばれる、無数のダンジョンが存在する未知の広さを持つ領域が存在する。未だにどれほどの広さを持つのか分かっていない。

 奥に行くほどモンスターの強さは上がっていき、ある地点で冒険者の進軍は止まっている。

 第一区画、第二区画と手前の領域から呼ばれ、現在では第六十六区画まで進軍している。かつて何者かがダンジョン領域を百の区画に分けた地図を作ったと言われているが、その真偽は不明である。


 第六十区画にそのダンジョンはあった。

 ダンジョンの名は〈蜘蛛の煉獄〉。

 十五キロメートルを超える広大な敷地を有し、その全貌は大きく広がる森によって隠されていた。

 森を進んだ先にあるのは直径五キロメートルの球状の蜘蛛の巣。大部分が地下に埋まっており、地上から見えるのは半円状の姿。内部は入り組んだ構造になっており、これまで一度も攻略されていない。


 その管理者。

 彼は蜘蛛の姿をしていた。

 赤子ほどの大きさ。

 背中には大きな火傷の跡がある。

 糸を辿って裏道を通り、管理者室に入る。

 球状の空洞が空いた空間に、幾つものモニターと装置が敷き詰められていた。

 中央には糸で吊るされた椅子があり、そこに彼は腰掛ける。


「ん? ()()()()()()()の案内か」


 彼は手もとに置かれた手紙に目を通す。

 それはダンジョン会議と呼ばれ、ダンジョン領域にある幾つものダンジョンの管理者が集まって行われる会議である。


「定例のダンジョン会議ではない。ということは何か異例の事態でも起こっているのか」


 心当たりはあった。

 彼は急いでダンジョン会議が行われている場所へ向かった。

 ダンジョン領域の遥か地下にも空間が広がっていた。

 これまで一度も冒険者に観測されたことのない領域。


 地下にあるダンジョンよりも遥かに地下にある。


 円形の広場。

 中央に向かって地面が隆起し、そのてっぺんにローブで全身を覆い隠した者が立っていた。

 わずかにローブの隙間から見えるのは骨。

 広場には第六十区画にある百以上のダンジョンの管理者が集まっている。龍や狼、猫や鳥など、様々な容姿をしたモンスターが勢揃い。


「これより緊急のダンジョン会議を始める」


「緊急?」

「やはりダンジョンに何かがあったか」

「そういえば〈旧国の墓地〉の管理者がいないな」

「招集されてないんじゃね?」


 集まったモンスターは口々に騒ぎ立てる。

 騒音の中でもはっきりと聞こえる不思議な声で、ローブの者は告げる。


「ここ三十日の間に、第六十区画のダンジョンが三つ攻略された」


 全員に戦慄が走る。

 ダンジョンが攻略されるのはそれほど多いことではない。ただでさえ第六十区画は攻略条件が難しいダンジョンが多い。

 十日に一つのペースでダンジョンが攻略されることは異例中の異例である。


「〈旧国の墓地〉、〈白銀舞い散る山脈地帯〉、〈幻の列車〉、この三つを攻略したのは全て同じパーティーだ」


 畏怖する者が多かった。

 第六十区画にあったこの三つのダンジョンは、第六十区画の中でも高難易度のダンジョン。それが攻略されたとなれば、敵は相当な強者。


「そのため、ダンジョンをリニューアルし、敵に備えよ。必要なモンスターや道具があれば申請せよ。ある程度までは受け入れる。これ以上第六十区画のダンジョンが攻略されるわけにはいかない」


「その三つのダンジョンの代わりは既に決まっているんですか」


「まだ二つだけだ。第六十区画に相応しいダンジョンを作れる者はそう多くない。また新たなダンジョンが生成されるまで、自分たちのダンジョンを攻略させるな」


 それぞれがダンジョンに帰宅後、直ぐ様リニューアルに取りかかった。

 当然彼もまた、ダンジョンへ帰宅し、ダンジョンリニューアルを始めようとしていた。


「まだ冒険者は来ない。今の内にリニューアルをしておくべきか」


 ダンジョンに冒険者が来るようになるにはまだ時間がある。

 彼はこのダンジョンの現状をある程度確認する。


 全てのダンジョンは地下から湧くエネルギーを利用し、つくられている。そのエネルギーを利用することで地形を変えたり、モンスターを湧かせたり、様々なトラップをつくることができる。


「なるほど。このダンジョンは地下エネルギーをまだ十分に使えていない。できればもっとトラップがほしいところだが……」


 彼はダンジョンの各区画の責任者を集め、六名のモンスターが集まった。


 ダンジョンを囲む広大な森の責任者を務めるのはリーゼ。彼は巨人であり、全身に対雷魔法を付与した鎧を身にまとっている。森に生息す千以上の巨人を統べる。本来は二十メートルあるが、今は縮小魔法によって三メートルほどに調整している。

 ダンジョンを囲む広大な森の偵察の責任者を務めるのはドリュアス。彼女は木の精霊であり、木に宿ることで森の索敵を行っている。多くの精霊を従えており、その数は千を超える。

