第21話 ハッピータイム
小太りは、自らがぶち撒けたメダルを1枚残らず拾って、中年にて渡す。拾っている最中も、せわしなく時計を確認している。小太りが場内巡回を離れてからすでに小一時間が経過していた。
(今日は散々だ。これで場内に問題でも起きていたら大変なことだ)
小太りは走ってスロット台に戻ろうとする。走っている時に、客の男に肩がぶつかった。振り返ることもせず、小太りは走り続ける。
遠くから赤髪が声を張り上げる。
「店員さーん!ズボン、大丈夫かー!?」
(何を言っているんだ!?)
小太りが立ち止まって後ろを振り返ると、小太りのズボンがずり落ちた。ベルトが切断されていたのだ。
(今日は散々だ)
バックヤードに走り、若手の男性従業員を呼び出した。小太りは彼からベルトを奪い取ると、自身の腰に巻きつけた。細身の男のベルトなので、ツク棒がなかなか穴に入らない。小太りは泣きそうな顔をしていた。
この小太りにとっての不幸は、そのまま海老名たちの幸運に変換される。
海老名は周囲を見渡し、表情を緩める。
(1時間半くらいが経ったか。それにしても、だいぶ当たったな。引きが悪くてあまり当たっていない人も、ドル箱3箱分。引きが強かった人は6箱分勝ってる。平均すると一人4〜5箱。やっぱりこの世界の設定6はスゲー)
海老名の台は再び当たり、メダルを吐き出す。思わず口元が緩んだタイミングで、後ろに気配を感じた。
振り向くと、青ざめた顔の小太りが立っていた。
「冷遇モードに切り替わりました」
「冷遇モードに切り替わりました」
「冷遇モードに切り替わりました」
「冷遇モードに切り替わりました」
仲間たちが打っている台から順番に聞こえてくる。途端に焦りが湧いてきた。確かに、全員のメダルを合計するとものすごく勝っている。ただ、仲間たちにはメダルを山分けした後、「気持ちばかりのお礼を」と求めている。今のままではウチエの弟を救うための5万枚に到達しない可能性が高い。
小太りはスロット場の端で打つ、ウチエの方へ向かっていった。
(おいおい、ウチエさんまで止められたら、)
思わず、小太りの後を追いかける。広い場内を端まで歩くのには1分弱かかった。視界の先にスロットを打っているウチエの姿が映る。
(なんだあれは、、)
思わず目を疑った。ウチエの後ろには、数え切れないほどのドル箱が重ねられていたのだ。
小太りが急いで近寄る。
「冷遇モードに切り替わりました」
ウチエの台から機械音声が聞こえた。
「んんんー。ここっチェ!」
冷遇モードの存在を知らないウチエは、力いっぱいレバーを叩こうとしている。
(ウチエさん、もうダメだよ。って、あれはなんだ!?)
ウチエの手が虹色に発光している。
トン
ウチエがレバーを叩く。
左リールの真ん中にチェリーが止まった。
(おいおい。中チェじゃねーか)
※中チェ 実際のスロットにも存在する、超希少役。丸一日打っても引けないことがほとんどである。




