第7話 初めての強敵
【保有DP:30】
【配下モンスター】
・スイ(ポイズンスライム)×1
・ゴブリン×2
侵入者反応が現れた瞬間、俺はこれまでとは違う緊張感を覚えた。赤い光点は四つ。だが問題は数ではない。動き方が違った。入口へ足を踏み入れた直後から周囲を警戒し、隊列を崩さず、常に互いを援護できる距離を維持している。
ミリアたちのような新人ではない。
おそらくギルドが派遣した調査隊だろう。三人もの冒険者が帰還していないのだから当然だ。むしろ五日も動かなかったことの方が意外だった。
俺は侵入者たちを観察しながら、自分の戦力を改めて確認する。スイが一匹。ゴブリンが二匹。そして落とし穴が二つ。
正直、心許ない。
もしこの場で真正面から戦えば負ける可能性が高いだろう。だがダンジョンマスターは正面から戦う存在ではない。罠を張り、敵を誘導し、情報を集め、少しずつ有利を積み重ねる。それが本来の戦い方だ。
ならばやることは一つしかない。
「止まれ」
先頭を歩いていた剣士が低い声で仲間へ指示を出す。全員が即座に足を止めた。その動きには一切の迷いがなく、日頃から連携を訓練していることが見て取れた。
剣士は足元を観察し、近くの小石を拾い上げる。そして何気ない動作で前方へ放り投げた。
直後、床が崩れ落ちる。
落とし穴だった。
「やっぱりか」
「新人が消えるだけの理由はありそうだな」
「警戒を続けろ」
俺は内心で舌打ちした。
新人ならまず引っ掛かっていた罠だ。だがこいつらは違う。危険を疑い、確認し、安全を確保してから進む。その慎重さこそが生存率の高さに繋がっているのだろう。
同時に理解した。
これが本来の冒険者だ。
アルドたちが弱かっただけで、人間という種族そのものを侮ってはいけない。
だが、だからこそ面白いとも思った。
簡単に死ぬ相手ではない。
だから殺す価値がある。
そう考えている自分に気付き、少しだけ驚く。
以前の俺ならこんな発想はしなかったはずだ。
それでも否定する気にはなれなかった。
生き残るためには強くなるしかない。そして強くなるためには侵入者を倒すしかないのだから。
落とし穴を回避した冒険者たちがさらに奥へ進む。その先で待機していたゴブリン二匹が一斉に飛び出した。
知識だけなら新人冒険者以上だ。
アルドとロイドから得た剣術や戦闘経験を共有している。
だが知識と実力は別物だった。
剣士の斬撃はあまりにも速い。
一体目の首が一瞬で宙を舞い、そのまま壁へ叩き付けられる。もう一体は盾役へ飛び掛かったが、体勢を崩されたところへ魔術師の火球を受けた。
炎に包まれたゴブリンは短い悲鳴を上げ、そのまま動かなくなる。
【配下モンスターが死亡しました】
【配下モンスターが死亡しました】
戦闘は十秒も続かなかった。
俺はその結果を冷静に受け止める。
悔しさはある。
せっかく生み出した戦力だ。
だがそれ以上に収穫が大きい。
こいつらは強い。
少なくとも今の俺が正面から勝てる相手ではない。
だからこそ罠と奇襲が必要になる。
そして、その役目を果たせる存在が一匹だけいた。
スイだ。
ポイズンスライムへ進化したスイは壁際を滑るように移動し、誰にも気付かれることなく天井近くまで到達していた。
俺は命令を出していない。
それでもスイは理解している。
誰を狙うべきか。
誰を最初に潰すべきか。
まるで長年連れ添った相棒のように。
次の瞬間、スイは魔術師の頭上へ落下した。
「なっ!?」
肩へ張り付いたスイは、そのまま首筋へ絡み付く。魔術師は慌てて引き剥がそうとするが、すでに毒は体内へ流れ込んでいた。
顔色がみるみる悪くなり、呼吸が荒くなる。杖を握る手にも力が入らなくなり、足取りも明らかに不安定だった。
「毒だ!気を付けろ!」
剣士が叫ぶ。
その声には初めて焦りが混じっていた。
ようやく脅威を理解したのだろう。
スイは正面から戦わない。弱い相手を狙わない。最も厄介な敵へ飛び付き、確実に戦力を削る。
そして、その判断は正しかった。
魔術師が機能しなくなっただけで、冒険者たちの余裕は目に見えて失われていく。
俺はそんな様子を眺めながら、ふと考える。
スイは本当にただのスライムなのだろうか。
最初は運良く生き残っただけだと思っていた。だが今は違う。こいつは賢い。戦況を理解している。そして何より、俺が期待する以上の結果を出している。
もしかすると将来、俺の最強の部下になるのはこいつかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった。
その時、冒険者たちの意識がスイへ集中する。
俺はその瞬間を待っていた。
残された最後の落とし穴を発動する。
床が崩壊し、盾役の身体が真っ直ぐ闇の中へ落下した。
悲鳴が響く。
続いて聞こえたのは肉と骨が砕ける嫌な音だった。
【侵入者を撃破】
仲間の死を目の当たりにした冒険者たちの顔色が変わる。
恐怖。
焦燥。
動揺。
侵入時にあった余裕はもうどこにもない。
そして俺は理解する。
今、この場で追い詰められているのは俺ではない。
こいつらだ。