 蜘蛛の巣内部の管理は大きく分けて上層、中層、下層となっている。下層の責任者を務めるのはアラクネゴブリンのドレ。中層の責任者を務めるのは機械種のテキスタ。上層の責任者を務めるのは龍人族のリュディ。

 ダンジョン管理者の代理を務めるのが蜘蛛姫の小町。普段から人間の擬態をしている。

 ダンジョン管理者はアラクネのアラーニェ。蜘蛛である。


「皆を集めたのは、このダンジョンのリニューアルを行うためだ」


 管理者であるアラーニェは集まった皆に告げる。

 否定する者や驚く者はいなかった。

 全員がダンジョン領域で起こる事態を噂程度に耳にしていた。その噂が真実であったのだとアラーニェの言葉を聞いて確信する。


「やるべきだ。最近台頭しているパーティーがあるというしな」


 リーゼは強気な口調で言う。


「ええ。森の子らも喜びますわ」


 ドリュアスはおしとやかに呟く。


「もっと鬼畜難易度にしちまおうぜ」


 ドレは子供のような無邪気さで言った。


「オレ、ソウオモウ」


 その意見にテキスタも機械音混じりに賛成し、


「追加したいトラップも幾つか思いついている。会議を開いたってことは、俺らの意見も取り入れてくれるってことだよな」


 リュディが偉そうに言う。


「楽しみだよな。ダンジョンが今よりももーっと強化されるのは」


 小町は腕を大きく使って感情を表現し、跳び跳ねるように言った。

 全員が口々に賛同するのを聞き、アラーニェは本題に入る。


「ではこれより、ダンジョンリニューアルを始める」



 ♡



 五時。

 〈蜘蛛の煉獄〉を囲む広大な森。責任者はリーゼとドリュアス。

 森の中央にある巨大な蜘蛛の巣の責任者はドレ、テキスタ、リュディ。

 最高責任者のアラーニェと代理の小町。


 全員がそれぞれの配置につく。


「まずはシュミレーションシステムを使い、過去最もこのダンジョンを追い詰めたパーティーを呼び起こす。シュミレーションのためシステムを解除すれば全ての傷や被害はなくなるが、気を引き締めてかかれ」


