第20話 魔法
「やれやれ。だいぶ時間を奪われてしまいました。場内は安全ですかね」
小太り店員が再び海老名たちの方へ向かってくる。八重歯の時間稼ぎのおかげで、全員の後ろには平均して2箱のドル箱が積まれてあった。
「おいおいおい、これはすげーよ。神様に導かれてるみたいに当たるじゃねーか。あのニイチャン、魔法使いか何かか?」
仲間たちが騒いでいる。
反対に、海老名はずっと焦っていた。
(時間稼ぎをお願いしたが、さすがに二人もそろそろ限界だろう。俺たちの台が冷遇モードに入れられたら、それ以上は当たらないだろうし、みんなからメダルを募ってもまだウチエさんを救えないか。また明日同じ作戦でいく?でもウチエさんの弟がいつ交換されてしまうかわからないし、小太りに目をつけられて最初から冷遇モードに入れられるリスクもあるか、、)
海老名たちの元に再び小太りが近づいてくる。
「なあなあ、そこのスーツの人、大変やで!」
「今度はなんだ?」
小太りが機嫌の悪さを全開に出しながら振り向く。
そこには赤髪がいた。
「おいおい、なんでそんな怒っとんねん。こっちは、あんたを助けようとしてるんやで」
「なんの話だ」
「あんたの腰についていた鍵、さっき盗まれとったで」
小太りは腰を確認し、顔が青ざめる。スロット機を開いて金を取り出すための鍵だ。
「おい!盗んだのは誰だ!お前か!?」
「おいおい、あんたを助けようとしてるって言うたやないか。ついさっき、ドル箱の中に鍵を隠して景品コーナーの方に向かっている男を見たで。このまま店から出るつもりちゃうかな」
「なんだと!?」
小太りは目を血走らせながら景品コーナーへ走る。
「おい!そこの男!待て!そのドル箱を見せろ!」
「え、なんですか?」
穏やかそうな中年が振り向く
「いいから見せろと言っている!」
小太りはドル箱を奪い取って、その場にぶち撒けた。鍵はない。小太りの顔が青ざめる。
「ちょっと、何してくれるんだよ!」
中年は怒っている。
小太りは途方に暮れている。しかし判断は速い。
(まずい、今日はここを閉場して、全ての鍵を付け替えるか。費用は痛いが、金を盗まれるリスクを考えると致し方がないか。まずは閉場)
「マスター!スロットの鍵が落ちていたって、先ほどお客さんが届けてくれましたよ!」
スーツを着た青年が駆け寄ってくる。手には、小太りが必死で探している鍵を持っている。
小太りは安堵した。
「おいおい、どんな事情があるか知らないけどよ、とりあえずこのメダル、あんたが全部拾えよ!」
中年の怒号で小太りは我に帰る。
「大変失礼いたしました。全て拾わせていただきます」




