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「よく来たね、エルーナ。見ないうちに大きくなったね」



 出迎えてくれたのはエマニエル伯父様一人だけだった。


 金髪に碧眼。通った鼻筋に薄い唇。

 まるで物語に出てくる典型的な王子様のように見えるけど、着ている服は平民とさしてかわらない質素なものだった。

 

 私のお父様は30歳。伯父様はそれより年上のはずなんだけど、どうみても20代前半にしか見えない。

 髪はサッラサラで、肌はピッチピチである。


 あれかしら? 空気の良い場所で過ごすと老化が遅くなるのかしら。



「お久しぶりです。エマニエル伯父様っ!」



 私は馬車から降りるとエマニエル伯父様に飛びついた。

 2年ぶりの再会である。



「あっ、ぐっ! エルーナっ……。と、とても、とても大きくなったね。

 昔は抱き上げられたのに、今はもう無理なようだ……」



 伯父様の胸に飛びついたはいいものの、どんどん伯父様の体が地面に沈んでいく。

 昔はそのまま抱き上げて、くるくるとその場で回ってくれたのに……。

 紫色の顔をして、ひきつった笑顔を浮かべている伯父様。



「お嬢様。エマニエル様が苦しがっておられます」



「あ、ごめんなさい、伯父様!」



「い、いいんだよ。そ、それより、そちらの方はどなたかな?」



 私は伯父様から少し離れて、ジェーンに目で合図をした。

 ジェーンはこくりと頷くと



「お初お目にかかります。わたくしはエルーナ様の侍女のジェーンと申します。

 エルーナ様の身の回りのお世話をファウスト様より仰せつかっております」



「僕はエマニエル。知っていると思うけど、エルーナの父ファウストの兄で、この領地の経営をまかされているよ」



「はい、大体の詳細はお伺いしております」



「そう、良かった。なんせ、ここには僕一人しか住んでいないから、どうしようかなって思ってたんだよ」



 えっ?

 今、なんて?


 私はすかさず話に割り込んだ。



「エマニエル伯父様? この大きなお屋敷に『おひとり』で住まわれているのですか?」



 2年前は私と両親、そして双子のユリアとロベルトの5人で、この屋敷に暮らしていた。

 部屋数だって数えたことはないけれど、かなりあると思う。


 その頃、エマニエル伯父様はこのお屋敷の近くに住んでいて、通いでお父様の仕事を手伝っていた。

 メイドもたくさんいたし、料理人だっていた。

 庭師だって雇っていたはずなんだけど……。



「ほら、ファウストたちが王都に行くっていったら、使用人たちも行きたいってなって、ほぼ全員行ってしまっただろ?

 新しく雇おうにも、僕はずっと一人暮らしだったから、血縁者以外の人と住むのは性に合わなくてね。

 かといって、この屋敷を空けておくわけにもいかないし」



「な、なるほど……」



 体が弱い伯父様はずっと独身で、浮いた話がひとつも出てこない、真面目を絵にかいたような人だった。

 もちろん、その浮いた話というのは女性だけでなく、男性に対してもである。



「実をいうと最近忙しくて、先日エルーナ達の荷物が先に届いていたんだけど、まだ荷解きできてないんだ。

 すまないけど、よろしく頼めるかな?」



 えっ……。

 ていうことは、もしかしてお部屋の用意もできてないってこと……?


 王都からこの領地まで馬車で丸3日。

 慣れない旅路でかなり体はクタクタ。


 でも、そんなことは言っていられない!

 最低限、寝る部屋ぐらいは綺麗にしておきたいっ!

 さもなくば、私とジェーンは固い板張りの床で、一夜を過ごすことに……。


 この時の私は、近くの宿に泊まるという概念をまったく持ち合わせていなかった。

 けど、宿は村の隣にある街まで行かなくてはいけないし、どちらにせよ掃除はしなければいけないのだから、これでよかったのだと思う。



「ジェーンっ! 急いで部屋を片付けましょう!」



「え? は、はい、お嬢様っ!」



「ごめんねえ。僕もなんか手伝うよ」



 あははと笑いながら、駆け足で屋敷の中へ向かう私とジェーンの後ろをついてくるエマニエル伯父様。

 伯父様って仕事はできるけど、のんびり屋さんだったのをすっかり忘れてた。



 とりあえず、今日の寝床確保しなきゃ!


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