 ダンジョン中にアラーニェによってアナウンスが行われる。

 シュミレーションシステムはダンジョンの地下から湧く膨大なエネルギーによって可能となっている。


「システムを起動する。じゃあ、頑張ってね」


 アナウンスが終わる。

 アラーニェは小町とともに管理者室でダンジョン全域を監視する。


「システムは起動させたか」


「ええ。言われた通り、これまでこのダンジョンを攻めた()()のパーティーを出現させました。皆驚くでしょうね」


「どれくらいの人数になった?」


「一万五千人です。このダンジョンは過去のシュミレーションでは一万人規模のパーティーで攻略されました。落とされてしまうのでは?」


「それが目的だ。攻略された理由を解析し、リニューアルに繋げる。今回のシュミレーションはほぼ攻略されることを前提に行っている」


「なるほど。では私も本気を出しますかね」


 アラーニェの狙いを聞き、小町は本気を出す。

 人の容姿をしている小町は、いつもは背中に隠している十六本の足を出現させ、顔に十六の目を浮き上がらせる。


「防衛システムを起動しつつ、小規模のパーティーを操り、守備の穴をつきます」


 ダンジョンを守りつつ、ダンジョンを攻める。


「任せたぞ」


 そしてシュミレーションが始まった。



 ♡



 森の周囲を一万五千人の冒険者が取り囲む。

 その先陣を切るのは、白銀の盾と剣を構え、白銀の鎧に身を包んだ男。彼の背後には、白銀の鎧に身を包んだ騎士千人が見える。


 過去にこのダンジョンの中枢まで攻め込んだパーティー。

 白銀の騎士団。

 団長は先頭に立つ彼──白銀。


「全軍侵略」


 白銀が掛け声とともに前進すると、次々と冒険者が森へ突撃する。

 突撃を確認した木の精霊がドリュアスに伝える。巨人リーゼも冒険者の群れを発見し、迎撃の陣を敷く。


「俺たち巨人の末裔の力を見せてやれ。この森で戦えるのはあの精霊どもじゃなく俺たち巨人だ」


 リーゼを筆頭に、森に潜伏していた巨人が動き出す。

 北の巨人の末裔リーゼ。主に拳での戦いを好み、そして素早い。

 木の高さは巨人の身長を遥かに超える三十メートルあり、平均して二十メートルの巨人にとっても身を隠しやすい空間だった。


 リーゼの側にドリュアスが向かおうとするが、そこ行く手を巨人が阻む。


「退いていただけますか」


「残念だが俺らの大将はあんたら精霊の力を借りずとも戦える。そこで大人しく見てな」


 ドリュアスは無視して通りすぎようとしたが、周囲を巨人で囲まれ、戦闘もやむなしという直前まで来ていた。

 ため息をこぼして呆れ、ドリュアスはリーゼを静観する。


 リーゼに真正面から突撃する白銀。

 リーゼは全身を鎧で隠しており、拳も鉄の装備で覆っている。

 白銀は剣を振り上げ、リーゼは拳を振り上げる。戦いは熾烈を極める──かに思えた。だが一瞬で決着がついた。

 リーゼは巨人の中でも上位に位置する強さで、仮に冒険者千人を一気に相手にしても勝てるほどの強さを持ち合わせている。

 リーゼの拳は白銀に届いた──

 血飛沫を散らしながら首が宙を舞う。

 白銀の剣がリーゼの首を素早く撥ね飛ばした。


 リーゼは確かに強い。

 だが白銀は冒険者五千人相手に勝てるほどの強さがあった。


 一瞬で巨人の士気が低下する。

 その隙を逃さず、一斉に冒険者が白銀の後に続いて巨人を狩りまくる。

 リーゼの死が知れ渡るにつれて、巨人の士気は低下していく。


 森での先頭は一瞬で決着はついた。

 開戦からわずか三十分、白銀は千を超える巨人全て葬り、蜘蛛の巣へ到着していた。



 ♡



 管理者室にいたアラーニェと小町は森での戦況を観察していた。


「リーゼが率いる巨人は頭が悪いため、森にトラップを設置していません。味方が引っ掛かっては戦力が減るだけですので。また、巨人は連携を取らずに戦う。いや、連携をとる知恵もない。だから頭に据えたリーゼが敗れた瞬間に敗色濃厚となった。このダンジョンの巨人の頭の悪さ、それが一瞬で敗北した敗因でしょう」


 リーゼと白銀の戦い、その後の森での戦闘を見ていた小町が冷静に分析する。


「リーゼが一瞬でやられた。あの時、白銀の背後にピッタリとついてきていた四人の騎士の内、二人がリーゼに対して敏捷性低下、視界のぼやけの魔法をかけ、もう二人の騎士が白銀に敏捷性強化、筋力強化の魔法を浴びせた」


 アラーニェはしっかりと白銀の後方も観察していた。

 リーゼと白銀では白銀の方が強いが、それでも一瞬で敗北するほどの差ではない。

 連携がとれていれば、一撃でも入れられた。


「リーゼが防げるのは雷属性の魔法だけ。魔法にかかったリーゼの動きは鈍り、対照的に白銀の速度は跳ね上がった。連携もあるが、魔法に対する耐性をする必要があるな」


 アラーニェはしっかりと分析し、ダンジョン強化の策を練る。



 ♡



 蜘蛛の巣内での戦闘は始まっていた。

 蜘蛛の巣内には多くのトラップがあり、進軍の足は止まっていた。

 トラップは主に糸を利用したものだった。というのも、蜘蛛の巣はそのほとんどが蜘蛛の糸でできているためだ。

 そもそも蜘蛛の巣内部は粘着性がある。その時点で冒険者側は粘着軽減や無効化の魔法によって魔力が削られる。だが糸はモンスターには粘着しない特殊性のため、冒険者の神経のみをすり減らす。

