第二章 第八話「辿り着く資格」
空気が、変わっていた。
一歩進むたびに、世界が歪む。
道はある。
だが、それはもはや現実ではない。
景色が揺れる。
山が崩れ、次の瞬間には元に戻る。
川が逆流し、空へ落ちる。
「……ここか」
義経は足を止めた。
見えている。
あの時視た“歪みの糸”。
それらすべてが、前方へ収束している。
「核は近い」
影の声。
「だが、その前に一つだけ確かめる」
空気が凍る。
次の瞬間。
世界が“切り替わった”。
音が消える。
風が止まる。
そこは。
「あの夜……」
すべてが終わるはずだった場所。
そして――
本来なら、義経が死ぬ場所。
「最後の問いだ」
影の声。
すぐ近く。
「もう一度やり直せるとしたら」
「お前は救うか?」
目の前に、“あの瞬間”がある。
倒れかける自分。
迫る終わり。
そして――救った結果としての崩壊。
「今なら選べる」
影は静かに言う。
「何も救わなければ」
「何も壊れない」
「お前も死に、弁慶も消えない」
完全な正解。
誰も傷つかない世界。
だが。
義経は動かない。
沈黙。
「……同じことを聞くな」
ぽつりと。
「答えは決まっている」
一歩踏み出す。
“あの瞬間”へ。
「俺は救う」
迷いはない。
「何度やり直しても」
「同じ道を選ぶ」
空気が震える。
世界が、砕けた。
ガラスのように。
音もなく。
元の歪んだ現実へ戻る。
影が立っている。
「……合格だ」
それは、肯定ではない。
選別の結果だった。
「ここから先は」
影の声が低くなる。
「本当に戻れない」
前方。
歪みがすべて集まる場所。
空間が裂けている。
そこが“核”。
義経は歩き出す。
迷いはない。
救いも、代償も。
すべて引き受ける。
そして――
その先に。
“終わり”がある。




