番外編 その後の合コン
ホワイトデー当日。家から隣駅の集合場所まで歩いている途中で、彼女の携帯電話が鳴った。
「はいはーい!合コンキャンセルの電話かしら?」
「うん…!そう!今まで色々ありがとう!!」
電話は今日合コンに無理やりねじ込んだアンジュであった。
「という事は、彼と上手くいったのね!おめでとう!」
「エミリーは何でもお見通しね!また詳しい話は後で話すわ。合コン楽しんでね。」
「勿論よ。アンジュに負けてられないわ!じゃあ、彼にも悪いし、切るわね!じゃあねー。」
そう言って私は携帯電話を切った。親友の恋がようやく実った。こんなに嬉しい日は無い。
待ち合わせ場所に到着すると、魔術科学科長のロゼと魔術科医務室に勤務しているシェリーが既に到着している所だった。私は彼女達に手を振り駆け寄り、
「ロゼ~!やっぱり、メンバー変更無しでOKよ~。」
「そうじゃないと私が困る。さぁ、合コン、楽しもうじゃないか。ふふふ……」
獲物を狙うような目をして舌なめずりしている彼女を見ると、今から狩りでもしに行くのかと思ってしまうが…まぁ、彼女にとっては狩りの様なものか。
元々、お店には女性3名、男性3名としか予約をしていない。ちょっと 席のセッティングについては注文をつけたけど。
多分アンジュは来ないと思ったから人数変更しないで正解だった。その通りになって、本当に嬉しい。さて、今日の合コンはどうなるかしら…?
*********
「ノーチ先生!本当に副会長であるリム先生を差し置いて合コンなんて良いのでしょうか…?」
「いいんだよ!アイツは。最近なんか腑抜けてるし、美人なアンジュ先生に言い寄られていい気になっている罰だ。」
「はぁ…」
「最近元気無かったし、誘っても良かったんじゃ…」
俺がそういうと、職場のアローン会メンバーであり、同僚の友人2人が気の乗らない返事をする。
「折角、魔術科医務室のシェリー先生にセッティングしてもらったんだぞ!?あの綺麗なシェリー先生の事だから、他のメンバーも綺麗どころばかりだぞ!?誘ってライバル増えても嫌だろう?」
「そりゃそうですけど…」
「うーん…」
「今から女を狩りに行くのに、そんな気持ちでどうする!?俺は今度こそ彼女を作ってやるんだ!」
丁度、集合場所の最寄り駅へ電車が到着したため、俺達はホームへ降り改札をくぐった。そしてどこかしら気が乗らない表情の2人を連れて集合場所へ向かうのだった。
**********
集合場所は駅近くの青い屋根のレストランだ。店の前には3人の女性がいた。どうやら先に女性メンバーは到着しているようだった。
「すみません!遅くなって…」
そう声をかけた瞬間、女性メンバー3人が俺達の方を振り向いた。俺はその3人の内の一人を目にした瞬間、回れ右をしてしまった。
「あれ?他のメンバーはロゼ先生とエミリー先生でしたか!」
「女性講師の中でも綺麗どころとして有名な先生方とご飯ご一緒出来るなんて夢の様です!」
同僚二人は喜んで居るが、俺はそれどころでは無い。冷や汗が止まらない。
「すまん、俺は帰る………!!!」
「誰が帰るって…?婚約者殿?」
「ひぃーーーー!!!!!」
「ノーチ!!貴様、今日こそは赦さん!!!親同士が決めた物とは言え、勝手に『アローン会』とか意味の分からん会に入っていたり、アンジュ先生達に鼻の下を伸ばしてるお陰でどれだけ私が親族の中で居心地悪い思いをしてると思う?ん?今日はちょっと久しぶりに楽しく話し合いをしようじゃないか…。」
「え!会長、婚約者さんいたんですか!?それもロゼ先生だなんて!まさか会長が裏切り者だったとは!」
「今すぐメンバーに連絡をせねば…」
そう言って同僚2人は携帯電話でこそこそとどこかへ連絡を取ろうとしている。
「お前ら待て!こいつとはそんなのでは無い!こいつも言っていたでは無いか!親同士が勝手に決めた許嫁だ!俺は認めていない!」
確かに俺とロゼは婚約者同士である。ロゼの方が一つ年上であるが、貴族である親同士仲が良く、俺が5歳、ロゼが6歳の時に婚約した。昔は俺達も仲が良かったが、ロゼが魔術師として有能でどんどん出世していくのを見て、俺は彼女に敵わないと早々に悟り、そこからあまり関わらないようになっていった。彼女の才能に嫉妬し、劣等感を抱いたのだ。
ただ、そんな彼女に唯一勝てるものがあった。それが闇魔術だった。だから闇魔術だけ鍛えまくった。何度も死にかけたが、いつか彼女より、出世してやる!と本気で頑張った。
その結果、闇魔術を教える講師として学園に迎えられ……いつの間にか彼女の部下になっていた。初めて学園に出勤するまで、自分の上司が婚約者のロゼだとは知らなかった。こんな屈辱は無い。
「…昔は『お前は俺の嫁だからな!』って言っていたぞ。」
逃げようと暴れる俺に向かって、ボソリというロゼ。それを聞いた二人は若干殺気を込めた目で俺を見る。そんな事を言った記憶はあるが、5歳の時だぞ!?何年前だと思ってる!