 トラップとしては、蜘蛛の糸に絡まれて吊るされる。糸がミイラのように巻きつく。糸がネットのように発射され、冒険者を捕らえる。などといったものだ。


 だがトラップにかかるのは白銀などの精鋭を遥かに下回る下級冒険者。

 白銀のような強い冒険者にはトラップは意味を成さない。

 前進を続ける白銀の前に、龍人族のリュディが刀を持って立ち塞がる。

 龍の角を頭から生やし、人間の容姿はしているが、身体の所々が龍鱗に覆われている。

 白銀の流れるような剣技に、リュディは真っ向からぶつかり合う。


 白銀の背後にピタッとついてきている四騎士は白銀にバフを、リュディのデバフをかける。だがリュディに魔法はかからない。

 リュディは潜在能力と呼ばれる特異な能力を持っている。

 それが『魔法無効化』。あらゆる魔法の効果を打ち消す。バフであれ、デバフであれ、リュディに魔法はかからない。


 白銀の剣を受け流してダメージを最小限に抑えるリュディ。だが鱗を紙切れのように刻む白銀の剣に圧倒され、リュディはボロボロの状態になっていた。

 リュディは膝をつき、白銀が剣を振り上げる。


「今なら刺さるだろ」


 白銀は粘着性の糸にくっつかないよう魔法を自身に付与していた。

 それを理解し、リュディは罠を仕掛けた。

 このダンジョンの強みは糸でできていること。故に──


 頭上十メートルの高さ、蜘蛛の巣でつくられた天井。糸が次々と切られていた。

 白銀は危機感を抱き、その場からの逃亡を……


「無駄だ。俺が命を懸けてお前と戦っていたのは全てこのためだっつーの」


 四方八方が糸に囲まれていた。白銀の後ろについてきていた四騎士ともいつの間にか分断されている。

 白銀は糸を切って逃れようとするが、次々と降ってくる無数の小さな蜘蛛に身体を硬直させる。


「手遅れだぜ。やがて罰が下る」


 天井から巨大な鉄球が幾つも落下する。白銀は剣で次々と切断するが、鉄球が百を超えた辺りから動きが鈍る。

 その間にもリュディは転移魔法を付与した魔法チケットを使い、退避していた。


「お前も転移魔法が使えれば生き残れたんだがな」


 やがて鉄球が斬れる音はしなくなり、鉄球が落ちる音だけが響く。


「白銀討伐。あとは四騎士を倒して……って……っ!?」


 掃討へと移ろうと、離れた場所で蜘蛛系モンスターと戦っていた四騎士へ視線を向けるリュディ。

 だが視線は更に後ろ、蜘蛛の巣の入り口に向けられる。


「あれは……」


 次々とダンジョン内に突撃する冒険者の群れ。その数は千や二千を遥かに超える。


「おいおい、何だよこの数。アラーニェ様は何を考えてやがんだ」


 明らかに一つの攻略パーティーだけが攻めている様子じゃない。複数の冒険者パーティーが攻めてきている。


「いくらシュミレーションだからってふざけすぎだろ。こんな数に攻めて来られたらどのみち……」


 迫る冒険者。

 その群れの中、再度鉄球が砕ける。

 散る鉄球の中から、砕けた鎧を着る白銀が出てきた。

 全身に傷を負うが、それでもまだ意識はあった。


「化け物かよ……」


 瞬く間にダンジョンは攻略されていく。

 次々とモンスターが敗れ、最後まで善戦していたリュディもついには限界が来て、冒険者によるエンディングを迎える。



 六時間三分。

 〈蜘蛛の煉獄〉陥落。



 ◇



 シュミレーションが終わり、代表者が足早に管理者室へ向かった。

 開口一番、多すぎるとのクレーム。

 アラーニェは案の定の意見にさほど心は動かさない。


「今回の訓練で見たかったのはこのダンジョンが陥落するシナリオだ」


「なぜですか」


「このダンジョンが攻略されるとしたら何が原因かを見極める必要があった。その原因を取り除き、ようやくこのダンジョンは強くなる」


「なるほど。正直あの数はやりすぎだけど、まあ確実に陥落させるために必要だったってわけか」


 アラーニェの言うことにリュディが納得する。

 他の者も皆渋々受け入れた。


「で、改善点は何だ」


 問いかけるリーゼをアラーニェはじっと見る。


「致命的な問題があるとすれば巨人だ」


「ちっ……」


 アラーニェの指摘にリーゼは目を背ける。


「お前たち巨人は頭が悪い。だからこそトラップの設置ができず、その上連携もとれない。だがドリュアス率いる精霊たちと手を組めば、白銀とだって十分戦えた。デバフの魔法を解除し、バフを付与してもらうこともできた。だが精霊と手を組まないということはいつこのダンジョンが落ちるか、お前らがいつ死ぬか分からないということだ」


