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うれおきかごと  作者: 貝月 恵芙


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どこからきたのか知りたいお話

伊吹の家の衝撃的な現状を知った次の日。

やはり井吹は学校に来ていなかった。

「井吹…家には帰ってきたのかな…。」

朝、登校するとすぐに美生の机にやってきて目の前にかがみ込み、小さめの声で話はじめる。

「わかんないけど。今日も行ってみよう。」

あの家にまた行かなきゃいけないのかと思うと正直なところ、嫌だと言いたい。

あんな気味の悪い場所は二度とごめんだと思う。

思うけど。

「伊吹がどうなったか知りたいもんね。」

友達が関わっている。それも、昔からの親友が。

「先生にも後でも一回聞いてみるよ。」

予鈴が鳴り、話はそこまでになった。

当たり前だけど授業どころではない。

テストが終わったばかりだからか周りの生徒たちの雰囲気も集中力が感じられない。

きっとそれに輪をかけて自分は集中力がない。

伊吹の話が頭から離れない。

『ねぇ。知ってる?』

その言葉から始まるあのお話には、よく考えたら中途半端なところが多すぎる。

学校の近くの路地という曖昧な場所の表現、聞こえると言う音についてもどんな音なのかはっきりとしない。

もっと多くの情報を盛り込んだ方が信憑性も上がるし、怖さも増すのではと思う。

一体、誰がなんの目的でこのお話を広めようとしているのだろう。

そんなことを考えていたら放課後はすぐにやってきた。

その分、今日の授業がおろそかになっていることは言うまでもないが。

気がつくと明日花が教室に見当たらない。

そういえば今朝、先生に何か聞いてくると言ってたような。

少し待つことにする。

「お待たせ美生。」

数分して明日花が戻ってきた。

「どうだった?先生なんか言ってた?」

美生の問いかけに明日花はなんとも言えない顔をする。

「ほとんどなにも知らないみたい。私たちが昨日見たことも知らなかったみたいだし。」

「伊吹が家にいないこと?」

「それとか家のあの状態も。伊吹のお母さんもさ、毎日電話で休みますってすごく普通のトーンで連絡してくるらしい。」

「昨日もそうだったもんね。あんまり暗くないっていうか、なんか深刻な感じがないっていうか。」

「それは私も思ったんだよね。」

二人で教室を出ながら話を続ける。

「でも、先生も同じ感じ。あんまり真剣に捉えてないって感じ。高校に入ったばかりだし、馴染めないのかもしれないみたいなさ。」

煮え切らない返答が明日花には気に入らないみたいだ。

「なに?馴染めないって。そんなので休みような伊吹じゃないじゃん。」

「先生は私たちよりも伊吹のこと知らないからね。しょうがないんじゃない?」

「まぁ、それはそうだけど。でも、さすがに昨日家に帰ってないかもって言ったら顔色変わってた。家に連絡してみるって。」

「言ったの?伊吹が家にいないこと。」

「話の流れでさ、言っちゃった。」

まぁ、私たちが言わなくてもいずれわかることだ。

「それって今日の連絡がなかったのか、それともいないことは言わなかったってことなのかな。」

昨日の夜に伊吹が戻ってきていて今日も休みの連絡だけしてきた可能性はあるが、なんとなく腑に落ちない。

変な感じがする。

「とにかく今日も行くでしょ?」

明日花の質問にすぐに返事ができない。

それでも。

「行こう。」

やっぱり気になる。

昨日と同じように校門をでて伊吹の家へと向かう。

家の前まで来てみて今日はまじまじと様子を窺ってみる。

すると、昨日と違う感覚が美生を襲う。

玄関周りはそうでもないが、ここから一部が見える庭にゴミの袋のようなものが置いてあるのが見えた。

ここから見える範囲でも一つや二つではない。

家の中で出たゴミをそのまま庭に放り投げているのだろう。

そんなことをする家族では決してなかった。

「誰もいないのかな。」

呼び鈴をいくら鳴らしても誰も出てくる気配がない。

しんと静まりかえっている。

突然、門扉を開いて玄関まで明日花が歩いていく。

「明日花。ダメだよ勝手に。」

小さな声で嗜める。

流石に聞こえないのかそのまま玄関ポーチまで進み開けようとする。

ガッ。

鍵のかかっている音がする。

「やっぱりいないのかな。」

数回その動作を繰り返すと、踵を返して戻ってくる。

「やめなよ。」

「ごめん。でもやっぱり気になるじゃない。」

明日花のいうことも最もだけど、昨日も感じたここにいたくないという感覚がまた襲ってきていた。

「もう行こう。伊吹もやっぱりまだ帰ってきてないんだよ。」

「そうっぽいね。」

美生は後ろ髪を引かれている明日花の手を引いて、昨日よりはゆっくりのペースで伊吹の家を後にする。

途中で伊吹の母に会う事もなく、心の奥でホッとする。

昨日と同じ公園でブランコに二人で腰掛ける。時間が早いせいでまだ明るいから怖さはない。

「どう思う?」

「どうって伊吹の家?」

「いや、それもあるんだけどさ。昨日から私ずっと考えてたんだ。伊吹が言ってた話のこと。」

『ねえ。知ってる?』のことを言っているのだろう。

「私も。ずっと考えてた。あれってなに?」

「だよね。初めて聞いたし。この高校にだけ流行ってる話なのかな?中学の時には聞いたことすらなかったでしょ?」

確かにそうだ。校区がそれほど離れているわけではない。だから私たち三人は一緒に進学したのだ。

「出所ってさ。どこなんだと思う?」

「そんなの・・・。」

そう言われてふと考える。どこかの路地がどうとか。

「お話の中にある路地の辺りとか?」

「そうなのかな。やっぱりヒントもその話の中にあるってことかな。」

明日花が言うことに賛成だと思う。

「ねえ。私たちで探しでみない?」

「え?」

「あのお話の続き。私あると思うの。だってあんなによくわからない曖昧な話だけじゃ誰も気にも止めないと思わない?」

「確かにそうかもしれない。」

「でしょ。きっとあるんだよ。」

「でもさ、調べていくうちに私たちも呪われたりしない?」

「何言って。そんなこと・・・。」

二人の間に沈黙と冷たい風が吹き抜ける。

「そんなわかなけないっか。」

明日花は自分の考えを振り切るようにおどけたような声を出す。

「そんなわけないよ。でもさ。」

美生は真剣な顔をして明日花を見る。

「伊吹がいなくなったのとこのお話は絶対に関係がある。それは事実だと思う。」

こくりと明日花が頷く。

「だから伊吹のためにもちょっとやってみない?」

少し間を空けて明日花は大きくブランコを漕いで言う。

「やろう。私たちで伊吹を見つけよう。」

二人で決意のブランコを漕いで別れた。

明日から『ねえ。知ってる』の紐解きが始まろうとしていた。

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