番外編 嫁の家へのご挨拶
「良かった!」と思われた方は評価やコメントして頂ければ嬉しいです|˙꒳˙))後ろ向きなコメントは.......筆者、豆腐メンタルなので、そっとしておいて下さい...m(_ _)m
「何で私の実家から行くことになるんですの!」
「お前が悪いんだろ!?それにお前の家の方が格上で、俺の家とは違って何も知らされてないから急いで向かってるんだろうが!?」
親達への挨拶をすっ飛ばし、婚姻届を出してしまった俺達は、真っ直ぐ俺の家へ行こうとする彼女を強引に引きずり、彼女の両親が住む領主様の館へ向かっていた。
そりゃ、俺だって段階を踏んで婚姻届を出したかったさ。先に領主様の所へ行こうと、役所の前を通りがかった瞬間、彼女は急に駆け出して役所の中へと入っていったのだ。
「え、まさか逃げられた?」と呆然とした俺だったが、彼女が先に婚姻届を出したがっていたこと、彼女自身がその婚姻届を所持していたこと思い出し、慌てて後を追った。
.......が、既に遅く提出し受理された後だった。きちんと自分で書類を記入していたということもあり、提出を撤回する訳にもいかなかった。隣で『撤回なんてしないわよね?』という目で微笑んでる人もいたし。俺は肩を落としながら、取り敢えず彼女の頭を軽くこずいておいた。
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俺が彼女を引きづり領主の館へ到着すると、俺達に気付いた門番が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「お前!何やってる!?お嬢様を離せ!!」
「すみません、私は.......」
門番に主の娘に乱暴を働く不審者と間違われた為、弁解しようとしたその時、
「ハンス!彼は私の夫です。不審者ではありませんよ!」
俺に首根っこを掴まれながら、そう彼女は言った。
「お前、ちゃんと説明しろよ.......!」
案の定、門番ハンスさんは混乱してしまったようだった。当たり前だ、いつの間にか主の娘が恋人だったら兎も角、夫を連れて帰って来たのだから。
「ちょ、ちょっとそこで待っていて下さい。」
そう言って慌てた様子で門の近くに備えられていた電話の元へ行き、誰かと話し始めた。しばらくやりとりしていたようだが、ようやく通話が終わった。ハンスさんはこちらへ駆け寄ってきて、
「領主様が直接こちらにいらっしゃるので、しばらくお待ち下さい。」
と、申し訳なさそうに俺を見た。あの目は、『お嬢様が迷惑を掛けて申し訳ない』という目だな。こういう事は日常茶飯事なのだろう。気持ちは分かる。俺はそっとハンスさんに向かってそっと謝罪の意を込めて会釈した。するとそれに気付いたのか、『こちらこそすみません』とでも言わんばかりに会釈を返された。
そうこうしている内に、館の扉が勢いよく開いたかと思えば、鬼の形相をした領主様と、穏やかな顔をした領主様の奥様が出てきた。領主様はこちらに気付くと猛ダッシュして来る。
「ほら!怒ってるじゃないか!!」
俺は思わずアンジュを掴んでた手を離してしまうくらい焦ったが、仕方が無い、娘さんを貰うのだ。不可抗力とはいえ、先にご挨拶もせず、婚姻届を出したのだから殴られて当然だ。そう思い直し、身構えていたら、
「この馬鹿娘ーーーーーーーーーー!!!!!!!中々意中の男性に振り向いてくれぬからといって襲って既成事実を作るとは何事だ!?優秀な若者の将来を駄目にするとは.....恥を知れ!!!」
そう言い放ってアンジュに飛び蹴りをした.......が、もちろんそれを甘んじて受ける彼女ではない。自分の周囲にちゃっかり「物理防御」の結界をはっている。いつの間に.......。
「お父様!そんなことをした覚えはありません!」
「抜かせ!お前がバレンタインデー前に媚薬を取り寄せとったこと、私が知らぬとでも思ったか!」
そう言って、結界をドンドンと殴って壊そうとする領主様。残念ながら壊れないのだが。でも待って、俺も媚薬のことなんて知らない。え、この気持ちに偽りは無い....はずだ。
「彼の前でそんなこと言わないで下さいまし!取り寄せたのは事実ですが、まだ使っておりませんわ。あくまで最後の切り札として使うつもりでしたので。」
自分の気持ちが媚薬によるものでないことに安心したが.......もし俺への恋が叶わなかったら、合コン行って諦めるって言ってたのは嘘か。
「それに、お前が独断で役所に婚姻届を役所に提出したこと、領主である私が知らぬとでも思ったか!役所の役人が一部始終全て語って、本当に受理して良いか確認に来たんだぞ!?」
「え!受理しましたと聞きましたわよ!?」
確かに受理したと聞いた。俺は受け取った控えの用紙を改めて確認し.......