 アラーニェの指摘にリーゼが反論できる余地はない。

 分かってはいる。

 だが感情はそう簡単なものではない。


 リーゼはアラーニェの背中に焼きついた火傷の跡を見て、険しい顔をする。


「俺は俺で功績を上げたい。他の種族は敵で、仲間は巨人(同族)だけ。俺はそういう世界で生きてきたんだから」


 アラーニェはリーゼの過去を知っている。

 だからこそ、それ以上彼を深掘りできなかった。


「分かった。ではもう一つの問題点だが……」


 そうしてアラーニェは今回の戦いで見えてきた幾つもの課題を提示した。

 それらを克服するためのダンジョンリニューアル案を皆で考える。

 彼らの横で、リーゼは強く拳を握りしめる。


「分かっている。今のままじゃ駄目なんだってことは」


 リーゼは自分の弱さを知っている。

 だが向き合えない。



 ◇



 十五時。

 二時間に渡る会議が終わり、アラーニェは深くため息をこぼす。

 未だ管理者室に残っているのはアラーニェと小町の二人。


「どうしてリーゼを責めなかったの?」


「責めただろ」


「でもすぐにやめたじゃん」


 アラーニェの隣に腰掛け、距離を縮める。


「アラーニェちゃんとリーゼって私が出会う前から一緒だったよね」


「そうだな」


「教えてよ。二人の出会いを」


 アラーニェは重たい口を開き、ゆっくりと過去を語り始めた。


「あれは、遠い過去の日、私は泣いているリーゼに出会った」




 ──アラーニェは過去を思い出す。


 ダンジョン領域ではあらゆる場所からモンスターが産まれる。

 アラーニェが産まれた場所は第六十区画にある〈紫怨龍の毒湖〉と呼ばれる湖型ダンジョン。

 紫怨龍と呼ばれるモンスターが生息し、アラーニェはそこで蜘蛛として産まれた。


「あれ、ここは……」


 通常、モンスターは知性を持たない。

 ただモンスターごとに欲望があり、その欲のままに生きる。

 貪り食うことが欲のモンスターや、強くなることが欲のモンスターなど様々だ。

 だが知性モンスターは独自の思考を持ち、その大半が生まれながらに高度な知能を有している。


「なるほど。私はモンスターとして生まれ落ちたということか。となるとここが第何区画か把握しておくべきか」


 時に経験していない記憶さえも有している。


「あれは……」


 アラーニェの視線の先に、武器を持った冒険者の一団。

 人と対峙した瞬間、アラーニェの脳裏に走る思考。

 頭に直接ネジを取り付けられたような感覚。

 直後に人間への敵対心がアラーニェの動きを駆り立てる。

 冒険者の数は四。

 アラーニェは自身が蜘蛛であることを自覚し、その特性をも理解していた。


 モンスター名、アラクネ。

 蜘蛛の姿と人の姿を行き来できる。

 人の姿になる場合は必ず女性である。

 アラーニェは人間の女性の擬態し、冒険者の前に現れる。


「おっ、ソロ冒険者か」

「バカか。仲間が死んでる可能性もあるんだぞ」


 配慮もなくそう言う男に、リーダー格の冒険者が気を遣うよう指摘する。


「やあ、こんなところで何をしているんだい」


 リーダー格の男が朗らかな笑みを浮かべて近づく。

 アラーニェは彼に近づき、キスをできる程の距離まで近づき──


「人間は、死ね」


 男の首筋を指で突き刺す。

 アラーニェは指先から男の首に毒を注入し、致死量に達した毒はたちまち男を死に至らしめる。


「……はっ!?」

「おいおいこいつ、冒険者殺しかっ!?」

「いや……」


 アラーニェはたちまち正体を現す。

 八本の足を持つ蜘蛛、彼女は毒を持ち、その毒を0.000009mg/kg摂取すれば大抵の人間は死に至る。


「モンスターだ!?」

「対毒属性魔法は使ったが……」

「今すぐ本隊に連絡を取ろうにも班長が死んだんじゃ……」


 彼らは大規模な冒険者連合の末端。

 第六十区画調査のために別行動を取っていたが、その瞬間をアラーニェに狙われた。

 とはいっても彼らは冒険者の中でも中間にあたる強さは持つ。

 ──が、彼らの統率者は今死んだ。

 その隙を、産まれたばかりのモンスターが狙う。

 蜘蛛の糸を音速で出して足を絡めとり、倒れた瞬間を狙って毒で濡らした足で攻撃する。たちまち三人の冒険者は致死量の毒を受けて死亡した。


 戦いの中で、アラーニェのある記憶が甦った。

 だがその記憶は一瞬にして消え、またモンスターとしての今を歩き出した。


「私はモンスター。人間はいらない」


 人に対しての感情は殺意だけ。

 それを胸に、アラーニェは歩き出す。



 ◇



 第六十区画のあるダンジョンにアラーニェはついた。

 天高く伸びる塔。

 そこから冒険者の一団が出ていくと同時、塔には亀裂が走り、崩壊していく。

 アラーニェはそれを見て理解した。

 ダンジョンが攻略されたのだと。

 千人を超える冒険者の一団が去っていくのを見送った後、アラーニェは興味本位で崩壊したダンジョンへ近づく。

 瓦礫の山には残骸ばかりが積もっている。


「そうか。みんな死んだか」


 残骸の中にはモンスターの死骸もあった。

 アラーニェは立ち去ろうとした。

 が、声がする。

 振り返り、声がする方の瓦礫を取り除いていく。やがて声の主が姿を見せる。


「巨人か」


 瓦礫の中には巨人がいた。

 とはいっても、まだ幼く、子供の巨人。


「君、大丈夫?」


「誰?」


 巨人はアラーニェを見る。

 その瞳には涙が浮かんでいた。


「みんな、死んじゃった。あの精霊魔法使いのせいで……。僕はこれからどうすればいい……」


 巨人はうずくまって涙を流し続ける。


「だったら私と来るか。ちょうど一人で寂しいと思っていたところだ」


 巨人は顔を上げ、目には光が宿る。


「……うん」


「私はアラーニェ。君は?」


「僕は……リーゼ」


「よろしくな。リーゼ」


 そうやってアラーニェはリーゼと出会った。

 アラーニェは知っている。

 リーゼは精霊が嫌いだ。

 自分が元々いたダンジョンは精霊魔法使いによって殺されたから。

