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第一章 最終話「それでも、残るもの」







朝の光が、静かに差し込んでいた。




そこは、もう戦場ではない。








風が穏やかに吹き、








小さな緑が、揺れている。




トシノリは、しゃがみ込んでいた。




手には、水差し。




目の前には――








レモンバーベナ。




「……なんでだろうな」








ぽつりと、呟く。




「これ、見ると……落ち着くんだ」




理由は、分からない。




だが、








心が、少しだけ軽くなる。




そこに、








足音が近づく。




「トシノリ」




声。




振り返る。




白い存在。




穏やかな瞳。




どこか――








懐かしい気がする。




「……あなたは」




一瞬、間があって――




「誰ですか?」




ルルは、微笑む。




「ルルです」




静かに。




優しく。




「あなたと、一緒に旅をしてきました」




トシノリは、首を傾げる。




「……旅?」




記憶には、ない。




何も、ない。




だが――




胸の奥が、わずかに揺れる。




「……そうか」




それ以上は、思い出せない。




それでも――




不思議と、嫌ではなかった。




トシノリは、もう一度、水をやる。




葉が、揺れる。




香りが、広がる。




その瞬間――




ぽろりと、








一粒の涙が落ちた。




「……あれ」




理由が、分からない。




悲しいわけじゃない。




寂しいわけでもない。




それなのに――




涙が、止まらない。




「……なんでだろうな」




ルルは、何も言わない。




ただ、隣に立つ。




少しだけ、距離を保って。




「……なあ」








トシノリが、もう一度聞く。




「俺たち、どこを旅したんだ?」




ルルは、少しだけ空を見上げ――




そして、答える。




「たくさんの場所を」




それだけ。




具体的なことは、言わない。




言えない。




トシノリは、しばらく考え――




やがて、小さく頷いた。




「……そっか」




また、水をやる。




レモンバーベナが、揺れる。




風が、吹く。




その中で――




トシノリは、ふと顔を上げた。




ルルを見る。




そして、もう一度、問う。




「……あなたは、誰ですか?」




ルルは、微笑む。




変わらずに。




ずっと、同じように。




「ルルです」




その声は――




どこまでも、優しかった。




そして、




少しだけ、








悲しかった。


挿絵(By みてみん)




(最終話・了)

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