「あれ?認印が抜けてる....」
本来、公的書類は複写されこちら預かりの物になるものも含めて、最後に役所側の認印が押される事になっており、それが抜けていたら手続きは無効になる。
それを聞いたアンジュが俺から控えの用紙を奪い取り、血走った形相で確認した。
「ちっ!浮かれすぎて確認を怠りましたわ。」
舌打ちするアンジュ。俺の嫁、怖い。あ、書類受理されてないならまだ嫁では無いのか。
「当たり前だ!一度受理したフリをしろと命令しておいたのだ。彼の様な常識人ならお前と違ってきっとここに来ると思っとったからな!」
そう言って、俺を見る領主様。そこまで買いかぶられると何か申し訳ないんだが。
「それってどういう意味ですの!?」
そう言って父親に噛み付くアンジュ。しばらくこのやり取り続くのか...どうしようかと右往左往していた時だった。つんつんと俺の右腕をつつく人がいる。誰だろうと思って振り返ると、領主様の奥様、つまりアンジュの母親が俺の目をじっと見ていた。
「すみません。ご挨拶が遅くなってしまって。」
実際、付き合う事になったのは今日なのだが、受理されていないとはいえ、婚姻届を先に出したこちらに非がある。怒られるのを覚悟で謝罪をすると、
「.......貴方!この方『魅了』にはかかってないわ!」
アンジュ母は嬉しそうに夫へ向けて声をあげた。そして、
「私、相手の目を見たら状態異常起こしている人が分かるのよ。状態異常は何一つ起こしてない!良かった!本当に娘の事を好きでいてくれるのね。」
そう言うと、プチパニックを起こしている俺の両手を掴んできた。さらりと凄いこと言ってるけど、相手の目を見て状態異常が分かるって、無意識下で『鑑定』の魔術使ってるってことか?それとも噂に聞く魔眼?都市伝説だと思ってたんだが。
すると領主様も、
「『魅了』にかかっておらんだと!...よかった....あの馬鹿娘も人としての一線は超えておらんなんだ.......本当に良かった......。」
そう言ってほっとして力が抜けたのかその場でしゃがみこんでいる。
「失礼ですわ.......。」
そう言ってアンジュは結界を解き、不機嫌そうに領主様に背を向けそっぽを向いている。どうやら拗ねているようだった。
「本当にあの子で良いの?悪い子では無いけれど、貴方、あの子が学生の時から振り回されてきたでしょう?」
俺の手を掴んだまま、そう恐る恐る尋ねる奥様。気のせいだと思うが、掴んだ手の力は凄い。『逃がさない』という意思さえ感じる。
「私の事、ご存知だったのですか。」
「もちろんよ!娘が小さい頃の様に元気になったのは貴方があの子自身と向き合ってくれたおかげだもの。まぁ、少しお転婆過ぎるのだけど。」
そう言って少し苦笑する奥様。俺は何をした覚えもないんだが.......?
「君に申し訳なくて、こちらからご令嬢を紹介しようとも思ったんだが、娘に妨害されてしまってのう。本当にすまなかった。」
いつの間にか立ち上がっていた領主様は、そう言って頭を下げてきた。
「領主様、頭を上げてください!私は気にしていませんから。それよりもご報告が遅くなり申し訳ありません。娘さんとの婚約を飛ばしていきなり結婚ということになってしまい.....大層驚かれましたよね?本当に申し訳ありません。」
本当は自分の出会いがいつの間にか彼女により潰されていた事は少し気にしたが、彼女とのお付き合いに対して色々順序が間違っていることや、彼女の暴走を止めることが出来なかったのは俺に責任があると感じていた為、素直に謝罪して頭を下げた。
「そんな!そちらこそ、顔を上げてくれ。どうせ全ては娘のせいなんだ。君が気にしなくてよろしい。むしろ良いのか?アレで。」
「いきなり結婚でも大丈夫ですよ。貴方が貰ってくれないと一生結婚出来ない子ですから。お見合い話が出ても嫌なら私達を通して断ればいいのに、私達に変な気を回して毎回向こうから断らせるようにしてしまうので、変な噂が広まってしまって。お見合い話も最近は無くて困っていたんですの。」
そう言って苦笑するアンジュ両親。
「もちろんです。もしお互い両親からの許可が降りれば結婚したいと思います。もし婚姻届が受理されていないなら、私の親にもきちんと対面で挨拶した上で再度提出したいと思いますので、数日保留にして頂いても宜しいでしょうか?」
「分かった.....しかし、返品は出来ぬぞ。」
「何言われても返す気は無いですよ。御安心下さい。」
俺の心をまだ少し疑っているのか、かなり念を押してくる領主様に対し、俺は苦笑しながらそう答えた。アンジュの父である領主様は俺の言葉にほっとしたのか、軽く俺の肩を叩き、
「娘を頼むぞ。.......よし、今日は宴だ!リム君、是非とも参加しなさい。拒否権はないぞ!ははは!」
と言って早足で館へ入っていった。するとアンジュ母も、
「まぁ、素敵!急いで準備しないと!」
そう言って夫の後を追いつつ、使用人達に指示を出している。俺は無事に彼女の両親に結婚が認められたことに安堵し、ほっと一息ついていると、傍にいたアンジュが俺をギュッと抱き締めて、
「『返す気は無い』って言って貰えて嬉しかった!ありがとう.......!」
そう言って俺の胸に顔を押さえながら恥ずかしそうに言った。俺は彼女の頭を撫でながら、
「どういたしまして。俺の家にも挨拶行くぞ。」
と、少し照れながら言った。すると、
「貴方の家族には明日御挨拶行きますって伝えてあるから。」
と、満面の笑みで返し、俺に背を向けて、自分も館の中へ向かった。
「俺、そんなの知らないんだけど!?」
俺は思わずそう叫び、慌てて彼女の後を追うのだった。
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次の日、俺の実家へ行くと俺の家族総出で嫁が大歓迎を受けたり、彼女が学生時代から俺の実家に出入りしていたことを知るのは...また別の機会で。
~End~
【おまけ】
リム「ところで、君、お見合い相手の方から断らせるって、影でいったい何をしてたんだい.......?」
アンジュ「常連の患者さんに治療代をまける代わりにちょっとお願いしてるだけですよ。(ニコリ)」
リム「お前の患者さん、チンピラだらけだろうが。だからスラム街で『女王』と言われるんだぞ。」