 精霊と相容れない理由を分かっている。

 だがこのままではリーゼに危機が訪れるのは必然。


 過去を思い出したアラーニェは考える。

 どうすればこのダンジョンは強くなるのか、と。



 ◇



 十八時。

 アラーニェは仲の良いダンジョン管理者が管理するダンジョンへ足を運んでいた。


 〈蟻が喰らう地下帝国〉

 管理者は女王蟻。

 大きさはアラーニェと同じく赤子ほど。

 全身は赤みを帯びており、目はより真っ赤に染まっている。

 アラーニェと同じく知性があり、人の言葉を扱う。


「やっほーアリアネ」


「アラーニェ。私らのリニューアルを見ていくか」


「話が早いね。お願い」


 女王蟻アリアネは自分のダンジョンをアラーニェに案内した。


 〈蟻が喰らう地下帝国〉は地下にあるダンジョン。

 蟻型のモンスターが掘り進め、地下に複雑な要塞を作った。

 人が通れるほどの一本道が無数にあり、それらの道が迷路のように入り乱れ、幾つもの部屋に繋がっている。

 部屋ごとに、無数の蟻の中でも秀でた強さを持つ蟻が迎え撃つ。

 当然部屋だけでなく、通路でも蟻が襲ってくることがある。

 通路にはいくつかのトラップがあり、また落とし穴になっている部屋もあったりと、対冒険者の罠が幾つも仕掛けられている。


「やっぱアリアネのダンジョンってすごいね。どんなリニューアルをするつもりなの」


「これまで何度も冒険者に攻められたんだけどね、やっぱり私たちモンスターの特性を活かしきれてないと思ったんだよね」


「そうかな。結構活かせてるんじゃない?」


「私たち蟻型のモンスターは地面を潜る。でもこのダンジョンの道は壊されないよう硬土を使っている。だから潜れない」


「でも潜れるほどの土を使ったら冒険者に壊されちゃうんでしょ」


「ああ。だからこそ、硬土を使うところと使わないところの二種類を使うことにした。今まで通り全体を硬土で作りつつ、その隙間に私たちが通れるほどの大きさの小道を土で作っておく。私たちが通れるほどの隙間なら冒険者は通れないし、壊されてもそこだけだから意味がない」


「なるほど。そしたらよりモンスターの特性が活かせるのか」


 アラーニェは感心した。


「他にも幾つもリニューアル案は考えてあるよ。私の蟻型モンスターを産む能力で、新しい能力を持った蟻を産む」


「確か前来た時は十種類くらいいたよね」


「爆弾蟻や電撃蟻、透明蟻とかいたけど、今では更に十種類増えて二十種類になったね。でもまだこのダンジョンには穴があるから、その穴を産めるために氷結蟻を産もうとしてるんだよね」


「どんな穴なの?」


「ここって地下にあるから水攻めされたらまずいのよ。幾つか排水口はあるけど、それでもね」


「いやー、これほどの規模のダンジョンを埋め尽くす水なんて無理でしょ」


「どんな策で冒険者が攻めてきても私は勝ちたい。だからどんな策でも対策するよ」


「そっか。そうだよね」


 アリアネの考えを聞き、アラーニェは思い出す。

 自分がダンジョンの管理者に選ばれたのは、たくさんのモンスターが幸せに暮らせる場所を作りたかったから。


「全ての穴を埋める。そうでなきゃダンジョン管理者失格だね」


 アラーニェはアリアネのダンジョンを見て、さまざまなダンジョンリニューアル案を思いついた。

 それらを今すぐに試したいと思っていた。

 アリアネはもっと自分のダンジョンを見せながら話したかったが、それを悟った。


「私、これから新しい蟻を産むためにしばらく超睡眠状態に入るの。多分三十日は眠るから、また三十日後くらいに会いに来てよ」


「うん。今日はありがとう。また会いに来るよ」



 ◇



 二十時。

 アラーニェはリーゼがいつも寝床にしている岩場へ向かった。

 巨大な岩に仰向けに眠っているのは、あの頃から長い月日を経て、力をつけたリーゼだった。


「何だアラーニェ」


「起きてたんだ。てっきり寝たふりしてるかと思ったよ」


「分かってて煽ってんのか」


「だね。ちょっと二人きりで話すのは久しぶりすぎて導入が分からなくなっちゃったね」


「なんだそれ」


 リーゼは顔を向けない。


「今回の戦い、白銀は俺が倒すべきだった。だが俺は……昔のことが忘れられない」


「知ってるよ。その痛みは、簡単には克服できない」


「だが……克服しなきゃダンジョンは攻略されて、皆死ぬ」


 リーゼの脳裏に浮かぶのはダンジョンを攻略された過去。

 あの日、リーゼは全てを失った。


「分かっている。全部分かっている。だが、トラウマは消えちゃくれない。なあアラーニェ、俺はどうしたらいい」


 彼の声からは苦悩が伝わってくる。

 変わりたいと思ってはいるものの、変われない。

 今初めて、彼は自身の気持ちを吐露した。

 アラーニェは今までの絆が消えていなかったことを改めて感じ、ふと微笑む。


「そのままでも良いんじゃない」


「はっ!? そうしたらダンジョンが……」


「良いんだよ。だって、リーゼが皆のことを思ってくれているって分かったから」


 リーゼは頬を赤くする。


「でも、俺が変わらなきゃこのダンジョンは守れない」


「大丈夫。私はこのダンジョンの管理者。だったら私が新しいギミックや配置を考えればいい。今のままでも巨人の力が十分発揮できる場所を作ればいい」


 アラーニェは決してリーゼを責めない。

 むしろリーゼを受け入れた。


「私に任せて。最強のダンジョンにしてみせるから」


 そう言って、アラーニェはリーゼのもとから去っていく。

 リーゼはおもむろに立ち上がり、アラーニェを見る。


「待って」


「どうしたの?」


「お前はいつだって、俺の前を歩いてる。お前はいつだって俺を見捨ててくれない」


 リーゼは過去を振り返る。

 あの日、手を差し伸べられてからずっと、リーゼはアラーニェに支えられていた。

 食事もアラーニェが用意してくれた。モンスターの縄張りで戦闘を繰り広げ、リーゼも食べられるように毒なしでモンスターを倒した。火を一時間ほどかけて起こし、肉をじっくり焼き、巨人ということもあり肉の九割を分け与えた。