「まぁ、まぁ、2人とも。ここはお店の前だから早く中に入ろ?」
そうにこやかに言うエミリー先生。
「…それもそうだな。行くぞ。婚約者殿。」
「い、嫌だぁーー!!!!」
頑張って逃げようとしたが、俺が何もかも負けている彼女にかなうわけも無く、店の中へ引きづられていった。
その後、エミリー先生やシェリー先生、同僚2人が楽しく話している中、俺はロゼと二人で別に設けられていた隅の席へ座り、全く楽しくない話し合いが行われた。
始めは俺に対する説教が殆どだったが、お酒が進むにつれ、「私が可愛くないからか?アンジュやエミリーの方が可愛いもんな…」とか「昔は仲良くしてくれたのに、何で急に冷たくなったんだ?私、何かしたか?」とか自虐に走るようになった。
一応、俺は彼女が泣き上戸であることを知っていたので止めたのだが……何か隣から視線を感じる。
「おい、お前ら。こいつどうにかしてくれ。」
俺は隣の席でニヤニヤと俺らを見ていた4人を見て助けを求めたが、
「あらあら!婚約者殿がどうにかしてくださらない?」
「そうですよ。婚約者殿。」
そう言って、4人とも相手にしなかった。
「今度は誰に色目を使ってるんだ?シェリーか?エミリーか?それとも…そこの同僚2名か?」
今まで机に突っ伏していたロゼが急に起き上がったと思ったらそんな爆弾発言を投下した。
「え、会長。俺達のこと狙ってたんですか?」
「ごめんなさい。俺は無理です。」
同僚二人は若干俺と距離を取り、完全に引いた顔で俺を見た。
「やめろ!俺はノーマルだ!!!」
俺は全力で否定した。
「そうか……シェリー、エミリー。すまん、私とこいつ抜けるわ。ちょっと違うところでゆっくり話し合いしてくる。」
そう言うと、俺の首根っこを引っ張り俺を店の外へ引きづっていった。
**********
……結論だけ言おう。俺は彼女に『喰われた』。それはもう美味しく。
レストランから出たあと、連れ込み宿に連れていかれた俺はそのままベッドに押し倒され……あとは想像の通りである。俺は抵抗出来なかった。国へ申請する必要の無い低級魔術だけでも男一人拘束することは可能なのか…とぼんやり思っていたくらいだ。
もう明け方になろうとしている時間帯だが、俺の隣で彼女は気持ち良さそうに産まれたままの姿で寝ている。
「幸せそうに寝やがって……俺でいいのかよ。」
そう呟きながら彼女の頬に触れる。
俺が彼女の婚約を嫌がったのにも理由があった。彼女は俺の初恋の人である。嫌いになるはずが無い。それどころかいつも一生懸命に頑張る彼女をどこかに閉じ込めてドロドロに甘やかしてやりたい…自分しか目に入らないように…そんな劣情を抱いてしまう程だった。
しかし、そんな綺麗で優秀な彼女は、本来こんな冴えない男より良い男が選び放題のはずである。そう思って俺は彼女を避けたのだ。彼女が俺以外の選択肢を選べるように、そして俺自身彼女にこれ以上惚れ込まないように。
しかし、結局彼女は自分より劣り、こんな劣情を抱いてしまうような男を選んでしまった。
「お前は馬鹿だなぁ…」
そう言ってすやすやと寝ている彼女の黒い髪をそっと撫でる。
しかし、これで俺も逃げられなくなった。彼女も俺も貴族である。婚約者とは言え、彼女を傷物にしておきながら結婚しないというのはありえない。そんなことしたら家から追い出される。それ以前に男としてそんなことはしない。
俺は彼女を抱きしめ、次起きたらやるべき事を考えながら、そして幸せを噛み締めながらもう一眠りした。
