第71話 家畜の世界
【保有DP:40,420】
【侵食率:7.5%】
【ダンジョンランク:B】
【階層数:5】
樹界王ユグドラとの会談は、巨大な樹木の上で行われた。
正確には樹木ではない。
森そのものだ。
彼女が座る場所を中心に、周囲数キロの森林全体が一つの生命体のように脈動している。
その光景だけで七王の格が分かる。
オークキングとは比較にならない。
同じ王でも別次元だった。
「さて」
ユグドラがこちらを見る。
「何から話そうかしら」
「一番重要なことからだ」
俺は即答した。
「神について」
その瞬間。
ユグドラの表情が変わった。
フィリアも反応する。
リリスも。
スイだけはよく分かっていない。
「いきなり核心ね」
ユグドラが苦笑する。
そして。
静かに言った。
「人間は家畜よ」
沈黙。
フィリアが固まる。
「……は?」
当然だった。
俺も予想外だった。
「どういう意味だ」
「そのままよ」
ユグドラは淡々と続ける。
「人間は神界が管理している」
「王国も」
「帝国も」
「教会も」
「全部」
空気が重くなる。
フィリアの顔が青くなっていた。
今まで信じていた世界そのものを否定されているのだから当然だろう。
「馬鹿な」
「馬鹿じゃない」
ユグドラは即答する。
「なぜ英雄が生まれると思う?」
その言葉に。
俺は反応した。
英雄。
ヴァルグ。
レオナ。
アルバート。
全員異常だった。
才能だけで説明できる強さではない。
「神の力か」
「正解」
ユグドラが頷く。
「神界が選ぶ」
「神界が与える」
「神界が育てる」
そして。
「必要なくなれば捨てる」
フィリアが黙り込む。
俺も少し考える。
確かに辻褄は合う。
英雄だけ異常に強い理由。
教会の権力。
王国の統治。
全て。
背後に神界がいるなら説明できる。
「何のために?」
俺が聞く。
すると。
ユグドラは空を見るように視線を上げた。
「管理よ」
「管理?」
「世界の」
その一言が重かった。
◇◇◇
しばらく沈黙が続く。
そして。
ユグドラはさらに爆弾を投下した。
「あと数年で神界軍が降りてくる」
空気が凍る。
フィリアが立ち上がる。
「何ですって!?」
ユグドラは平然としている。
「正確には三年後」
「周期だから」
意味が分からない。
だが。
嘘ではない。
そう直感できた。
「何のためだ」
「収穫」
ユグドラは答える。
「人間世界の」
「地下世界の」
「魔力資源の」
俺は目を細めた。
なるほど。
そういうことか。
神は守護者ではない。
支配者でもない。
農場主だ。
世界そのものを管理し、定期的に収穫する。
だから人間は家畜。
そういう理屈だった。
「だから七王は準備している」
ユグドラが言う。
「だから深層主も動いている」
全て繋がった。
ネクロパラサイト。
地下世界。
七王。
深層主。
全部。
神界という存在へ向いていた。
「つまり」
リリスが口を開く。
「七王は神界と戦うためにいる?」
「半分正解」
ユグドラは笑う。
「半分は自分のため」
正直で良かった。
信用できる。
少なくとも綺麗事を言う相手ではない。
◇◇◇
そして。
ユグドラは最後に俺を見る。
「だから聞くわ」
翡翠色の瞳。
七王の一角。
樹界王。
その視線が俺を射抜く。
「あなたは何をするの?」
普通なら答えは決まっている。
神界と戦う。
世界を守る。
人類を救う。
そんな感じだろう。
だが。
俺は俺だ。
だから答えも変わらない。
「簡単だ」
全員が俺を見る。
「神も喰う」
沈黙。
フィリアが頭を抱える。
リリスが苦笑する。
スイは嬉しそうだった。
そして。
ユグドラは数秒固まった後。
大笑いした。
「ははははは!」
森全体が揺れる。
木々が笑っているようだった。
「面白い」
七王が笑う。
「本当に面白い」
そして。
初めて。
樹界王は俺を対等な存在として見た。
「なら証明してみなさい」
その瞬間。
新たな表示が現れる。
【特別クエスト更新】
【七王を統べよ】
【達成数:1/7】
俺は静かに笑った。
神界軍まで三年。
だが。
俺は待つ気などなかった。
その前に。
七王も。
地下世界も。
全部喰う。