 人間による襲撃の際も身を呈して庇った。十人規模のパーティーに襲われ、リーゼを庇いながらアラーニェは戦った。その際、アラーニェの背中には火の矢を受け火傷を負った。本来避けられたはずの火傷は、リーゼへ当たるのを身体を使って庇った時にできた。

 他にもリーゼは様々なことでアラーニェに支えられた。

 彼がいなければアラーニェは既に死んでいた。


「この平穏がいつまでも続くとは限らない。だから俺は、最後まで後悔しないように生きたい。あの日の後悔を繰り返さないように、今度は──」


 アラーニェに誓う。


「俺がお前を守る。だから、俺がこのダンジョンの守護神になってやる」


 リーゼは拳を突き上げた。

 既にそこに幼い頃のリーゼはいない。

 前を向き、強くなろうとするリーゼがいた。


「リーゼ……」


 アラーニェはリーゼを我が子のように面倒見てきた。

 今、リーゼの成長の場の立ち会い、胸が熱くなる。


「この先このダンジョンは最強になるな」


 リーゼは笑い、アラーニェは泣いた。


「始めるよ。これからが本当のダンジョンリニューアル」



 ♧



 四十四時。

 長いダンジョンリニューアルを終え、このダンジョンは生まれ変わった。


 シュミレーションシステムにより、一万五千人の冒険者が再現された。

 新たに生まれ変わったダンジョン〈蜘蛛の煉獄〉へ冒険者が突撃を仕掛けた。


 森にいた精霊らは冒険者の侵入を感知する。

 精霊全体に情報が一瞬で行き渡り、ドリュアスはある巨人のもとへ行った。


「冒険者の侵入を確認しました。北から最も危険と思われる白銀の騎士団が来ます」


「あいつは俺一人じゃ勝てねえ。サポートを頼む」


 ドリュアスは驚き、聞き間違えたのではないかと疑った。

 歩く彼の背中を見つめ、変わったのだと理解する。


「そうですか」


 森にいた巨人は精霊と行動し、精霊の指示に従い動いている。

 木陰に潜み、冒険者を待つ。

 やがて冒険者が地面を走っていると、爆発音が響く。

 それは今まで森に仕掛けられていなかったはずのトラップだった。


「引っ掛かったな」


 彼は笑い、やがて全てのトラップを回避して進軍する人物と対峙する。


「来たな、白銀」


 全身を白銀の鎧で包み、白銀の剣と盾を構える。

 彼は冷静に俯瞰し、白銀の背後にいた四人の騎士を捉える。


「そうか。普通にいたのか」


 背後にいた四騎士が彼へ魔法をかける。

 二人がリーゼに対して敏捷性低下、視界のぼやけの魔法をかけ、もう二人の騎士が白銀に敏捷性強化、筋力強化の魔法をかける。


 白銀が飛び上がり、彼へ突撃する。

 振るわれる白き剣。

 その一撃は空を切り、重たい拳が白銀を撃ち抜いた。

 盾では防いだものの、衝撃に吹き飛ばされた白銀は森を転がり、地面に落ちた。


「このダンジョンは俺が守る。俺が、このリーゼが」


 彼、リーゼは地面に落ちた白銀を見る。

 リーゼは視界がほやけておらず、敏捷性は低下するどころか加速していた。

 リーゼへドリュアスや周囲の精霊が魔法をかけていた。


 敏捷性強化×3、筋力強化×3、耐久性強化×2、衝拳、拳聖、剣撃耐性、視界鮮明。


 それらの魔法を付与されたリーゼは白銀に匹敵する。


「凄い。白銀に一撃入れた」


 ドリュアスは感心する。

 白銀はすぐに立ち上がり、リーゼを見据える。


 背後にいた四騎士が更なる魔法を付与しようとするが、新たな巨人が現れ、四騎士の足止めを開始する。

 連携をとる巨人に翻弄され、四騎士は白銀に近づけない。


 白銀は一人でリーゼを相手にしなければいけない。


 先に動いたのはリーゼだ。

 巨石ほどの拳が地面を砕く。

 白銀は前進して回避し、リーゼの股下へ入る。

 白銀が目指したのは鎧に覆われたリーゼの足。

 リーゼは蹴り上げるように足を振るうが、白銀の剣の一撃に止められる。

 剣の直撃を受けても尚、リーゼの足は切断できない。


 白銀は切断を諦め、足を受け流した。

 力を込めていた足は大きく振り上げられ、それによって体勢は崩れる。

 その隙を白銀は逃さない。

 背後に回り込んだ白銀は大振りで剣を振るった。


 剣は謎の光を纏い、光を纏った剣は鎧をすり抜け、リーゼの背中に傷をつける。

 血が吹き出し、白銀の鎧に赤が混じる。


「さすがは白銀。だが、」


 背中を切られながらも、軸足一本で身体を回転させ、拳を振り下ろす。

 大振りにより回避は難しく、白銀は盾で受け止める。

