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そして時は過ぎ、王家のパーティー会場にて。
ワインレッドの絨毯が敷き詰められ、豪華なシャンデリアから眩いばかりの光がそそぎ、淑女たちのジュエリーに反射して目が痛い。
お父様やお母様はあいさつ回りにどこかへ行ってしまい。私はひとりお留守番。
王家主催ということもあり、警備は抜かりがないので、子どもをほったらかしても安心というわけである。
そんなわけで、一人で楽しく肉祭りをしていたのに、突然この国の第一王子ジュリアス殿下がお出ましになったわけだ。
開口一番「おまえなんかと結婚するくらいなら死ぬっ!」という言葉に一気にHPを削られる。
一体どこから湧いて出てきたんだ?
「今日は肉かっ! ブタのような体で、肉を食うのかお前はっ!」
ブタだからって、肉を食っちゃいけないっていう法律はないでしょうがああぁ!
という言葉は胸の奥にしまっておく。
今日くらい肉を許してくれたっていいじゃないか。
王都最後のパーティーのお肉なんですぞ。
にしても、この状況は困りものである。
私は前世の記憶をもっているけれども、王族相手の礼儀というのを知らない。
今の私も殿下と同じ7歳であるけれども、この7年間の私は淑女のお勉強を全くしていなかった、いわゆる怠け者のご令嬢だったわけで。
一応ことわっておきたいのは、前世の記憶を思い出したのは、つい一週間前。
今の私が怠け者だったというわけではない、ということを声を大にして言いたい。
しかし、どうやってこの場を切り抜けよう。
私は緊張の中、口内にある肉をまず飲み込み、手に持った白い陶器のプレートとフォークを静かにテーブルに置いた。
もちろん、山盛りのお肉たちには「あとで食べるから心配しなくていい」と心の中でウィンクをする。
音を立てずにゲップをし、心を落ち着かせ、ジュリアス殿下のほうへ体の向きを変えた。
「ま、まずは家名を名乗ることをお許しください、ジュリアス殿下」
「……」
カーテシーとやらは出来ない。
家庭教師からはさんざん指導は受けているはずなのであるが、私のこの贅肉たちが許してくれないのだ。
膝を折った瞬間に後ろにバランスを崩し転げるに違いない!
私はゆっくりとした所作で、右手を胸にあて、頭を下げる。
前に転げるのを防ぎ、そして後ろにも倒れない。
7歳にしては大きい身長130㎝にして、7歳にしてはちょっと重量級の50キロはあるとみられるこのアンバランスな体を、なんとなく謝っている感じを漂わせることができる、すばらしい姿勢。
なんか、騎士っぽい姿勢。
「わたくしはシェルトネーゼ公爵家が長女エルーナ・ヴェル・シェルトネーゼでございます。
この度は、王家主催のパーティーにお招きいただき、誠にありがとうございます」
見よう見まねだけれど、最初の口上ってこんなものだろうか?
ジュリアス殿下を盗み見れば、なんか得体のしれない生き物に遭遇でもしたような、とても驚いた顔でこちらを見ている。
よし、何も言ってこないうちに、とっとと言いたいことだけ言って逃げよう!
「この度は婚約者候補としてわたくしの名があがっておりますが、先日体調を崩し、我が領地であるマルタナ村へ療養をかねて、しばらく王都を離れることになりました」
「えっ……」
「つきましては、すでに我が父であるシェルトネーゼ公爵よりアスタナ国王陛下へ婚約者候補辞退をお願いしているところであります」
ジュリアス殿下の戸惑いの声が聞こえたが、もう押し切って言い切る。
「殿下とは今宵が初の謁見となりましたが、このようなご報告で大変遺憾に思われることでしょうが、なにとぞご厚情賜りますよう、お願い申し上げます」
自分でも何を喋っているのか、よく分からない言葉になってしまったけれど、意味がなんとなく伝わればいいし、きっと王家とは今後関わることがないから、大丈夫だよね!
妹のユリアはがっつり関わると思うけど、私は隠居生活をエンジョイしよう。
「……俺はお前と結婚しなくてよいのか?」
こんだけたくさん私が丁寧にへつらっておられるのに、返す言葉がそれか……。
そうだよね。殿下としては私と結婚したくないから怒ってたんだもんね。
回りくどく言わずに、
『具合悪いから、結婚できなくなっちゃった、てへっ♪』
ぐらいのほうが、分かりやすくて良かったのだろうか。
でも、周りに人がいるし、変なことを言ったら不敬とかで公爵家のメンツが潰れたりしたら、いやだしなあ。
「そうでございます、殿下」
「嘘つけっ! そういって、ぬか喜びをさせて、最後はお前がウェディングドレスとやらを着て出てくるんだろう!」
おっと……。
なぜ、そうなる。
急に顔を真っ赤にして怒り出す殿下。
「知ってるんだからな! お前と結婚しないと俺が国王になれないって! ヘイゲル宰相が母上にいってたんだ!」
なんてこった。
子どもにそんな大人の事情を盗み聞きされるなんて!
この国の一番見せちゃいけない嫌な部分ですやん!
「殿下、どうか落ち着いてくださいませ。宰相はそうはいったかもしれませんが、私自身が無理なのです」
「といって、菓子を貪り食うんだろう! この背油ババアがぁぁぁぁ!!」
私は胸に手を当てていた手を頭にかかえ、背油ババアって言葉を殿下に教えやがった相手を呪った。
大きな声で叫ばれたものだから、周りの大人たちもわらわらと集まってくる。
お父様もようやく騒ぎに気付き、私をその場から引きずり出した。
「殿下がご乱心だ。 エルーナ、お前何を言ったのだ?」
「いえ、わたくしは何も……。ただ、殿下はわたくしとの婚約を望んでおられないようでしたわ」
私がそういうと、お父様は一瞬固まり、深く息をついた。
「そうか。陛下からはお前の療養と婚約の辞退は既に了承を得ている。
王都で最後のパーティーがこんなことになってしまったが、悪い思い出も後になってみれば、よい思い出となるだろう」
ならねぇよ。
そんなわけで、ジュリアス殿下と私のファーストコンタクトは最悪な形で終わった。




