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プロローグ【サイドB】4

 じわじわと焦りを感じつつも日々を過ごしている俺は、フィールドワークを終えてハル達と研究室に帰った。


「今回も問題なし!」

「ようやく日常が戻ってきましたね」

「本当だよー、あ、でもコンペの準備もすぐ控えてるから結局働き詰めかぁ」


 世間話をしつつハルとサリアが片付けをする。俺も報告書を書かなくちゃね。

 珈琲とお茶請けのプルルコンポートを用意して鋭気を養っていると、ハルがプルルを一口食べた。


「おいしいですね、どこの店ですか?」

「あー、これはメアの手作ーー」

「撤回します、甘すぎですね」


 サリアの悋気を瞬時に察知して言い直す姿は潔いくらい尻に敷かれている証拠だね。俺も鋭い視線が怖い。

 おかしいな、俺達が付き合ってる説をサリアは知ってるのに。もしかして嘘だってばれてる?

 冷や汗と共に残りを食べて切り替える。帰りに事務所に寄ってため息をついた。

 サリアの勘の良さは油断ならない。魔族のことだってうっかり吸魔の瞬間を見られたら怪しまれるだろう。


 仮眠を取った俺は、ジェイクの自宅に向かった。スヴェンコフ家の屋敷じゃなくて、本人が買った方の一室だ。商業区のギリギリ境目、昔からある魔術師用の住宅地。最初に協会へ来た頃はこの辺りで住まわせてもらったから懐かしい。

 ノックする前に扉を開けられる。


「お、フィロガだな、入れ」


 相変わらずの気配の察知能力で頼もしい。密会となれば余計にね。

 作り置きのつまみを渡して部屋を眺める。最低限の家具と魔物のはく製。ジェイクって見た目と違ってかなりマメだから手入れも行き届いている。


「で、だ。捜査状況を知りたいって話だが、俺も一部しか知らされてないぞ」

「それでもこちらよりは情報があるんじゃないかと思って」

「……導師にもお前の行動が筒抜けって分かってるよな。心証下がるぞ、それ」

「今更ですよ」


 板挟み状態で苦い顔をするジェイクには悪いなと思ってる。導師だって協会魔術師としての俺を信用はしてない。保護者としての心配はされてるかもだけど。


 ため息をついて彼は酒を煽った。


「リリーが狙われた本当の理由は分かんねぇ。制約魔術を適用してもマリヨンは私怨だと説明したらしい。咎められない程度の蹴落としは昔からで説得力があった」

「あの子はやられっぱなしでしょうからね」


 妹はどうでもいいのかその手の悪意は放置する。俺が半分くらいは根回しして芽を潰してるんだけど、さすがに『剣』の内部まではできないから自分でやってほしい。甘えているのか……違うな、諦めている。


「まぁ、そうだな。同じ兄としては同情するが、あの子の勤務態度もまぁまぁ問題ありだから仕方ねえな」


 ばっさりと言い切るジェイクはつまみを食べて俺を褒めそやした。冗談で魔術師になる前に料理人になれって諭されたこともあったなぁ。


「そんで、お前の時は誤解だな。実行犯はスヴェンコフ狙いっつーか、ありゃお袋狙いだった」

「え、俺とは接点ありませんよね?」

「お使い頼んだだろ。あれで勘違いしたらしい。ポルガエデン出身じゃなきゃ知らねぇやつが混ざってたんだと」

「だとしても少し探れば俺が違うって分かりそうですけど……」

「まともな精神状態ならな。そうだな」


 いたわるジェイクの目に俺は曖昧な笑みで流す。運が悪すぎるよ。

 改めてジェイクははっきりと言う。


「まぁ、黒幕は協会の機密を中途半端に齧ってるやつだろうな。お袋のことを正しく知ってたら絶対狙わない。それだけは言える」


 沈黙が降りる。

 黒幕、か。秘密裏の調査が何かしらの内部犯を検挙するためのものというのはだいたいの魔術師は気付いているだろうね。聡い連中は主犯格に手が出せていないってことも。

 またグラスに手を伸ばそうとするジェイクを制して見つめる。深酒をする時は、非常に言いづらいことを言おうとする時だ。例えばアウトな情報漏洩だとか。

 危ない橋をお互いに渡り続けて数年だけども、もうそれもやめたほうがいい。そろそろ見切りをつけるべきだ。

 今の俺にそこまでしてもらうほどの価値はない。遠からず協会から俺は居なくなる。

 だから気に病まないでほしいんだ。彼にも。


「……今までありがとうございました」


 酔い始めたジェイクは目を覆って天井を仰いだ。俺の意図が伝わったからか、ひどく小さなつぶやきしか聞こえない。


「お前にどう償えばいい。お前の人生を狂わせた俺達はどう」


 答えを持たない俺は無言になる。平気だと告げたところで、過去の行いから俺が少なくないショックを受けたと彼は知ってしまっている。

 それに、吸魔の影響か。

 俺は悲嘆するジェイクを見ることに仄暗い嬉しさも感じる。理性で考えたら本当に自分が気持ち悪いけど、起きている現象としては、そう。

 急激な感情の変化を観察しながらすぐに帰った。

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