 リーゼはそのまま地面へ向けて拳を振るった。

 白銀は拳と地面に挟まれる。

 拳を防ぐ盾には亀裂が走る。

 リーゼに付与された衝拳の効果により、盾には拳が触れる限り延々と衝撃が走る。

 やがて崩壊する盾。拳は落ち、地面には小規模なクレーターができる。


 そのまま拳を落とし続ける。


「後ろだ」


 ドリュアスが叫ぶ。

 しかし遅かった。

 光を纏った剣が鎧をすり抜け、リーゼの背中を深くえぐった。

 全身に駆け巡った痛みがリーゼの意識を飛ばす。


「リーゼっ!?」


 白銀は盾を捨て、目にも止まらぬ速さでリーゼの背後に回り込んでいたのだ。


 リーゼを見守る緑色の光。

 白銀は次なる標的を捉え、剣を向ける。

 剣には光が集まり、剣先から一点に放たれようとしていた。


 宙を浮く白銀。

 その背で倒れるリーゼ。


 消え行く意識の中で、白銀へ目を向ける。

 白銀が今ドリュアスを撃ち抜こうとしている。

 仲間が死ぬ。


 光は放たれる。

 だが全ては、リーゼに当たった。

 全身が痛みで痺れているにも関わらず、走ったリーゼがドリュアスを庇った。


「リーゼ……!?」


 光はまるで剣のようにリーゼの腹に風穴を開けた。

 今度こそリーゼは倒れた。


 リーゼのもとへドリュアスは近づく。

 今まで自分勝手に戦っていたリーゼに庇われ、ドリュアスは思う。

 彼は変わった。

 であれば、自分も変わろうと。


 ドリュアスは上位精霊。

 森に宿る千以上の精霊と繋がっている。

 今、ドリュアスはその繋がりを利用し、千以上の精霊の魔力の一部を集めていた。

 今まで行ったことはない。今初めて実践し、成功した。

 集まった膨大な魔力を利用し、ドリュアスはリーゼに魔法をかける。


 傷の完治。

 ならびにドリュアスが自身の全魔力を使った筋力強化。


 リーゼは起き上がる。

 白銀は剣に光を纏い、リーゼ目掛けて振るう。

 だがリーゼは攻撃を全て回避し、白銀のすぐ目の前まで拳を振りかざしていた。


「終わりだ」


 拳は白銀に直撃し、鎧を砕いた。

 振り上げた拳が白銀を遥か彼方まで吹き飛ばした。


「ありがとうドリュアス。お前がいたから勝てた」


「らしくないですが、それがこれからのあなたのらしさになっていくのでしょうね」


「そうかもな」


 ドリュアスの言葉に、リーゼは微笑む。


 白銀を失い、白銀の騎士団の士気が下がる。

 機を逃さず、精霊の士気のもと、白銀の騎士団へ巨人が畳み掛ける。

 巨人の多くが白銀の騎士団によって倒されたが、百以上の巨人を残して勝利した。


 その後、一万五千の冒険者と十時間かけて戦い、殲滅した。 



 ♧



 五十五時。

 アラーニェとリーゼは夜に包まれた森で、二人静かに空を見上げていた。


「勝ったな」


「まあ白銀の騎士団以外は弱い冒険者だったし、それに連携もとれていない。数だけいても、連携がとれるようになった巨人なら簡単に殲滅できちゃうよ」


「ああ。本当、簡単なことだったんだな」


 リーゼは夜空を見つめ、呟いた。

 その横顔をアラーニェは見つめる。


「やっぱ私、ダンジョン管理者になって良かったな」


「ダンジョン管理者ってどうやってなったんだ」


「選ばれたんだよ。いきなり私の脳内に声が届いて、ダンジョン管理者になるか否かの選択を迫られた。最初は面倒だなって思ったけど、居場所がほしかったから」


 ずっとダンジョン領域を旅しながら、各地を回る日々だった。

 その日々に疲れ、居場所を求めた。


「まあでも、あの日々も楽しかったね。二人きりで旅する人生も」


「どっちも楽しいよ。俺は、結局どっちの人生でも楽しいと思えた」


「そっか。なら良かったよ」


 ダンジョンリニューアルを終え、二人の距離はまた近づいていた。

 ダンジョンを作ってから、いつからか距離は離れていた。

 ダンジョン管理者として、一線を引いて接してきた。

 だが今、ただの友達として彼のそばにいる。


「ねえリーゼ、このダンジョンは終わらないよ。一生」


「当然だ。俺が守るんだから」


「だね」


 空を流れ星が通った。


「また星が降る日に、こうして話をしよう。ダンジョン管理者とモンスターじゃなく、ただの友達として」


「ああ。約束だ」


 星に誓った。




 やがて星が降る日、そこには誰もいなかった。

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