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第二章 第九話「歪みの核」

そこは、“場所”ではなかった。


空間が存在していない。


上下も、前後もない。


ただ——


無数の“何か”が漂っている。


「……ここが」


義経は息を吐く。


感じる。


すべてだ。


これまで救い、失い、歪めてきた結果。


それが、ここにある。


「辿り着いたな」


影の声。


だが姿はない。


「ここから先は、お前一人だ」


その瞬間。


漂っていた“何か”が動いた。


集まる。


絡む。


形を成す。


それは——


人のようなもの。


無数の顔。


無数の声。


重なり合う存在。


「返せ」


一つではない。


無数の声。


「返せ」


「返せ」


「返せ」


義経は動かない。


「お前が奪った」


「お前が救ったせいで」


否定はできない。


「……そうだ」


義経は静かに言う。


「俺がやった」


空気が揺れる。


「なら」


声が重なる。


「返せ」


「すべて、元に戻せ」


正しい要求だった。


誰にも否定できない。


だが。


義経は首を横に振る。


「できない」


即答。


「何故だ」


歪みが膨らむ。


空間が軋む。


「俺は」


義経は一歩踏み出す。


「もう選んだ」


「救うと決めた」


「なら、その結果も引き受ける」


歪みが唸る。


「ならば」


低い声。


「すべてを背負え」


次の瞬間。


すべてが、義経へ殺到した。


痛みではない。


記憶。


死。


喪失。


絶望。


“存在の総量”。


人間が受けるには多すぎる。


「ぐっ……!」


膝が落ちる。


視界が崩れる。


だが、離さない。


「まだだ……!」


歯を食いしばる。


「全部……背負うと……言っただろうが……!」


叫び。


その瞬間。


流れが変わる。


歪みが止まる。


いや。


収束していく。


一点へ。


義経へ。


「……来い」


静かな声。


受け入れる。


拒まない。


それが選択だった。


光が弾ける。


意識が沈む。


崩れていく。


それでも。


最後まで、手を伸ばす。


そして。


静寂。


何もない。


音も、光も、境界も。


ただ一つ。


そこに“義経だったもの”が、わずかに残っていた。


それは、存在ではない。


“選択の痕跡”だった。

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