プロローグ【サイドA】4
胃痛に慣れてきた私は、深いため息をついて横になる。隣のベッドで安眠するトリシャの寝返り音が聞こえるほど静か。
今日の協会との会合を振り返り、やはり眠れなくなる。
導師達と相対するベルが淡々と話をして。制約魔術まで使って真偽を確かめて、それでようやく今後の処遇の話し合いだった。
ずっと秘密にしていた出自を全部伝えた理由を問われたら、ベルはほんのりと笑っていて。
『……いつか、こうなるのではと思ったことはありました。罪はどこかで償わねば帳尻は合わないって。それが、裁かれないものだったとしても、私にとっては罪だったから』
そして、続けざまにするどい目つきで吐き捨てた言葉に色々な人の面影をみた。
『だから、利用する相手には容赦しません。それに、私は協会で生きて死のうと決意してここまで来ましたので』
自分の意思をはっきりと言い切れる彼女は強い。
私にはとても無理だ。
そっと起き上がり、トリシャを起こさないように抜け出した。気分転換に散歩でもしようか。協会都市はもう見尽くしたから城壁外でも……そう考えているとキドナ達につつかれて振り返る。フィロガのそばにいた子達が彼の元へ連れて行こうとすることが増えた。
私には理由が分からない。『赤鴉』はおそらく分かって、そして放置。『私』に関しては考察するだけ無駄。
誘導されるままに向かうと、高台の広場に着いた。誰かいる気配はない。ただの戯れだったのか。
手持ち無沙汰になり協会都市を見下ろす。建物の配置がリスリヴォールの首都に似ている。幼い頃に一度だけ訪れたあの都市が記憶に残るなんて不思議だ。
「……なんでいるの? 先回りでもした?」
呆れた声に応えず星を眺めていると、フィロガは隣に立つ。私の教えた魔術をもう使いこなしていた。
気落ちしているけれど全く声音に表れていない。本当は誰にも気付かれたくない気持ちなのだろう。私には伝わっている事を良しとしないのか少しだけ攻撃的になっている。
「故郷でも懐かしんでるの? 前もそうだったよね」
「別に。眠れないだけ」
「本当にそれだけかな」
「色々とありすぎるだけ」
彼はキドナを否定するからそう誤魔化して目を伏せた。後ろめたさが魔術の効果で知られている。お互い様だとは私も彼も割り切れていない。
会話を断ち切ろうと歩き出す。本当に静かな夜で私の音が響く。
結局、フィロガのことはよく分からない。実は破廉恥な行為をしても平気だったり、しかし相変わらず他の女性に怯える。そして、私が恋人なのは確定という噂に変化している……本人は否定しないから余計に話がややこしい。
今回の調査が終われば彼のことについては別の人に引き継ぐつもりで。一時的な処置なだけで、所詮は切れる縁のはずだった。
そう、『私』がいなければ。
ここが一番どうしようもない部分だった。非常に際どい関係性になりかけている。密室で二人きりになると私も彼も何かが――何かが狂いだすようで。
いや、何も、考えたくはない。彼との関係については、健康に悪いから考えないように遮断した。