……そして、彼女の絶叫した声で目を覚ました。
*********
「きゃー!!!!!え、何。私…え!?あ、あの後…うわぁ…マジかぁ…」
「お、おい。朝から叫ぶのは辞めてくれ。耳が…」
「あ、ごめん。」
ようやく彼女は起きたようだ。昨日の事を覚えているのか、「女としてありえない…」と布団の中で頭を抱えているようだ。
「ほら、起きるぞ。休みとはいえ、やることがいっぱいだ。」
そう言って俺は上半身を起こし、ポンポンと彼女が包まる布団を叩く。
「え?」
布団から顔だけ出し、彼女はぽけっとした顔で俺の方を見た。いつも親族の前や職場ではキリッとした彼女しか見ていなかったので、そんな珍しい姿にくすっと笑ってしまう。
「やっちまったもんはしょうがない。着替えた後、お前の親の所に行くぞ。順序間違えてるって怒られるんだろうよ…ったく。」
「え!?」
「…俺でいいんだろ?」
自分で言うのも恥ずかしくなり、つい彼女から顔を背ける。
「当たり前だろ!」
そう言って彼女は泣きながら俺を抱きしめるのであった。
**********
その後、俺らはロゼの家へ向かうと丁度俺の両親も遊びに来ていた為、4人に結婚する事にしたと報告した。両親らからは「ようやく身を固める決心がついたか!」と大層喜ばれた。
次の日の出勤時には学園長を始め、他の講師にも結婚する件を報告した。学園長や貴族出身の講師以外、俺らが婚約者同士と知らなかったので、かなり驚かれた。リム先生も御付き合いという過程をすっ飛ばし、結婚する事になったらしく、ダブルで祝われた。
ちなみにアローン会から脱退するのにあたり、俺と同じタイミングでアンジュ先生と結婚することになったリム先生と俺の二人は他のメンバーから『祝福』という名の集団リンチにあった。リム先生は彼女に骨折や大きい傷に関しては治療してもらったようだが、
「私、治癒魔術出来ないよ?頑張れ。」
と、ロゼに言われてしまった。ロゼに頼まれたのか、エミリー先生に骨折だけは治して貰ったが。
*******
今日はとうとう結婚式。
『祝福』の怪我が完治した後、俺は結婚式の準備に翻弄された。怪我の間は彼女や俺達の家が動いてくれていたが、俺もやらない訳にはいかない。仕事では彼女は上司。俺以上に抱える仕事は多い。
「まさかこんな日が来るとはな…」
結局、彼女から逃げようとして、逃げきれなかった様だ。初恋は実らない…そんな事を言ったのは誰だろうか。俺の初恋は実ろうとしている。
「新郎様。新婦様の準備が出来ましたよ?御覧になりますか?」
そう言われて、俺は彼女の控え室へ向かい、扉を開けると…
「ノーチ!ど、どうかな?」
白いウェディングドレスに身を包んだ彼女が居た。裾が広がったマーメイドドレスで、少し上品な刺繍があしらわれている。あまり派手なものを好まない彼女らしいデザインだったが、彼女によく似合っていた。
あまりにも綺麗で…俺は声が出なかった。ようやく我に返り、
「綺麗だ。それ以外言葉が浮かばん。すまんな。」
そう言って、俺は彼女から顔を背けた。顔は真っ赤に違いない。
「いいよ、その言葉とその顔で充分だ。」
そう言って彼女は明るく笑う。そんな彼女を見て、再び俺は幸せを噛み締めるのであった。
~End~
お読み頂きありがとうございました。
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